入学
新章開幕!
時の流れほど、早いものはない。
今日はアランとロアナの入学式である。
晴天の下、真新しい制服に身を包んだ2人を見送った。
「「行って参ります。姫。」」
「ええ。気をつけてね。」
アランもロアナも、美しかった。
貴族にも劣らぬその容姿は目を引くだろう。
2人が入学…いや、編入する学園。
アリア国立学園。
帝国内の学園の中で最も難易度の高い学校とされている。
主に貴族が入ることで有名だが、貴族でなくとも入学は可能だ。
そして、アリア学園は教師たちも優秀である。
主に魔法に特化した授業は最高峰の魔法師たちが行い、実践もある。
かといって武術が劣っているというわけでもなく、騎士団長の補佐官たちが務める授業はなかなかきついらしい。
通常の授業もそれぞれの科目に研究者レベルの教師がつくのだ。
謂わば、学園は時期帝国を支える卵を育てる場所でもある。
そこにアランとロアナは編入する。
何もせずに編入とはいかないため、皇宮で秘密裏な試験が行われた。
結果を思い出す。
<名> アランディーノ
<性> 男性
【結果】
第一次試験 魔法特性及び知能
魔法特性:S
属性:炎・水・風・土・光
魔力量:8793
偏差値:73
数:S
語:S
化:S
地:S
魔法原理:S
第二次試験 武術
筋力:A
体力:S
武術:S
<名> ヴァロアナ
<性> 女性
【結果】
第一次試験 魔法特性及び知能
魔法特性:S
属性:炎・水・風・土・光
魔力量:8784
偏差値:73
数:S
語:S
化:S
地:S
魔法原理:S
第二次試験 武術
筋力:A
体力:A
武術:S
2人とも優秀だ。
特に魔力量。
魔力量を増やすにはそれなりの努力がいる。
平均だと4000ほど。
彼らはその二倍を超えている。
ロベルトと結果を聞いた時は驚いたものだ。
そうして無事、2人は編入試験に合格した。
編入なので、学年は高等科3年からスタートだ。
馬車が小さくなって行く。
2人の任務。
隣国ユーレから来る第一王子暗殺の阻止。
きっと大丈夫。
だって、彼らは私たちの………
…私も、準備をしないとね。
カナリアは踵を返して屋敷へ戻っていく。
銀髪がさらりと揺れた。
***
黒髪とは、やはり目立つらしい。
アランはそう思い、興味なさげに視線を上に向ける。
豪華絢爛な内装は美しく、どれもが一級品で作られているのだろう。
高い天井は無駄に綺麗で、なぜあれほどまで美しい状態を保っていられるのだろうかと不思議に思った。
「ーーここで、留学生を紹介する。」
学園長の威厳ある声で思考が現実に戻った。
さりげなく上にやっていた視線を舞台に向ける。
そこには、1人の青年が立っていた。
柔らかな金髪に、青い瞳。
まさしく王子と言ったその整った容姿は美しく、甘さと繊細さを持ち合わせていた。
長い睫毛が縁取るその瞳は水鏡のように透き通っている。
「隣国、ユーレからお越しのエリアス=ユーレ第一位王子殿下である。」
学園長の紹介の後、第一王子は微笑み、こう言った。
「学園長様より紹介に上がった、エリアス=ユーレだ。少しの間だが、アーレンス帝国の生徒たちと学ぶ機会をいただけた。仲良くしてくれると嬉しい。」
その後もすこし話していたが、特に大事なことは言っていなかったので聞き流した。
第一王子の姿を観察しながら、情報を整理する。
僕たちに課せられた任務は一つ。
あの第一王子の暗殺を防ぐこと。
学園の均衡を保ち、戦争の火種を消すこと。
その使命を胸に、入学式、及び進級式は終わりを迎えた。
***
僕たちは編入生ということもあって、進級式の後、別室に招かれた。
ー学園長の執務室である。
「歓迎する。第二皇女殿下の腹心達よ。」
威圧感のある大きな体は見るものを萎縮させる。
だが、僕はそうでもない。
今ここで戦闘をけしかけても、勝てる自信がある。
「感謝申し上げます。」
ぺこりとお辞儀をして、学園長を再び見た。
年季の入った杖を持ち、とんがった帽子を被った、白髭を生やした老人。
この人が、学園の頂点。
「…お主たちの任務については、儂でも秘匿されておる。何かあったら、相談しなさい。必ず力になると約束しよう。まあ、君たちの能力では助けなどいらぬかもしれぬが。」
学園長は、フォフォフォ、と笑い声を上げると、引き出しから一枚の書類を出した。
皺皺の手は細く、か弱く見えてしまう。
「君たちの組と、全学年の編成の書類だ。第二皇女殿下から渡すように言われている。」
その紙を受け取り、目を通す。
ヴァロアナも情報を頭に叩き込んでいるだろう。
数秒ののち、紙を燃やした。
「ありがとうございます。では、私たちはこれで。」
「…無詠唱とは…そして数秒で内容を覚えたと…?」
学園長の呆然とした声を無視し、踵を返して扉をくぐり抜ける。
一礼した後、扉を閉めて己の組へと向かった。
さあ、任務の始まりである。
世にも珍しく、忌み嫌われる色である黒色が朝日に照らされ、学園に消えた。
***
「…第二皇女殿下は、何をお考えになられていて、どうやってあの者たちをあれほどまで鍛えたのか、平凡な儂にはわからぬな。」
「同感です。あの青年と少女は異常だ。」
学園長の補佐であるゼバスは先ほどの黒髪の兄妹が消えた扉を見つめた。
彼らが受けた編入試験の結果は、もちろん学園にも伝わっている。
兄妹揃って、魔力量が8000超えだと?
そんな規格外な人間がいるはずがない。
いるはずがなかったのだ。
あれは恐らく、天性の才能。
学園で最も魔力量が多い生徒でさえ、5000ほどだというのに。
私たち教師は8000ほど魔力量がある。
少なくとも7000は持ち合わせている。
例外なのが皇族の方々だ。
現皇帝陛下、カイン陛下は12145魔力量、
第一皇女殿下、アイリアーナ殿下は11563魔力量。
第二皇女殿下は存じぬが、相当な魔力量をお持ちだろう。
第二皇女殿下とは一度お会いしたことがある。
それこそ、あの兄妹たちの編入と、とあるお願いについてお話しした時だ。
…彼の方は、もしかしたら、この帝国内で最も多く魔力を保持しているかもしれない。
学園長は大きなため息をついた。
「ゼバス。例の件、話を進めておいてくれ。」
「御意に。」
ゼバスが執務室を去っていく。
入学進級式に相応しい晴天を大きな窓から見上げ、学園長は笑った。
この先に待つ未来に想いを馳せながら。




