第4話 旅の準備
リューク達が宝石の中に消えた後、ヴェイルは暫く佇んでいたが、やがてユティナディアとルロイに食事を用意してやる為に自室の厨房に立った。
朝食を終えると二人に言う。
「明日から旅に出る。暫くこの城には帰って来ない。
だから、部屋からルロイとユティナディアの大切な物を一つずつ持っておいで」
「旅?」
「旅ってなあに?」
「知らない所を巡って、誰かを見つけてお話を聞いたり冒険したりする事だよ。
俺達三人で、みんなの石化魔法を解除しに行こう」
「わあ、素敵。私頑張る」
「僕も頑張る、リューク兄様を元に戻すんだ。
でも、どこに行くの?」
彼らは目を輝かせる。
「一度、黒竜と共に竜人族の国、ドナウザーンに行って状況を見る。
その後は……そうだな、遺跡やお前達が生まれた場所にも行くかも知れない」
「精霊族のファルラーンの森?」
「うん。今、人の姿で多分石になっていなくて、友好的に話してくれそうな種族は精霊族しかいないから……知恵を借りたい」
「分かった。大事な物取ってくるね」
「待ってて、兄様」
ルロイとユティナディアはヴェイルの部屋から出て行った。
二人が去った後、彼はリュークとパトラクトラ、アリアの宝石のサイズを丁寧に計った。
昨日の段階で見つけておいたリュークとルロイの父母の宝石であるガーネットとタンザナイト、従姉妹のアウドラだったエメラルド、それに父グラディスの紫水晶も机に並べる。
「みんな、待ってて。必ず救ってみせるから」
家族だった者達を眺めて誓いの言葉を囁く。
やがて二人が自分達の大切な物を持って戻って来た。
「何を持って来たんだ?」
「僕は、リューク兄様がくださったオカリナ……」
ルロイが大切そうに、オカリナを差し出す。
「私は、母様の竪琴よ」
ユティナディアもそう言うと、小さな竪琴を見せてきた。
どちらの楽器も楓の木で丁寧に作ってある。
「二人とも楽器を持って来たんだね。
それも荷物に入れようか」
ヴェイルが目を細めて言った。
彼はその後、クローゼットから収納魔法が使える鞄を出し、揃えておいた旅に必要な物を詰め込む作業を始めた。
「野営に必要なテント、魔力電池ランタン、結界石柱、毛布、布類、布袋、筆記具、水筒、鍋、調味料、小麦粉、ハーブ。
食器にナイフに、保存食は……干し肉、黒パン、乾燥穀物、チーズ……果物は調達出来るな。
それに着替え。この子達の分もいる。
ええと、火種は俺が雷で点けれるし、水を調達する場所は確か……」
そう呟いて手を振る。
すると空中に光の線で描かれた世界地図が現れた。
一部を拡大し、水源の確認をする。
「軍部機構は止めておいたけれど、記録庫転送は俺の魔力だけで引き出せる様だな。
進行先に2箇所ある。いざとなったら俺も水を作れるし、いいか。
肉は欲しくなったら途中で狩でもしよう」
独り言を言うと地図をしまう。
「ねえ、リューク兄様と伯母上様、アリア姉上以外の宝石からはきゅうきゅうきゅうえんよーせいの魔法陣、出て来ないね……」
「みんな、やり方が分からないのかな」
準備に勤しんでいるヴェイルに、ルロイとユティナディアが机に並んだそれぞれの宝石を眺めて話し掛けて来た。
「そうだね。やはり能力によって魔法陣を外に出現させられる人とそうでない人がいるのだろう。
リュークとアリア、母上はそれだけ魔導師としても優秀という事だな……」
彼はそう答えると手を止め、ルビーとトパーズ、それにブラックダイヤを眺めた。
朝現れてから、彼らはまだ宝石から出て来る気配がない。
ヴェイルは少し心配になったが、それを妹と従弟に悟られないように努めて平然と準備をした。
夕食と湯浴みを済ませると、今日は二人をベッドに潜り込ませ、少しやる事があると言って彼は作業室に篭った。
ルロイとユティナディアは不安に思ったが、夜も深まっていた事もあり、やがて眠ってしまった。
次の日の朝、準備を済ませた三人は出発する事にした。
「二人とも、側においで」
ヴェイルが声を掛ける。
ルロイとユティナディアはすぐに寄ってくる。
彼は、二人の首にゴルジェット風の美しいネックレスを掛けてやった。
ルロイにはリュークのルビー、ユティナディアにはパトラクトラのブラックダイヤが嵌っている。
ヴェイルが一晩かけて作り上げた物である。
「これは宝石を支える為に二重に付けた鎖に魔法が掛けてあるんだ。
今みたいに人型の時も、精霊竜の姿になった時にも自在に伸びて首元に収まる。
これを付けていたらいつでもリュークや母上と一緒にいられるだろ?」
「綺麗。兄様ありがとう」
「ありがとう、ヴェイル兄上」
二人は自分の胸元に光る宝石に目を輝かせた。
彼は微笑むと、自分の首にはアリアの宝石であるトパーズの付いた、同じデザインのネックレスを掛けた。
その山吹色に輝く石にそっと手を置き、祈る様に目を瞑る。
必ず元に戻すと、心の中でもう一度誓ったのだ。
そして見た目以上に荷物が詰まった鞄を持ち、戸締りを確認すると中庭で自分の契約竜を呼んだ。
王機竜、黒竜のストライアだ。
以前からルロイとユティナディアの面倒もよくみてくれる竜である。
三人用の鞍を付け、父の武器でもある長槍を装備し、鞄も括り付ける。
「ユティナディアは俺の前に座って。ルロイは後ろだ」
「僕、最初から一緒に飛んで行けるよ」
ルロイがワクワクしながら、今にも竜化しそうになって言った。
「距離がある。最初から無理はしないように。
俺にくっ付いておいで」
ヴェイルはそう返すと二人を鞍に乗せ、自分も跨り、ストライアに上昇の指示を出した。




