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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第6章 祈りを抱く者に試練は与えられる
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祈りを抱く者に試練は与えられる その3


「——ッ⁈」


 咄嗟に風の力を用いて後退した薫。

 その瞳に映るのは金髪の女性を呑み込んだ牙——、そして黒き鱗と金色の瞳。

 まさしくその異形は——、

 

「ドラゴン……ですか」

 

 二対の脚で大地を踏み締め、背部にある両翼は外敵を威嚇するように広げられている。イメージとしては翼の生えたワニといったところだろうか。どこか水辺に適応したような形質が見て伺える。

 竜が口を開くと、そこから先程呑み込んだ女性が現れた。なるほどどちらも水辺に生息する伝承怪異なのだろう。両者はとても相性の良い夫婦かのように互いに身体を擦り寄せていた。

 そして竜はその女を頭に頂き前脚を地より離して息を思い切り吸い込んだ。

 

「来ますっ! 警戒を!」

 

 その瞬間、殺意は音となって放たれる。

 

「LA————」

「◾️◾️◾️◾️◾️————‼︎」

 

 それは歌声にも似た咆哮。

 竜と女のデュエット。大気を震わせ、地中から水を湧き上げる。

 

「くっ————」

 

 水の噴射を避けようにも、音の重圧や大地の振動が動きを妨げる。間一髪で避けることはできたものの、まともに動けないとあっては次の手も打てまい。

 

「ならばこれで……錬成せよ(インタクト)!」

 

 今回荒志郎が作り上げたのは拳銃であった。

 所謂オートマチックと呼ばれるタイプ——遠距離武器として連射力が高く、牽制には十分といえよう。

 発射した弾丸は全弾十発。荒志郎は銃の扱いに慣れていないとはいえ、あれだけの巨体に命中させることは容易いことだった。

 しかし——、


「硬い……あの鱗、半端な攻撃では弾かれてしまいますね」

 

 二人の戦力では、あの鱗を打ち破る術はない。唯一あるとすれば、それは荒志郎の『叡智闢く遡源の手(アカシック・リーダー)』による分解能力のみではあるが、あの図体では情報処理に脳が追いつかないだろう。

 

「だったら鱗がない部分を狙うのは?」

 

 それが最善の策のように思える。というより、相手の正体がわからない以上は地道に通る攻撃を探していくしかない。

 だが、ヒントはあった。歌のような音による攻撃を共に行う、水を操る金髪の女性と硬い鱗の水棲竜。両者には強い繋がりがあるように見受けられる。

 異類婚姻譚——(つがい)の関係性であればあのコンビネーションにも納得がいくだろう。

 

 とにかく、情報を探ろう。リロードは不要、変容(モディフィケート)により、銃器自体を別のものにし、装填済みの状態にする。

 形としてはリボルバー、オートマチックより威力が高いことで知られているが、それで狙うのはヤツの腹部——白く薄べったい皮が重なった部分であれば、黒い鱗よりは通る見込みはあった。撃鉄を起こし、発射する——弾丸は腹部に弾かれることなく、めり込む。

 だが、貫通することなく地に落ちた。

 硬さではなく弾性による防御。こうしてるうちにも大地は揺れ、水は暴れ狂う。

 

「近付くにしてもまずはこの音が止まないとどうにもならないね……息切れするまで耐えるしか……」


「それはどうでしょうね。人間と同じだとは思わない方がいいでしょう。最悪一時間以上このままかもしれません。それをずっと耐えているというのは少々難しいかと」

 

 だったら、無理矢理にでも止めるしかない。残弾はまだある。竜の口腔めがけて弾丸を叩き込めば……‼︎

 

 隙を見て発砲。雄々しい咆哮の凱歌は、苦悶の叫喚に転じた。

 

「攻撃が止まった…………」

 

「やはり、内側は柔らかい! 正体は未だわかりませんが、通る攻撃がわかったのなら十分です!」

 

 相手が咆哮で口を開けた時がチャンスだ。しかし相手は相当知能が高いらしい。

 

「こちらを警戒して口を開けてこない…………まずいですね」

 

 咆哮がなくても竜は依然として脅威であった。あの巨体から繰り出す引っ掻きだけで十分致命傷に至る。

 おまけに敵はもう一体いる。依然水流による妨害が邪魔をしていた。

 この状況、どう切り抜けるべきか。

 

「一つだけ案はありますが…………試してみる価値はありそうです」

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