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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第5章 (中) 祈源覚醒
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祈源覚醒 その4

  

 吸い上げろ。紫白の魔力に包まれたここでなら、その魔力を碧水に変換することで出力を何倍にも膨れ上げさせることができる。

 そしてそれは相手も同様。シャルディーンが持つ魔術の奥義—『生命樹の雫エン・ソフ・アツィルト』は周囲の魔力を破壊の粒子に変換して放つレーザー。

 単純なエネルギー放出、故に純粋なパワーのぶつかり合い。僕たちが求めているものはその先に見える景色だ。

 

 溜めろ。増幅量はこちらが上。だが増幅速度は向こうが上だ。

 その違いがどのような差を生むのかはこれからわかる。

 互いに出来得る最大のチャージで放つと確信している。途中で先出しするなど無粋の極み。

 思わず口角が上がる。それは鏡合わせのように向き合う相手へ呼応した。

 

 そして、放て。射手の呼吸が重なる。発射のタイミングはコンマ一秒すら乱れぬ神技の領域。

 今——碧と虹が交差する。

 

「はあああっ!」

「『生命樹の雫エン・ソフ・アツィルト』ォ!」

 

 衝突の余波は大気を歪曲させるほどの熱を帯びた。

 ここからの勝負はどれだけこの場から魔力を搾取し続けられるかだ。

 魔力を吸い上げながら、それを碧水に変換して放出し続ける。押し合いは拮抗。互いに自壊するギリギリまで早く、多くのエネルギーを消費し続ける。

 

「は、はは……‼︎」

 

 全身が火傷を負ったかのように、ヒリヒリと痛みが走る。

 だがそれを顧みる余裕はない。むしろそんな暇があるならさらにブーストを上げてけってモンだ。

 

 放出と吸収のバランスは同じ。だがやはり、懸念していたものが露呈し始めた。

 魔力の吸収量の話である。総吸収量は同じだが、こちらは供給にラグがあった。

 一度に魔力を汲み上げる量と間隔のズレ。こちらは量が多い代わりに間隔が遅い。対して向こうは絶え間なく汲み上げるが量は控えめ。

 継続して強力なパフォーマンスを行える向こうと、波はあるが一時的に相手を上回る出力を出せるこちらか——シーソーのように押し合いは揺れ動く。

 

 ぴくり、と僅かに指先が震えた。

 向こうから来る圧力が増している……そうか、このままでは埒が明かない。向こうも決めにきているというわけか。

 であれば——限界を超えてブッ放すまで!

 

「はああああっ!」

 

 許容量(キャパ)を超えた魔力が肉体を貫くように駆け巡る。

 

『楽しんできてね』

 

 朝、母さんから言われた言葉だ。

 そんな当たり前のコトだけど——楽しむというのは、案外難しいことかもしれない。

 今、僕は猛烈に楽しんでいる。恐れはない。痛みすらも己を昂らせるいいスパイスだ。

 ここに来るまでは楽しむなんて微塵も思っていなかったはずだ。だけど、あの魔術師の目を見て確信した。

 

 生とは(よろこ)びを求めること——。

 

 だが、その道程にこそ見出すべきものがあるのではないか。信頼、確証、優越、回帰——様々な願いがあり、その願いがために人は苦しむ。

 結果とは苦の工程があって初めて悦たり得るもの——しかし僕にはそれが当てはまらなかった。勝利も、成功もあとからついてくるだけだ——その過程、つまりは苦こそが、僕にとっての願いの源だったのだ。

 

 碧水と『生命樹の雫エン・ソフ・アツィルト』の衝突は臨界点を迎えた。

 光が僕らを包み込む。

 白紫の魔力は吸い尽くされ、互いに限界を迎えたのだ。

 当然、魔力は力場として浮遊を実現させていたためこの身は落下を開始する。

 

「ああ、でも——みんなには迷惑をかけてしまったかな……」

 

 その声は誰に届く訳でもない。だが、勝手な行動をしたなという負い目があったのだ。

 沈む。もう何も聞こえないし、見えない。心配しているみんなの声も顔も。

 今はただ、自分が何かのためでなく自分の欲望のまま全力を尽くしたことに安らかな祝福を言祝いでいたいのだ。

 

 運が良くても、次に目が覚めるのはきっと病院の上だろう。もう着地の体勢を取る体力はないし、そんなつもりもない。

 だって出し切ったのだから。後の始末は、また迷惑をかけるけどみんなにしてもらおう。

 それじゃあ、おやすみなさい。

 

 

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