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妃が石にされたので、世界を救う旅に出た  作者: 久遠悠羽


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第8話 一行、餌として狙われる

 全ての人間が石になってから4日目の朝。


 ヴェイル達は、朝食に昨日作り上げた燻製肉を薄く切って焼き、野菜と共に挟んだ黒パンを食べると、荷物を纏めて黒竜マギシラハに積み、出発した。


 ドナウザーン公国が近い事もあって、ルロイとユティナディアは自分達で飛んで行きたいと言った為、ストライアにはヴェイル一人が騎乗する事になった。


 朝の気持ちいい空気に乗って、一行は快調に竜王城を目指して空を行く。

 天気は快晴で、気温もちょうど良い季節だった。


 竜王城が近付くと、その奥の2つ程先の山上に薄らと古城が見えてきた。


「あれが多分古代魔竜が封印されていた城だな。

 あちらに行った方がいいだろう」

 ヴェイルが呟き、二頭の子竜にも手振りで行き先を伝えた。


 ——その時、急に風で引っ張られるような感覚がした。


 彼がその方角を見ると、離れた空中に何やら炎の塊のような物が多数飛んでいるのが確認できた。


「あれは……怪鳥グリフォリオン? まずい!」


 その塊は巨大な炎の鳥の群れだった。

 体長が2ガルドル(2メートル)程もある凶暴な鳥で、身体から炎を巻き上げている。

 獲物に火を着けて弱らせ、鋭い嘴で肉を引き裂く肉食の鳥なのだ。


「ルロイ! ユティナディア! 気を付けろ!」


 ヴェイルが叫ぶ。

 しかし見る間にグリフォリオンはこちらを目掛けて飛んで来る。

 

 彼はストライアで二人の前に回り込み、

防御ランドアント!!」

と叫ぶと黒竜マギシラハごと全員を包み込む大きな防御壁を作った。


 その防御壁に向かって、グリフォリオンの群れは容赦なくぶつかって通り過ぎて行く。


「……くっ!」 

 バチバチと大きな音を立てて体当たりされる壁を守るヴェイルが、顔の前に腕を交差させて魔力を保つ。


「「うわああ!」」

 二頭の子竜達も恐ろしさに飛びながら悲鳴を上げた。


 群れは彼らを獲物と認識したのか、一旦過ぎ去った後に旋回してこちらを目指して来た。


「何っ?!」


 グリフォリオンの予想外の動きにヴェイルが一瞬躊躇う。

 彼らはギャアア! と恐ろしい声を上げながら襲って来る。


 すると突然、

爆殺炎バクラウガ!!〕

と声がし、ルロイの胸元から強烈な火焔が巻き起こり、グリフォリオン数体を焼き落としてしまった。


 火焔特性の魔法使いのリュークが、宝石から出てきて術を放っていたのだ。

「兄様ありがとう!」

「リューク! 助かった!」

 

 ルロイとヴェイルが歓声を上げる。


〔ダメだ。威力はいつもの半分か……〕

 リュークは悔しそうに言う。


 その横でユティナディアの宝石からもパトラクトラが現れた。


「母様?!」

 飛びながら驚く彼女をよそに、詠唱する。


〔消え去れ。位相終焉ウルトアント

 途端に5体程のグリフォリオンが、次々に透明な立方体で覆われて行った。

 そしてその中で『零に収束』して立方体ごと無くなってしまった。


 パトラクトラの次元を操る能力で、彼らは何処かに飛ばされてしまったのだ。


「母上の次元遣い能力は健在なんだな」

 ヴェイルが安堵した声で言う。


 しかし群れの残りの10数体は諦めずに追って来る。


 再び防御壁で防ぐが、ユティナディアが風圧に思わず頭を振った時、パトラクトラのブラックダイヤのネックレスが外れてしまった。


〔あっ!〕

「!! 母様が落ちた!」


 ユティナディアが驚いて落ちて行くネックレスを追い掛ける。


「ユティナディア!! 危ない!」

 ヴェイルが叫んだ。


 見ると下降する彼女の後を、素早く見つけた二頭のグリフォリオンが追い掛けて行っていた。


「やぁん!」

 ユティナディアが気付いて叫ぶ。

 

 すると、ズドゥ! ガズン! と重い音がして同時に

「ギャウ!!」

「グガァ!」

と叫び声を挙げその怪鳥から燃え盛る炎が消えた。

 それぞれが回転しながら落下して行く。


 ヴェイルが上から長槍で二頭を次々と倒したのだ。

 極限まで集中した時に現れる、黄金の瞳の目元に小さな蒼い炎が浮かんでいる。

 その投げ切った右腕に遅れてマントがフワリと絡んだ。


「兄様、ありがとう!」

 彼女は礼を言って眼下の森に消えて行く。


「待て! ユティ……!」

 彼が叫ぶが、目の前を物凄い勢いで飛ぶグリフォリオンに遮られてしまう。


 怪鳥は体勢を整え、執拗にまた彼らに向かって来た。


「仕方ない……氷塵瀑ゼオグランダ!!」


 ヴェイルの詠唱で、空中の全てのグリフォリオンの前に魔法陣が現れ、彼らを一瞬で氷の塊にしてしまった。

 巨大な鳥は、身体に纏う炎の先まで凍ってしまったのだ。


 それは落下する間もなく次々にバーン! バーン! と粉々に割れ、欠片となって地上の森林に降り注いで行く。


「ヴェイル兄上凄い」

 ルロイがあまりの威力に呟いた。


〔大型魔法、久しぶりに見たな。

 各国の行政が機能していたら『超鳥獣保護協会』から苦情状が届くレベルだ。

 あれでも準絶滅危惧種だからな〕

 リュークが呆れた様な、困った様な声を出す。


[ヴェイル、マオウ……]

 ヴェイルを乗せたままホバリングしているストライアも目を丸くして言った。


「ごめん、加減が出来なかった。

 ユティナディアを探さないと」

 彼は気まずそうに答えると、広い森林に目を向けた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 

 一人の旅人風の男が、森の中を歩いていた。

 人間ではないのか、額に小さな尖った角が4本、生えている。


「……なんだか騒がしいな」

 彼はそう呟くと空を見上げた。


 商業で行き交う森の街道の上空は少し開けている。

 そこに、グリフォリオンの大群が飛ぶ姿が垣間見えた。


「グリフォリオン?! やべっ」

 男は急いで木陰に隠れた。

 

 しかし群れは飛び去るどころか、行ったり来たりしている。

「なんだ、何が起こっている? 何かを追っているのかな?」

  

 そうっと顔を出してみる。

 すると、何かがキラキラと光りながら落ちて来て、近くの木の枝に引っ掛かった。


 不思議に思い拾ってみると、それは精巧な細工が施されたゴルジェット風のネックレスだった。

 真ん中に見事なブラックダイヤモンドが嵌っている。


「これは……このサイズだと本物じゃなくて『石化したエルフの子孫達』の方かな?

 でも誰がこんな細工をしたんだろう」

 彼はそう言って首を傾げた。


 その後まもなく、近くに二頭のグリフォリオンがどさどさと降って来た。

「ひぃ! って、死んでる?

 ……二頭とも長槍が胸を突き抜いているな。

 上空に凄い腕前の狩人がいる? 怖っ。逃げよっ」


 男は恐ろしげに言うと慌ててその場から離れた。


 暫くそのネックレスを持って繁々と眺めながら歩いていると、近くでカサリと音がした。

「! 誰だ!」

 

 男は短刀を抜いて構え、音のした方を向く。


 木々の間から、全身が虹色に反射する美しい毛並みをした、小さな竜がおずおずと現れた。


「竜? 何の竜だろう……綺麗だな」

 男はほっとして短刀をしまうと、竜に手招きした。


「おいで、怖くないよ。

 体長1ガルドル程か。小さくて可愛いな。

 契約の竜珠はまだ使ってなさそうだし、俺の竜にするか」


 子竜は躊躇ためらいがちに近付いてくる。

 しかし恐れている様子はない。

 男はワクワクしながら撫でようとした。


「……その、母様を返して」

「わあ」


 突然子竜が喋ったので、彼は驚いてしまった。

「竜が喋った。何、黒竜マギシラハ? 白いのに。

 それに、『母様』?」


黒竜マギシラハじゃないもん。あーにふぇだもん。

 ねえ、母様を返して」


 子竜はネックレスを指差す。

「ああ、これね……

 やっぱりこの宝石、エルフの子孫だったのか。

 あれ、竜なのに人間が母親? あ、保護者かな」


 男が自分が持っていたネックレスの宝石部分を見た。

「それにしても精霊竜アーニフェか。伝説かと思ってたけど、本当にいたんだな」


 そう言いながらもネックレスを渡してやる。

「ありがとう」


 子竜は器用にそれを首から下げると、男を見て言った。


「あなたはだあれ? 角が生えてる。

 鬼族ラーキシャス?」


「? お前、鬼族ラーキシャスを知っているのか……」

 彼が感心して返した。



 その時、

「ユティナディア! そいつから離れろ!」

と鋭い声がした。


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