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「国家が相手の駆け引きだから、小手先の手は通用しないことは理解してくれ。」
そう俺が戸栗氏に念を押すと
「それは覚悟させるしかない。」と戸栗氏。
「現在の状況を最大限に生かすには、アイバ・戸栗・ダキノとしての婚姻によるポルトガル国籍の申請とアメリカへの帰還申請の取り下げ、そして、ポルトガル国籍からのビザ申請によるアメリカ渡航申請への手続き変更を大至急行う事。特にポルトガル国籍取得と帰還申請の取り下げは直ぐにでも行わなければならないこと。そうなれば、「国家反逆罪」を成立させてまでの暴挙を取るだけの名分が無くなることになる。但し、アメリカ国内に入国は相当な年月が流れなければ難しくなる。親子が再会するには五大湖の向こう側のカナダで落ち合うことが出来るまでお預けになるだろう。
しかし反面、娘さんはどん底の状態で助け合う事が出来たご主人と添い遂げることができるし、仕事があれば生活もしていける。
そして仕事は日本の大田村商事の傘下の企業に能力にあった仕事を用意できると思うし、能力次第では楽に暮らしていけるだけの賃金は稼げると断言できる。それに、あと数年もすれば過去の事をほじくり返す暇人は余程少なくなる状況に、アメリカ全体が巻き込まれている可能性が極めて高い。それはここに居る松川さんも同意している。松川さんは極めて質の高い外交官でソビエトが戦前入国拒否を帝国政府に表明していた人物だ。」
俺の言った言葉に戸栗氏は思わず目を見開いて松川さんをまじまじと見ることになった。
「松川さん。Mrシミズの話は間違いないですか?」と戸栗氏。
「ええ、私自身大将のこと、ああ私はMrシミズのことを大将と尊敬と親しみを込めて呼ぶので許して欲しいのですが、大将の考えを聞いているとまるで未来の世界を予言するかのように、世界の動きが手に取るように見えてくる時があるのです。
私は大将が恐れている事は、まず現実として起こるのではないかと見ています。娘さんのこともかなり高い確率で現実となるのではないかと。娘さんがアメリカ国内に連れて来られたら、何としてでも司法を裏で操る人間が娘さんの罪を作り上げてしまう現実を否定できる力は日系社会にはないという状態が現在の正当な位置づけです。」と松川さん。
「分かりました。どうか日本にいる娘にお力添えをお願いいたします。」そう言って戸栗氏は深々と俺たちに頭を下げた。
その後大至急で手紙を書き上げて、至急便で東京にいる代議士の青木幸三氏に顛末を説明して、大田村商事の子会社の貿易事務としてアイバ・戸栗・ダキノとご主人を採用するような形を実現してもらうようお願いする手紙を付けた。また、アメリカ国籍のからの離脱手続きを素早くGHQにお願いしてもらうことにした。
後はお嬢への手紙であるが、全米一の人口を誇る日系人社会のボスである戸栗氏との友好関係は大いなる商機に繋がることと、無実の罪を着せられて夫とも二度と会えなくなる未来をほんの少しの心遣いで回避できるなら俺たちの未来も少し幸せに包まれるのではないかと手紙する事にした。ただ、日本に帰った後はさぞ強烈なレバーブローが来るかもしれんなあ。覚悟!




