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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第5章 (中) 祈源覚醒
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祈源覚醒 その3

 

  ◇

  

「な、何を考えているんだ! 君の力ではあれを止めるなんてできるわけがないっ! いいから早く逃げろ!」

 

 声がした。先生の声だ。

 優しい先生だ。僕のことを思って言っているんだろう。だけど、その言葉を気にする素振りもなく、僕はまた一歩足を踏み入れた。

 

「幸斗!」

 

「ごめんなさい、先生。僕にはわかるんです。あれは先生には止められない」

 

 あの魔力の塊からは自分と同じ力を感じた。それも当然なはず。あの霊脈は——。

 

(君も気付いたようだね。霊脈が僕らの力の干渉を受けているのなら、波長を合わせて制御権を奪えるかもしれない)

 

 天上を仰ぎ見、手を翳す。

 体内を流れる碧い水が降り注ぐ魔力との同期を促す。

 

「くっ、はああ……っ!」

 

 血液が沸騰するような、耐えがたい痛みが全身を駆け巡る。

 だが、恐れることはなにもない。

 求めてるのは、その痛みだ。それこそが生の証明。

 

「は、はは……っ」

 

 思わず恍惚の笑みが漏れ出る。

 正直に言えば、ヤツがこの手で攻めてきたときに不思議と期待するような感覚があった。思えばそれはヤツの魔力から自分と同じ波長を感じたからだろう。

 掴んだ——。

 正しくは捉えた、だろうか。まあそんなところはどうでもいいのだ。自身のエネルギーの波長と、霊脈の波長が合致した。その感触があった。

 そこから先は早い話。僕は吸い込まれるように宙へ浮かぶ。霊脈の魔力が僕を引き寄せてるのだろう。あとはこのまま紫白のエネルギー塊の中心に潜り、制御権を奪う——‼︎

 

「そう易々と見過ごすものかッ!」

 

 シャルディーンも遂にこちらを脅威と認識したのか、こちらに向かって阻止を試みてきた。

 

「望むところだ。おまえの企みを完膚なきまで潰す」


 碧水が全身から沸き立つ。

 このエネルギー塊の中にあっては外からの干渉はない。

 故に援助も邪魔もない。それは幸斗にとって些か不利に思えた。

 跳躍でこちらに向かってくるシャルディーンに対し、こちらは迎撃の構えをとった。

 碧水を球状にして放つ。足場がないので思ったよりも力を出しにくい。だがそれを数で補った。

 魔術師を四つの碧水玉が囲い込んだとき、その一つ一つが共振し合い、破裂する——‼︎

 

「これはっ!」

 

 未熟者と侮る勿れ——。既に二の矢三の矢と準備はできている。

 破裂させた水塊が細かな水滴となって霧散する前に再集結させ、魔術のもとへ再び襲いかかる。

 咄嗟にヤツは照応天球を盾にして防御を取る。

 だがそこまでを見越していた。盾が死角を作り、その裏を縫ってヤツの頭上を取った。

 こちらに気付いたようだが、対応は間に合わない。

 碧水のウォータージェットが魔術師の肩を貫く。

 

「ぐっ!」

 

 怯んだ。さらなるギアを上げろ——。

 体内を巡る碧水が速度をブーストさせシャルディーンへ急接近させる!

 

 液体は変幻自在——その特性を活かせば、あらゆる状況へも対処が可能。

 手のひらから円形の碧水が発生し、ヤツの外套を切り裂く。

 

(広範囲への攻撃は避けにくい分こちらが隙が大きい。以前はそこを突かれたけど、これなら——)

 

 接近に持ち込む必要はあるが、より隙は少なく高威力の攻撃を叩き込める!

 

「流石にこれは分が悪い……一度距離を取らせていただこう」

 

 側面から突撃するは照応天球。だが難なく切断可能。脅威は依然無し。問題はシャルディーンがその間にこちらから距離を離していることだ。

 

「おおおおッ!」

 

 雄叫びとともに両手の碧水カッターを投擲する。

 

「なにっ⁈」

 

 予測不能の軌道。万象を八つ裂きにせんとす碧水の輪は、魔術師の眼前——前髪を掠めて上空に散った。

 

「まさか……本体の数%程度の分御魂を宿した小僧に……しかも肉体がまだ適合していない状態で苦戦するとは……。これはますます、この後が楽しみになってきた……」

 

 魔術師は笑みを浮かべる。

 

「おまえは、何が楽しいんだ?」

 

 つい気になって質問をしてみた。多分、僕もヤツと同じ笑みを浮かべている。

 

「あ……? そうだな、君は美しさとは何か考えたことはあるか?」

 

「美しいもの——、昔の彫刻とか自然の景色とか……」

 

 頭の中で様々なビジョンが浮かんでくるが、どうやらそれらは彼にとって美しいものとは呼べないようだった。

 

「否! 美とは視覚で捉えるものではない! 美とは不変であり、絶対的な力である! 私はここに、その美を顕現させるのだッ!」

 

 ああ、そうか。彼もまた追い求めているのだ。

 

「おまえさ……本当は、正直どうでもいいんだろ。僕を炉心にするとかいう計画なんて。魅せられちまったんだもんな、アレに。——僕も(おんな)じだ。アレのおかげで自分の心の底にあるものが見えたよ」

 

 二人っきりの世界。他に邪魔はいない。

 そういう錯覚。本人はそこにいるというのに、よくもまあお互いそうも言えたものである。

 或いは——こちらに抗議をしているのかもしれないが、聞く耳を持てぬほど熱中していたか。

 

「だったら——お互いとことん、燃え尽きなきゃウソだよなァ!」

 

 この空間に充填された魔力を制御権の掌握による駆け引きではなく、単純な備蓄エネルギーとして互いに奪い合う。

 相手は先程しようとした魔術を行使する構えを見せた。

 であれば、こちらも純粋な碧水の放出で受けてたとう——。

 

 お互い——わかってるじゃないか。

 

 言葉ではない。表情が意思を伝え合っていた。

 

「碧き水よ——力を!」

「星よ——廻れ!」

 

 出し惜しみはなし————お互いの魂を賭けた一撃が咆哮を上げる。

 

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