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埋もれる檻  作者: 有理化
17/18

十七

「殺せ」と確かに兄は言った。

 彼は、なにがそうも気に食わなかったのかと、修嗣は考える。

 自分のどのような態度があの顔を歪ませるのか。

 歳を重ねるほど痩せ細り、やつれていく兄は、本ばかり読んでろくに話さなかった。

 なにを憎んでいるのか。

 わからないことばかりだ。

「殺せ」と確かに兄は言った。

 誰を、と問いかける間を開けず。

「殺せ」と唱えた。

 何度も何度も。

 ひょっとして、と修嗣は考える。

 兄も逃げ出したかったのだろうか。

 自分の境遇か。それとも家族から。

 わからないことばかりだ。

 しかし、あれほど成績が良く、人に取りいるのが上手ければ、どこへでも行けたのではないか。

 山の先の、どこへなりとも。

 殺す必要なんてない。

「殺せ」

 膿疲れたように唱え続ける兄の目は、いつもそう言っていた。

 ひょっとして、と修嗣は考える。

 あれは、他でもない、誰のことでもない。

 他でもない、誰のことでもない。


「待っていたの?」

 修嗣は穴の底で呟いた。


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