288
「戸栗商店」を訪れると、丁度、戸栗氏が店にいて仕事をしていた為、挨拶が出来る事になった。
「初めまして、私はアメリカオオタムラカンパニー(AOC)の副代表として、アメリカに赴任してきました松川萬圃という者です。
シカゴ日系人会の代表者とお伺いしてご挨拶に寄せていただきました。現在は日本に作られるものについては、粗悪品の廉売品としての商品イメージが敵性国家であった時のまま受け継がれていますが厳選した品質管理の下作られる新商品はいつか正当な評価を受ける時が来るよう努力いたし続ける所存です。現在は、ニューヨークへの旅の途中ですので十分な時間が取れず申し訳ございませんが、何かしらの協力関係を築くことが出来たら幸いだと思っています。」
「それはまあ!よくこのご時世でアメリカに渡ってこれましたね。アメリカ人の多くはまだ日本人を敵性人種として捉えている者が多いですから十分にお気をつけください。商売としては具体的な品目が確定しましたら、私にご相談いただければ今後の事も検討させていただきます。」と戸栗氏。
「ありがとうございます。ところで「東京ローズ」という人物の関係者を探しているのですが、お心当たりはありませんか?実はここに居るMrシミズが彼女の関係者に是非会えればと希望しているので、心当たりがございましたらご紹介をお願いしたいのです。
ただ、どうしても明日にはニューヨークに着かなければならない用件がありますので、ご無理であればまたの機会と思いますが。」
そう松川さんが言って俺に話を振って来たので、
「私は清水健吾と言います。戸栗さんにお目に掛かれて光栄です。実は「東京ローズ」の関係者とお話をしたいと希望しています。このままはっきりした手を打たなければ、彼女の未来は閉ざされてしまう運命に進みます。私は人種差別の弱い者いじめをする人間は嫌いです。しかし、力ある者を侮ってはいけない事も事実です。
あらゆる悪辣な手段を持ってしても彼らは目的を達成するよう手だてを打って来ます。残念ながら今の日系人には悪辣な手を遮るその力はないのが現状です。」
そこまで俺が言った時戸栗氏が
「その悪辣な手とは何か知っているのですか?」
と今にも掴みかからんかとするほど俺に迫って来て質問してきたので
「これはあくまで俺の予想に過ぎない事ですから、関係者に口外禁止の誓いをいただかなければ話すことは出来ない種類の話です。」
「では、関係者なら話していただけるということですか?」と戸栗氏。
「それはもちろんその為に、関係者のいるシカゴの日本人街に訪れたのですから。二つの選択肢しか今の俺では考えが付かなかったけれど、早急に選択しないと手遅れになる。」
いつの間にかに付け焼刃の「私」は俺になっていたが、地は隠せないもンだ。と、開き直って戸栗氏と対応していた。
「私は、あなたも、松川氏も今日初めて出会ったばかりの人間で、はっきり言って信用する事が出来ない。信用に値するものを持っていれば「東京ローズ」の関係者を紹介することはやぶさかではない。」
という戸栗氏の言葉応じて俺は一枚の書類を出した。
『この書類を持つ者は陸軍大尉待遇で応接するよう命令する。』
というマックバーガー大将の証明書を見て戸栗氏は目を剥いたのであった。




