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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第6章 祈りを抱く者に試練は与えられる
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祈りを抱く者に試練は与えられる その9


「フェンシュイバレル、発射!」

 

 螺旋渦巻く風の中心で、碧水が迫り上がる。

 それはまさに龍の息吹。トリープは拘束を引き剥がし、迎撃の構えをとった。

 

「まだギリギリ逃げられたけど、これはあくまで試練だからね。ちゃんと評価をしてあげないと」

 

 碧水には碧水をぶつけると来たか。

 だけどこっちはそれだけじゃない。荒志郎の砲身に、薫の風がついている。

 そして美佳と梁山先輩が拘束してできたアドバンテージもある。


 ——重低音と余波。既に賽は投げられ、あとは結果を見届けるのみ。

 祈るように、経過を見届ける。

 力の拮抗はそう長くは続かなかった。天を貫かんとする碧水と旋風を見て、試練の終わりが告げられる。

 

「うん、合格だ。君たちの力、確かに感じられたよ」

 

 音速に近いスピードでトリープは僕らのもとへ降りてきた。

 

「なんだ、やけに騒がしいと思ったら……もう始めていたのか」

 

 階段を登り、山門から人影が現れる。

 

「「先生っ!」」

 

「今、ちょうどみんなの全力を受け止めたところでね。大体私の三割くらいの出力と言えるかな」

 

 あれで三割か……まだまだ遠いな。

 

「そうか、夏休みまでには六割を目指したいな。引き続き、特訓を頼むよ」

 

 そうして、僕らの研鑽が続いた。日の入りが近くなってきた頃には既に体力は底を尽きていた。

 

「あ゛ぁ゛しんど……」

 

「よし、そろそろ撤収だ。あー、そうそう。来週から中間テストが返ってくる頃合いだったな。お前らの国語を採点したが……結果を楽しみにしておけよ」

 

 去り際にとんでもないことを言ってきた。さすがに人の心を疑ってしまう。先生の声には少し乾いた笑いがこもっていた。

 その真意を理解しようとするのは、あまりにも恐ろしくてできなかった。

 

  ◇

 

 そして結果が発表された。僕の点数は、そこまで悪くはなかった……ただ、確かに国語だけいつもよりは低かった。五教科のうち国語だけは少し自信があったのだが、今回の中間テストはその中でも苦手意識のある古文が範囲だったので他の教科と差がなくなっていた。

 そして美佳は全てにおいて点数が高い。彼女は努力を軽々しく語るが、それは簡単な話じゃない。

 そして荒志郎は相変わらず数学の点数が高い。今回はどうやら美佳に勝てたようだ。

 荒志郎や美佳については以前から聞いていたから特に驚きはなかったが、薫や梁山先輩の結果を聞くのは初めてだったので大変盛り上がった。

 

 ——ここ最近、非日常に引っ張られすぎていたと後になって気付かされる。

 

 ()()()を開けた時に感じた、日常と非日常の境界——初めは巻き込まれただけの少年(ぼく)が非日常の狂気に毒され、自らその狂気を求めてしまう衝動を駆り立てられる契機。

 

 ——だけどそんなものはそのとき生まれたワケじゃない、誰しも元々抱え得るモノなのだ。

 

 人が普遍的に抱える禁忌に惹かれる観念。

 実際に「ヴォイド・コール」という、高いところにいる時に落ちたらどうなるかと考えてしまう心理現象があるらしい。

 先生曰く、怪異は人が持つその衝動からタガを外してしまうと。

 薫にとっては「拒絶」であり、菜乃花にとっては「逃避」であり、美那萌にとっては「掌握」、梁山先輩の妹にとっては「執着」————そして僕にとっての「闘争」。

 

 ——じゃあ、彼らは?

 

 美佳、荒志郎、八敷先生、梁山先輩——文化研究部として一緒に戦っている人たちは非日常の世界で、狂気に惹かれず生きているのか? 多分そんなことはないだろう。もっと言えば文化研究部に限らず、花岡や山岸望未といった日常の世界に生きる人もそういうモノはあるだろう。

 

 ——おそらくは、抑圧すべき願望に矜持が優っていた。それだけの違いなのだろう。

 

 願いは欲となりて、咎を成す。そういうのなら、それを抑え込む矜持を持てばいい。

 ここにいる文化研究部のメンバーに倣うだけでなく、ハリボテの正義に準ずるわけでもなく、己の信念を貫ける生き方を選ぶ。

 欲に溺れることなく、願わず、祈らない。

 

 ——さて、僕はどのように生きようか。

 

 いつも通り、例の扉を開くと、コーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。

 瞳の先にはみんながもう、そこにいる。

 

 ——その答えを得るのは、まだもう少し先かもしれない。

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