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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第6章 祈りを抱く者に試練は与えられる
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祈りを抱く者に試練は与えられる その4

 

 荒志郎は既に対抗策を考えていた。

 しかしそれを行うには自分が一時、戦線を離脱する必要があった。

 

「織本さん……少しの間、一人で戦っていられますか?」

 

「自信はないけど……できる限りなら、やってみる」

 

「私が背後をとって隙を作りますので、私の合図と共にヤツの内部に最大の攻撃をしてください!」

 

 先行、隆起したガラクタを利用して荒志郎は身体をカバーしつつ、サイドから竜の背後へと回る。

 その間、薫はオリガミで竜どもの気を惹いていた。

 竜は口を閉じたまま、爪を駆使して攻撃する。しかしオリガミ自体の防御性能は低い。加えて弱点である水流も不意に襲ってくるので一瞬の油断が命取りだった。

 しかし、薫の潜在的戦闘技巧は驚異的だった。

 わずか数日前にオリガミの式神使役を初めて行った薫だが、その技量成長は凄まじく、単なる風の放出に留まらず、風の出力方向を自在に指定することで肉体やオリガミに風を纏わせたり、中空に風の層を生み出して障壁を生み出すことを可能にした。

 一撃喰らうことがが致命的なオリガミにとって風の障壁は最も有効的な防御手段といえる。

 オリガミの拳に風を纏わせ、竜の引っ掻きにカウンターを合わせる形で攻撃——その後風が炸裂し追撃が入る。拳と同時に相手に風の爆弾を設置するこの攻撃は、時間差の攻撃によって敵対者の神経を乱す。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️…………‼︎」

 

 竜は腹立たしげに低く唸る。ヤツの目には薫しか映っていない。おかげで荒志郎はスムーズに背後を取ることができた。

 そして、急襲を開始する。

 荒志郎の右手の分解能力は、竜の全体を処理しきることは叶わない。しかしその一部であれば可能、そしてその一部で十分だった。

 右手を徒手にして竜の背に飛びつき、そのまま一薙ぎ——表層の黒鱗を分解し、柔らかな部位が露出する。

 

「今ですっ!」

 

 左手に持っていた銃をナイフに変容させて突き刺す。柄まで深々と刺さる刀身は、肉を抉り、彼の眼鏡や衣服を鮮血で染め上げた。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️————‼︎」

 

 竜が苦悶で口を開く。既に準備はできていた。

 

「はあああっ!」

 

 オリガミの腕がミキサーの如く回転する。回転が生み出されし暴風は、竜の口腔を何度も引き裂いた。

 狂い悶え、地に伏せる黒竜。残るは金髪の水妖のみとなった。

 直ちに交戦体勢に入る二人。だが水妖はその姿を崩壊させ、その跡には探し求めていた宝石が落ちていた。

 

「なにが…………」  


「おそらくは共生関係——二体で一つの存在だったのでしょう。…………これで目的は達成しました。早いとこ戻りましょう」

 

  ◇

 

「いやあ、そうだったそうだった。私としたことが、侵入者対策のシャナとクエレブレのことを話し忘れていたよ」

 

 戻ってきた荒志郎たちはその言葉を聞いて、怒り混じりにため息を吐いた。

 

「普通そんなこと忘れないでしょう…………と、待ってください。以前先生と向かったとき、そのような怪異は現れませんでした。おかしくないですか?」

 

「それは……だな。今日、その右手で宝石を探しただろう? だがあの日、私は一度も魔術を使っていない。アレはそういうセンサーなんだ。魔術とかの神秘を検知して起動する対魔術師用の防御装置。一般人が紛れ込んだ時に余計な問題を作りたくないというのは、どこの魔術師も同じだろう」

  

 先生は「横着した罰だな」なんて付け加えて、元はと言えばシャルディーンのせいなのに、と不服そうな荒志郎。だが、そういうのは事が終わってからというもの。素早く切り替えて本題へ移った。

 

「では()()を始めよう。櫛見幸斗、君はまずここに座れ」

 

 荒志郎と薫が廃工場に向かっている間、残った者たちも準備を進めていた。

 狭いアパートを埋め尽くしたのは二つの魔法陣。その片方に幸斗が座った。そしてもう片方——向かい合うように配置されたのは、等身大のデッサン人形のようなもの。

 

「この器に龍神の力を人格ごと封じ込める……私も想像できなかった試みだ。さて、どのようになるか…………」

 

 人形に魔術師がトパーズを埋め込む。そしてもう一つの宝石——クォーツを幸斗の眼前に突きつけた。

 

「飲め」

 

 少し躊躇いがあったが、こういうのは勢いが肝心。天井に視線を向け、垂直に流し落とすように手にした宝石を喉に通す。

 

「よし、準備は完了だ。荒谷当主にも、調律の補佐を頼むよ」

 

 瞬間、世界が変わったのかのように静寂に包まれる。魔術師は集中して目を開かない。集中し、トランス状態に入った彼は、目を閉じたまま天を見るように呪文を唱え始めたのだった。

 

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