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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第5章 (中) 祈源覚醒
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祈源覚醒 その2

 

「なぜだ……? なぜ魔力のチャージがされない……?」

 

 シャルディーンすらもこの状況に理解が追いついていないようだった。この中で唯一、現状を予測できていたのはその仕掛けを考えた人物——八敷意のみである。

 

「お前のその魔術……周囲の魔力をリソースとして展開するものだろう? であれば対策は簡単な話だ。土地の魔力をあらかじめ奪っておけばいい」

 

 地面に貼られていた札が光を放ち具現化する。一晩かけて周囲の魔力を吸収した札が宙を舞い、八敷意の手で収束された。

 

「なるほど、私は誘われていたのか。いやはや、やはり外出はするべきものではなかったよ。私は元来、部屋に籠って研究をするタイプの魔術師でね。フィールドワークは苦手なんだ」

 

 眼前で立ち塞がっていた三人を払いのけながらシャルディーンは呟く。

 後方にいた者たちが吹き飛ばされた三人を受け止めながら、このまま全員で畳み掛けようと追撃を仕込む。

 一気に逆転する大技を封じられたことで、勝機は文研部の方に傾いたかのように思われた。このまま数の利で押し込めば勝てる——だがそれはあの魔術師がまだ切り札を隠し持っていなければの話だ。

 

「でもその甲斐あって、こんなものを見つけることができた……」

 

 空気が歪むような感触があった。

 シャルディーンが灰色の外套から何かを取り出す。

 

「それは……要石? まさかあの霊脈を!」

 

「正しくはその核を抽出したコピーだがね。だが機能は果たせる。これが私の制御下にあるということが何を意味するか……わかるな?」

 

 霊脈の魔力を一点に集中させ、攻撃に転用させるなんて芸当が可能であるとするならば、それは凡百の魔術では太刀打ちできない、純粋な魔力の質量だけで一帯を更地にすることのできる超兵器と化す。


「とはいえ、全部を出し切るつもりはない。別の目的で使用するつもりのものだからね。それでも貴様らを屠るのには十分だろう」

 

 大地が震撼す。地中から魔力が湧き立つ音であった。

 咄嗟に八敷先生は土地から魔力を吸い上げた呪符で防御(シールド)を貼る。だが、力の差は歴然。

 たかだか校舎グラウンドの面積と、街一つ分の面積では蓄えられる魔力の量が段違いであった。

 

「くそ、ぬかった……ッ!」

 

 紫白の重圧が天より降り来たる。

 そこまでは八敷意にも予想外であった。シャルディーンが霊脈を確保している可能性は理解していた。だがあくまでその場に居なければそれによる脅威はないものだと思い込んでいた。

 思えば根城を霊脈の根源ではなく、その付近の廃校にしていたことも不自然ではあった。だが決戦の地として、霊脈を傷つけぬよう配慮した結果と思えば道理だと、そう納得していた。

 しかし実態は違った。そもそも霊脈に陣取る必要がなかったのだ。その場に居ずとも霊脈の魔力を引き出す方法を持っていた。それを前もって知っていれば対応はできたかもしれない。

 

「なに、簡単な方法だとも。基準がどちらにあるか、それをズラしてやればいい。霊脈と私を太陽と地球として見立てれば、あとは転回するだけだ」

 

 今の八敷意には彼の言葉に耳を傾ける余裕すらない。

 押し返すことは不可能。そう悟った彼女の言葉は早かった。

 

「私が押さえているうちになるべくここから離れろッ……‼︎」

 

「ですが、先生は……」

 

「構うなっ、荒志郎……‼︎ 私のことはわかっているだろう? とにかく時間を稼げ! 私が戻ってくるまで……せいぜい一度限りの大技だ。撃ちたいのなら撃たせてやればいい……そのあと反撃すれば問題はないさ」

 

「ほう、随分と余裕そうな口ぶりだな。だが私とてこの札を切るのは惜しいのだ。なにせこの霊脈は『アレ』の干渉を多く受けたからね。研究材料として大いに役立ったよ」

 

 シャルディーンは立ち竦む幸斗へ視線を向ける。

 

「何をしてる幸斗! おまえも退け——」

 

 先生の声は果たして彼に届いていたのだろうか。幸斗の脚は後ろではなく前へ——シャルディーンの方へ向かっていた。

 

「先生、あれは僕が立ち向かうべき相手だ」

 

  ◇

  

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