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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第6章 祈りを抱く者に試練は与えられる
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祈りを抱く者に試練は与えられる その7

3/


 

 そして、一週間後……。

 

「さて、みんな集まってくれたね。遠慮なし、思いっきりぶつかってくるといいよ」

 

 無人でありながら面積の広い寺院にて、本堂を背にして立つトリープ。僕らは門の下で相対す。

 

「……ところで、どうしてこんなことを?」

 

「それはさ——幸斗、君に対して積もる話が沢山あるからだよっ!」

 

 こめかみを掠る碧水。戦闘は流れるように始まった。

 

「うおっ、いきなり⁈」

 

「君たちはもっとお互いを理解するべきだ! 特に幸斗、君はいつもあやふやにして誤魔化したがる!」

 

「なっ、なにをぅ……」

 

 真っ先に突きつけられたその非難は、反論しようがない。

 そして、非難の矛先は僕だけにとどまらなかった。

 

「そして美佳も相手に自分の正しさを押し付けすぎることを自覚した方がいい」

 

「はぁっ? ウチはそんなこと……」

 

「君は人一倍自立した生き方ができているかもしれない。でもみんながそうなわけじゃない。むしろほとんどの人は誰かの助けなしでは生きていられないんだから、相互に作用し合うものなんだよ。他者の声に耳を澄ませていかないと」

 

 隣にいる美佳の、なにかがちぎれる音がした。

 

「よし、ぶん殴る。コイツまじ好き勝手言っちゃって——自由な身体を得て調子乗っちゃってるんじゃない……ッ?」

 

 瞬間、炸裂する火花。美佳は炎と風のエンジンブーストで一気に距離を詰めていた。

 

「せぇいっ!」

 

 渾身の右ストレート。しかし怒りに任せた攻撃は軽々しく碧水が阻む。

 

「別に君だって、幸斗に思うことはあるだろう? せっかくだから、こういうタイミングで言っとかないとって思ったんだけど……」

 

「どういうタイミングよ!」

 

「一難去って、次の一難に備えるタイミングじゃないのかい?」

 

「————」

 

 美佳は中途半端に口を開けて固まる。僕にもわかる——あれは天然での発言だった。

 なんというか、美佳が言葉を失うのも納得なので黙ってしまったがそれこそを僕からも言うべきなんだろうか。

 

「他にも、薫はもっと自信持っていいし、浄は少しネガティブな思考だよね。荒志郎は……ちょっとパッとしないね。いつもフォローに回ってて、たまにはメイン貼ってもいいんじゃない?」

 

「ワタシ、結構奮闘してるつもりなのですが……」

 

「そういう時は決まってアンタが一人の時なのよねー。つーか全部コイツの主観なんだから魔に受けなくて良いわよ——それはそれとして、一緒に殴りたいなら止めはしないけど」

 

「ええ、良い機会ですしワタシもやってしまいましょう」

 

 美佳と荒志郎のコンビネーションが碧水の防壁を打ち破らんとする。美佳の魔術が色鮮やかに弾け、荒志郎の武器が目紛しく変容する。

 

「そういうんだったらワタシだってやってやりますよッ!」

 

「……まったく、熱に浮かされてんなこりゃ。……薫、オレたちも行くぞ」

 

「はい、先輩」

 

 僕も含めた全員からの攻撃でも、トリープには届かない。僕の身体の時にあった碧水の力の上限がかなり引き上げられていたとしても、これほどとは思わなかった。

 量も精度も何もかもがちがう。

 鍛錬相手として最適というのも納得だ。まず以て、これ以上の敵は現れないのだから。

 

「私の速さについてこれるようでないと、この先は厳しいよ?」

 

 スピードを出したトリープは、視界に収めることすら難しい。梁山先輩の『蛇目(かがめ)』すら発動しないほどの速度とあっては、攻撃を当てることはなおさら厳しいことだった。

 僕と美佳が身体強化で辛うじて対応できると言ったところか。

 

「よし……」

 

 指輪から碧水の力を引き出して動体視力を高める。次に筋力強化、移動性能を上げて距離を詰める。制限時間は三分と言ったところか。その間にトリープの力を削ぎ、みんなが戦える土俵に落とす。

 

「君の本質はとんでもない蛮族だよ、幸斗」

 

 笑いながら、トリープは誰にも聞こえない距離まで離れて話しかけた。

 

「それに君はこうなることを望んでいたんじゃないかな?」

 

 確かに僕の願いは野蛮と言われるものかもしれない。だが無理に叶えようとはしない。たまたま、自分の置かれた場所が願いに近く、肯定されやすい状況であったというだけだ。

 

「そうかもしれない……だが、僕は善くあろうと頑張ってるんだ。他人に迷惑をかけてまでするつもりはない」

 

「そのかわりに自分が傷付くからって? 順序が逆だよ。自分が傷付くために、他人に迷惑を掛けないという善性を取り繕っているんだから」

 

「…………っ」

 

「私も最初は、君が度の超えた善人なんだと思ってたよ。でもシャルディーンとの戦いのとき、君の心臓は鼓動を高鳴らせていた。他でもなく悦びの感情によって——」

 

 それこそが願いだった。自らが傷付くたびに燃え上がる闘志、全霊をぶつける死合いに身を捧げることが僕の願いなのだと——ようやく理解ができた。

 

「それはいずれ隠し通せなくなる。そしてその先に待つのは()の在り方だ。戦いに取り憑かれ自らを死地に飛び込ませ続ける…………もし仮に私がいなくなり、碧水の力を失ったとして、果たして君はその在り方を捨てることができていたのだろうかね?」

 

 そんなことは考えてもいなかった。とはいえ、無意識のうちに言い訳をしていたのかもしれない。

 碧水の力を自らの内に残す選択を進めていたという見方——トリープへの同情だとか憐憫を建前にした言い訳。

 

「だからこれはある意味で、私から幸斗への試練だ————力を求め、その上で人として生きたいのなら、まずは私という怪異を、自分の持つ全てで鎮めてみせよ——っていうね」

 

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