日常 4
長らくお待たせいたしました。
私生活が少し落ち着きを取り戻しましたので、また更新していく予定です!
カナリアさんを、今後ともよろしくお願いします。
そう、それは忘れもしない、初夏のある日。
ユーレの第一王子殿下の留学の手続きをしていた時だった。
「が、学園長!」
ノックもなしに入ってきたゼバスに驚いた。
慌てている彼を見るのは珍しい。
「どうした。何かあったか。」
「これを…」
若干震えた手から受け取ったそれには、皇族の印が嗜まれていた。
「!?」
その印を見て、最悪な事態が脳裏をよぎる。
何か、粗相をしてしまったのか。
いや、それはない。
私にとって教師とは、手本であり教育の象徴。
ましてやこの学園に横領など、小作な真似をする馬鹿はいないだろう。
けれど、それは儂一個人の考えだ。
緊張と不安で震える手でペーパーナイフを取り、すっと手紙に通す。
中からは、数枚の便箋が。
そこに書かれる流れるような文字は読みやすく、川の流れを見ているようだ。
儂は、その文章を読み、驚いた。
ごく、と息を呑む。
「ゼバス。読み上げる。聞いておいてくれ。」
「御意。」
す、と息を吸い、そこに書かれている内容をゼバスに伝えるべく、高鳴る鼓動はそのまま、儂は文章を読み始めた。
***
『初夏の風が心地よい季節と存じます。
ご機嫌麗しく、そして初めまして。
わたくしは、カナリア・リベ・アーレンス。
突然、ごめんなさい。
けれど、理由を話している暇はないから、簡潔に綴りたいと思います。
様々な事情のもと、皇帝陛下よりとある指示が降りました。
その指示こそ、この手紙の本題なのだけれど。
あることを防ぐために、わたくしの従者がそちらに伺うことになったの。
学園に編入、という形になってしまうけれど、大体の教育は済ませてあるから、授業にはついて行けると思うの。
わたくしも教師として潜入する予定でいるから、手続きをお願いしてもよろしいかしら。
詳しくは、わたくしの婚約者であるブロード家の嫡男へ。
それでは、またいつの日か、お会いできることを願っているわ。
カナリア・リベ・アーレンス』
読み終わり、息を吐く。
その手は、未だ震えていた。
その震えは興奮か、動揺か。
どちらにしろ、この事実ーーー第二皇女殿下が来るということが、覆る事はない。
「まさか、第二皇女殿下お自らこちらに潜入を…」
ゼバスが呆然と呟く。
無意識に止めていた息を飲み下し、息をついた。
この手紙の内容の、詳しい理由は不明。
しかし、第二皇女殿下お自らこちらにいらっしゃるということは前代未聞である。
ならば一教師として、1人の国民として、その指示に従うのみ。
そして数日後に現れた兄妹は、授業についていけると言う次元ではなかった。
寧ろ、授業など不要。
内に秘めたる膨大な魔力は、教師すらも圧倒する。
この2人が今後成すことが、ただただ楽しみだった。
***
「少しの間だけれど、よろしくお願いします。」
儂の前にお姿を見せた第二皇女殿下は想像よりも美しく、まるで雪のような雰囲気を纏ったお方だった。
今にも溶けて消えてしまいそうな儚げな立ち姿は、隣に並ぶ男性と絵に描いたように合う。
まるで、そのために2人が存在しているかのように。
その彼とは、あの「氷の公爵」である。
まさか彼が、このような柔らかい表情をなさるとは。
彼は、ここの卒業生である。
記憶では、このような優しい顔を見たことは一度もない。
人とは、変わるものだな。
そこから諸々の挨拶などを済ませ、彼女たちはこの学校の科学の教師に用があるということで、その日はそこでお開きとなった。
問題は帰りだ。
「カナリア。足元に気をつけて。」
「ありがとう。」
目と耳を疑った。
あのロベルト君が、女性に手を差し出し、微笑んでいる。
昔の彼からは想像もできない姿に、その日何度目かわからないほど驚いた。
その場の空気が固まり、理解するのに数秒はかかった。
「では、また。」
ロベルト君がニコリと笑った時には、なぜか背筋が凍ったものだ。
まるで、
『カナリアにそれを察させないでください。』
とでも言っているように。
まあなんにしろ、彼は変わった。
彼女が変えたのだ。
一教師として、彼の教師として、喜ばない要素はない。
こうして、第二皇女殿下が教師として潜入する手続きは着々と進んでいくのだった。




