あなたに贈る花束
青空がどこまでも続く。
優しい初夏の風が頬を撫でた。
白い朝日が庭を照らしている。
暖かなひだまりの中で、私は彼を待っている。
「カナリア。」
彼の声に振りむく。
ああ、やっぱり。
昨日の夜、お姉さまが姿を消した後。
私の中で、お姉様の言葉を反芻していた。
そして、私の中で決まったことがある。
「あのね、ロベルト。私、あなたに伝えたいことがあるの。」
貴方はとても綺麗ね。
朝日が貴方のためにあるみたい。
「愛してる。大好き。」
たとえこの関係が壊れてしまったとしても。
私は貴方がくれた温もりを抱えて生きていく。
貴方からもらったものは忘れない。
ただ私は、どうしようもなく伝えたい。
未来を見据えずに、あるがままに進む。
それが、私の答え。
「私とー
「カナリア。」
言葉が遮られる。
こんなこと、今までなかった。
驚いて、口を閉ざしてしまった。
ざあっと、風が吹き抜ける。
サラサラと草木が靡く音だけが響く中、ロベルトは私の近くまで歩いてきた。
そして。
地に膝をつけ、私を見上げた。
青い、深い海のような瞳に、私が映っている。
いつにもない真剣な目をしていた。
その瞳に吸い込まれてしまうかのような感覚がする。
「それは、僕から言わせて。」
そう言ってロベルトは息を吸うと、真っ直ぐいった。
「…愛しています。カナリア・リベ・アーレンス様。
どうか、私が貴女の側に立つ事をお許しいただけますでしょうか。
…私と、婚約を結んでいただけますか?」
差し出された手は、知っているようで違う。
青みがかった黒髪が白い光に当たり、青く見える。
まっすぐな青い瞳が揺らいだ。
「……はい。」
それはきっと、私の涙のせい。
差し出された手に、手を重ねる。
大きくて、温かな手は、これから先ともに生きていく人の手。
嬉しくて、幸せで、微笑みと同時に涙がひとつ溢れた。
ぎゅっと手を握られたかと思うと、瞬き一つの間に、私はロベルトの腕の中にいた。
「ありがとう。…本当は、ずっと、怖かったんだ。君が、僕と同じ感情を抱いていないかも知れないって。でも、違ったみたいだ。」
目元に滲んだ涙をロベルトが食べた。
「!」
驚いてロベルトを見ると、それは今までに見たことのない顔で。
「だって、君はこんなにも僕を愛してくれていた。」
ふんわりとした笑みに見惚れた。
ずっと私を見てくれている瞳は優しげに緩んでいる。
その瞳をこちらに向けるように、ロベルトの頬に手を当てて、言う。
「私、気付くのが遅かった。でも、やっとわかった。ロベルトの言う通り。私は貴方をこんなにも愛しているし、貴方も愛してくれている。ありがとう。…私、ロベルトが大好きよ。」
その言葉を聞いたロベルトは、嬉しそうに笑った。
好きだよ。
どちらが言ったのかはわからない。
けれどその言葉は、言わずとも伝わっていた。
もしかしたら、青い空に吸い込まれてしまったのかも。
***
あなたに贈る花束。
それは、愛という名の花でできている。
美しいだけじゃないかも知れない。
それでも、それでもいいなら。
どうか受け取ってほしい。
花束は、空の下で交わされた。
どこまでも続く青い空の下で。
それは2人の未来の行く末の如く、どこまでも広く、遠い。
もしかしたら、この先の未来で何かしらの壁にぶつかるかも知れない。
でも、きっと2人なら大丈夫。
だって、私は鳥。
だって、彼は翼。
どちらかがいないと成り立たないのだから。
2人なら、どんなことでも大丈夫。
その大きな翼と、白い身体を駆使して、難題を突き進んでいける。
この花束に誓って。




