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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第6章 祈りを抱く者に試練は与えられる
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祈りを抱く者に試練は与えられる その5


「神秘は死に絶え、

《Mystery favors the ancient .》

人の理は天蓋を闢く。

《History awakens us from blind faith.》

 しかし、

《However ,》

弱き葦は母なる大地なしには生きられず、

《Stories convey how fragile》

主たる光なしでは育たない。

《and insignificant we are.》

 故に、

《So,pray.》

再び祈りで渾天の鐘を撞こう──

《Glory is still far away for us.》」

 

 シャルディーンの呪文が部屋に反響する。

 言葉を紡ぐたびに魔力が溜まり、循環し、遷移する。言葉そのものが魔力を帯びているような、脳をそう誤認させる響きであった。

 しかしその言葉の意味を理解できているのはこの場には八敷意と、その言葉を発するシャルディーン本人しかいなかった。

 この呪文には、古き神秘の重みがなかった。詠唱とは魔術をイメージさせる一種の型番である。言葉を紡げば紡ぐほどそのイメージは固定化され、より強固なものになる。

 シャルディーンの詠唱はある意味で最新の型だった。昔からある書の一節を引用していないという点ではもちろん——これ自体は他の魔術師の詠唱にも見受けられる——呪文の言及自体が、神秘の世界では通常効力が弱いとされる現代の世界観に則っているからだ。

 彼の詠唱は地動説が前提となったものである。しかし魔術において中心が地球にある天動説をベースとする術式の方が圧倒的に強い。

 それをあえて地動説に言及するのは、神秘が()()()()()()()()()()()()であるからだった。 


「なるほど……地動説から天動説へ認識を逆行させることで神秘のスケールを大きくする。つまりは龍神の力を抑え込む器としての効果を底上げしているのか——であれば」

 

 床に描かれた魔法陣が動き出す。幸斗の足元には地動説の天体図、人形の方には天動説の天体図を描いた。

 二つが溶け合い、世界を構築する。魔法陣は着色された砂でできていた。砂は宙を舞い、宇宙を運行させる。

 言葉によるイメージの構築を、視覚情報で補わせる事——それを幸斗やシャルディーンが目視する事で魔術の効果を脳に刻み込む。

 

「まるで、プラネタリウムみたい」

 

 無意識のうちに呟く薫。

 儀式とは、見える形で行うことにこそ意味があると、八敷意は美佳や荒志郎に伝えたことがある。

 儀式とは意思の表明だ。もちろん一人で行い、誰にも見られずに行う儀式もある。しかしそれも概ね精神統一——自己を客観視する意味を含むものが多いだろう。

 他者であれ自身であれ、律する者が見ているという状況が儀式に意味を生むのだ。幸斗が己を通す意思を、決意を形にして見せつけている。ここに裏切る余地を生まないように。

 

「我らの歩みはゆっくりと、しかし着実に前へと進んでいる。

《Trumpery illusions must be dispelled.》

 終末は目前、

《The Holy Knight has dead.》

闇に灯った光がまだ諦めるなと背中を押す。

《But Holy Night comes again and again.》

 遍く全てを手中に収めるべくいざ、駆けよ──

《Inquiry of human will eventually reach the ends of the world.》

星が道を照らすうちに

《The Starry Offertory.》」

 

 詠唱が終わる。

 魔力を纏った砂が人形と幸斗を包み込み変質をもたらした。

 

「これが……」

 

 その声は誰のものであったか。

 淡い緑の髪、深い翠の角——どことなく幸斗に似ているが、より中性的な顔立ちをしている。

 

「君の顔……そうか、そんな顔をしていたんだね」

 

 人形に命が吹き込まれた。儀式は果たされ、部屋は何もなかったかのように元の様相を取り戻している。

 しかし変化は確実に訪れていた。部屋の中心で向き合い、目を合わせる幸斗と龍神の残滓——。

 トリープが、そこにいた。

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