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十七
「殺せ」と確かに兄は言った。
彼は、なにがそうも気に食わなかったのかと、修嗣は考える。
自分のどのような態度があの顔を歪ませるのか。
歳を重ねるほど痩せ細り、やつれていく兄は、本ばかり読んでろくに話さなかった。
なにを憎んでいるのか。
わからないことばかりだ。
「殺せ」と確かに兄は言った。
誰を、と問いかける間を開けず。
「殺せ」と唱えた。
何度も何度も。
ひょっとして、と修嗣は考える。
兄も逃げ出したかったのだろうか。
自分の境遇か。それとも家族から。
わからないことばかりだ。
しかし、あれほど成績が良く、人に取りいるのが上手ければ、どこへでも行けたのではないか。
山の先の、どこへなりとも。
殺す必要なんてない。
「殺せ」
膿疲れたように唱え続ける兄の目は、いつもそう言っていた。
ひょっとして、と修嗣は考える。
あれは、他でもない、誰のことでもない。
他でもない、誰のことでもない。
「待っていたの?」
修嗣は穴の底で呟いた。




