変化
時は慌ただしく過ぎ、私がロベルトの婚約者になって一週間。
あの後、お父様とお姉様に報告をして、翌日には婚約者となった。
とはいうものの、翌日に報告しにいったら、その日のうちに婚約者になったという感じだ。
もう少し婚約者前という関係を味わっていたかったが、特にお姉様が大興奮し、光の如く動いてくれたことでそういう結果になった。
意気揚々と婚約者になったという証の書類を見せられた時は驚きを通して呆れたものだ。
ロベルトのご両親にも話は通っているらしく、社交界に私たちの婚約が発表された後に手紙と花束が送られてきた。
社交界に広がった私たちの噂は、聞くところによると悪質なものはないらしい。
その事実に安心しながら、私は日々を過ごしていた。
「カナリア。ちょっといい?」
数回のノックのうち、ロベルトが入ってくる。
まったりと過ごす日常に幸せを感じる今日この頃。
私とロベルトの関係も少し変わった。
「どうしたの?」
読んでいた本を閉じて、ロベルトが座れるように場所を空けた。
「例の新素材に見解がついたんだ。来週から本格的な開発に移るそうだよ。」
私の隣に座ったロベルトは、一枚の書類を空間魔法から取り出して、私に手渡した。
その書類の詳細に目を通す。
そこには、費用や人員、場所や注意事項等が書かれていた。
ざっと読んだ後、あまりにも面白そうで、つい口角が上がってしまう。
「ふふ、わかった。なら、私は明日にでも皇宮にいってくるね。」
「僕も行くよ。丁度、父上に相談しなければをいけないことがあるしね。」
ロベルトはそう言うと、ふわりと笑った。
最近よく見せるようになった笑みだ。
「…君と少しでも離れたくないから。」
その後に見せる色気いっぱいの笑みは慣れない。
髪をすくわれ、毛先に唇が落ちる。
前はなかったこの行動が、私たちが婚約者になったという実感につながるのかもしれない。
ロベルトの美しい姿を見るたび、惹かれていく感覚がする。
恋とは、恐ろしいものだ。
***
というわけで、私たちは皇宮に向かった。
煌びやかなシャンデリアと大理石の床は埃一つなく、メイドたちの努力が窺える。
婚約報告以来、数週間振りの皇宮の雰囲気を味わいながら、謁見の間へと向かった。
「久しいな、カナリア。」
「お久しぶりです、お父様。」
久しぶりにあったお父様はいくらか柔らかい表情をしている。
昔は美しい芸術品のようだったが、今見れば少し親しみやすくなった芸術品だ。
お父様が美しいことに変わりはないが。
お父様と軽く挨拶をした後、隣にいるロベルトも会釈をした。
それにお父様は頷くと、席を立ち、奥の部屋へと招いた。
「場所を変えよう。こっちだ。」
「はい。」
ロベルトとはここでお別れである。
ロベルトは、皇宮を構成する東側と西側の東側にいく。
東側は主に貴族たちの仕事場のようなものであり、たくさんの貴族がいる。
西側は主に皇帝が管理する。
西側は皇族関係のものだけ出入りが可能であり、貴族内では四代公爵のみが足を踏み入れることができる。
ただし、謁見の間は東側と西側の中間に位置しているため、皇帝に何か物申すことがある場合は謁見の間を使用する。
私は今回、西側に行く。
「気をつけて。」
「ええ。貴方も。」
ロベルトは優しく微笑んだ後、東側へと消えていった。
その背中を見届けて、私も西側へ向かう。
それぞれの責務を果たす。
ロベルトは時期公爵として。
私は、第二皇女として。
私はもう、ただの娘じゃいられない。
第二皇女で、ロベルトの婚約者で、政治の道具となる。
お父様を支える第二の柱となり、いずれ上に立つお姉様を支える柱となるのだ。
白い床を踏みしめながら、お父様の執務室へ入った。
「座ってくれ。時間が惜しい。本題に入ろうか。」
「はい。」
上品でありながら最高級の生地を使ったふかふかのソファに腰掛ける。
さあ、小さな会談の時間だ。
***
天高く鳥が飛んでいる。
その鳥は漸く"自分"を見つけた。
彼女は止まり木を見つけ、日だまりを愛し、始まりを拾い上げた。
鳥は鳥本来の輝きを取り戻していく。
その輝きが空に何をもたらすのかは、誰もわからない。




