第6話 アウトドア国王
トラフェリアを後にしたヴェイル達は、ドナウザーン公国を目指したが、到着までに陽が落ちそうだったので手頃な場所で野営をする事にした。
用意して来たテントを張り、6ガルドル(6メートル)はある黒竜の大きさも考慮した結界石柱を8本、地面に打ち付ける。
轟熊や栗猪といった獰猛な野生動物から身を守る為だ。
眠る前にこの石柱を通じた空間に防御魔法を張っておく準備をしたのだ。
次に食事の準備をどうしようか迷っていると、最近人語が話せるようになって来た黒竜ストライアが辿辿しく言った。
[ヴェイル、ツカレテイル。ルロイトユティナ、ストライアガゴハンタベサセル]
「ストライアが面倒みてくれるの?」
[ウン。ルロイ、ユティナ、コイ]
ストライアはルロイとユティナディアに声を掛けた。
「うん」
「分かった」
二人は返事をするとみるみる虹色の小さな飛竜に変わった。
角の先に器用に着ていた服が纏まって行く。
それを前足で外して、ヴェイルが敷いている敷物の上に置いた。
精霊竜に変わった二人はストライアと何か話している。
「ヴェイル兄上、ストライアが飛んでる時に露葡萄と蜜茘枝がたくさん成ってる所を見つけたんだって。
僕達、今夜はそれをご飯にするからね」
黒竜と精霊竜の食性は主に草食だ。
特に露葡萄は彼らの大好物でもある。
「そうか、助かるよ。ストライア、二人を頼むね」
ヴェイルは嬉しそうに飛んで行く三頭の竜を見送ると、小さな焚き火を燃やし、自分は持って来た保存食を少し食べた。
夜、戻って来た子供達は果物を十分食べて満腹になったのか、竜の姿のままストライアと丸まって眠ってしまった。
ヴェイルは結界石柱に防御魔法を掛けた。
8ヶ所の石柱からそれぞれ幕が広がり、巨大な部屋のようになって半透明の防御壁が形成され、彼らを包み込む。
更に手の中に水晶の球のような魔力の塊を作り、石柱の1本の根元に置いた。
そこから常に魔力が供給され、一晩中自動的に防御壁を作り続けるのだ。
そして焚き火の側に戻り、ハウエリアから託された衣を広げた。
横の手頃な倒木の上には、ルビーとトパーズ、ブラックダイヤモンドの嵌ったネックレスが並んで置いてある。
側にはルロイ達がお土産だと言って持って帰って来てくれた、露葡萄と蜜茘枝も添えてある。
「ルロイにもユティにも聞いてみたけど、彼らは精霊族の魔法陣は読めても書けないんだな。
まあまだ幼いし……でもこれだけでは解析が進まないな」
ヴェイルはそう言うと、自分の魔法陣を出してみた。
方程式解析魔法陣も出して来て、文面が似ている部分の魔術方程式を割り出してみる。
「見本が少なすぎる。これからどうやって割り出すんだ……
どこか他にもないだろうか」
彼は途方に暮れた。
——静かな夜に、焚き火がパチパチと音を立てて燃えている。
ヴェイルは炎と魔法電池のランタンの灯りを頼りに、一心に衣の紋様を眺めていた。
〔困っているようだな、ヴェイル〕
不意に声が聞こえて顔を上げる。
見るとブラックダイヤからパトラクトラが浮かび上がっていた。
「母上……」
彼がほっとした顔になった。
〔出現が遅くなってしまった。
宝石の身ではなかなか魔法が錬成出来なくてな……
お前がくれた術式を再読込するのにも苦労したんだ〕
「いいよ、まだ出て来れたのは母上だけだし」
〔リュークとアリアならその内出てくるだろう〕
「だといいけど……」
ヴェイルは不安そうな表情を浮かべた。
〔ハウエリアは無事だったのだな。
良かったではないか、精霊族の魔法陣も手に入ったし〕
「うん。ハウエリア様がご無事だったのは本当に良かった。
でもこの衣の魔法陣だけでは簡単な方程式も解析出来なくて……」
〔焦るな。またどこかに別の物があるだろう。
お前はあの子達を連れてよくやっている。
こんなに子守が上手いとは正直思わなかったぞ〕
「まあ一応、今は俺が唯一の保護者だしね……」
少し寂しげにヴェイルが返した。
パトラクトラは満天の星が広がる暗い空の、ドナウザーンの方角を見上げて言った。
〔ドナウザーンには何をしに行く?
あそこの人間も石になっている事だろう。
竜人とは言え、彼らは【竜の血を引くエルフの子孫】だからな。
ルロイ達のように竜型にはなれん〕
「封印されていた場所を調べてみようと思う。
精霊族の紋様もあるかも知れないし」
〔石化魔法は、古代魔竜を見つけ出して解除させるのか。
その後また封印するつもりなのか?〕
「古代魔竜は探すつもりだけれど、もしかすると魔竜自体が解除方法を知らないかもしれないんだよね。
そこを考えると、やっぱりハウエリア様が言ったように石化の逆式再生の解除魔法を錬成した方がいいんじゃないかと思うんだ」
〔なるほど。お前になら作れそうだな〕
パトラクトラがそう言った時、ルビーとトパーズが光り、リュークとアリアが姿を現した。
〔やっと出て来れた……〕
〔ヴェイル、こんばんは〕
「リューク、アリア。良かった、出て来れるようになったんだね」
二人の姿を見たヴェイルが笑顔になって言った。
〔ああ。時間は掛かったがな〕
〔会いたかった〜〕
アリアが無邪気に腕を広げる。
ヴェイルも立ち上がってそっと抱きしめたが、映像状態の彼女に触れる事は出来ない。
「……触れないの辛い」
〔私も〕
お互い切なげに言う。
〔仲は良いようですね〕
〔うむ。しかし見ていて可哀想だな〕
リュークとパトラクトラが声を漏らした。




