第30話 帰国の途
数日後、旅の準備を整えたヴェイル達一行がナザガランへ向けて帰国の途に着く事になった。
荷物を積んだストライアにヴェイル、アリア。
イシュテリスにパトラクトラ、ユティナディア。
そして新しく野営用の荷物を積んだアグライアスにリュークとルロイが乗って、大精霊リナリアの前に並んだ。
彼女は8ガルドル程の巨体なので、各自が竜に乗った状態の方が顔が近くなる。
「皆、気を付けて行くのだぞ。
特にアグライアス、お前は初めて人を乗せるのだ、飛ばしすぎないようにな」
リナリアがそう言いながら3頭の竜の頭を順に撫でてやる。
[大精霊、……あの、わたくしが不在でも大丈夫ですか?]
ヴィスニクスを亡くしたばかりのリナリアを気遣い、アグライアスが問う。
「ありがとう。私には妖精達や精霊達も付いていてくれる。大丈夫だ。
お前は心配せずにしっかりと役目を果たせ」
[……はい]
「では、この度は大変お世話になりました。
旅支度も誂えていただきまして、感謝しております」
「十分な食材もありがとうございます」
精霊達から野営道具と旅装束を誂えて貰ったヴェイルとリュークも礼を言う。
「元は我らから発した災いだったのだ。こちらが謝らなければならなかった。
本当にすまなかったな。
旅の無事を祈っている。
……だがこれを機会に、故郷の一つと思ってまた遊びに来てくれると嬉しい」
リナリアが答えた。
「はい、また来ます。大精霊」
「楽しかった!! また来るね、大精霊!」
ルロイとユティナディアが満面の笑みで言った。
パトラクトラも深く頭を垂れて礼を言う。
「滞在への配慮、感謝いたします。
精霊族の国、特にここファルラーンの森は我らの祖先が生まれた地。
末永く浄らかで健やかならんことを祈ります」
彼女の言葉を合図のように皆は大きく頷くと、3頭の竜がゆっくりと上昇し、ナザガランに向けて出立した。
大精霊の服に止まっていた数頭の蝶がヒラヒラと空に舞う。
フィオリア他の妖精や、精霊達も少し後を追って手を振ってきた。
「またね! ヴェイル! みんな!」
彼女の声に、騎乗の六人も手を振った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
竜達は南を目指して高速で飛んで行く。
「ストライア兄上の乗り心地も最高だけど、アグライアス兄上も凄い!
全然揺れないしお背中ふわふわ!」
初めて乗った精霊竜の背の上でルロイが歓喜の声を上げる。
「そ、そうだな……凄く操作もし易いし、羽ばたきの際の上下動もほぼ出ない。
これがコイツの本気か……」
リュークも思わず同意する。
[乗り心地はいかがですか?]
二人の声を聞いてアグライアスが問い掛ける。
「快適だ」
「うん! 凄くいい!
ねえ、僕も大きくなったらこんなに凄い竜になれる?」
[なれるとも! ルロイ、先々には共に精霊族の誇りとなろう]
同じ精霊竜の弟に言われ、彼は嬉しそうにそう返した。
二人の率直な感想に気を良くしたアグライアスは、先に飛ぶ黒竜達を追って、虹色に光る翼を平行にし山肌をスゥと優雅に渡って行く。
その日から1日かけて精霊族の国を抜け、鬼族の地を飛び総計2日程でタイカーシアまで行く予定だ。
数日を跨ぐ為、途中の森で野営を挟みながらの旅となった。
行きの大人一人と幼児二人の旅とは違い、帰りは大人は三人だ。
アグライアスを入れると四人になる。
妖精や精霊達から貰った食材もあるが、早速ヴェイルとアリアが勇んで狩に行ってしまった。
「……臣下のオレがテント張ったり竈門作ったりするのは判るけど、なんで国王と王妃が揃って狩に行くかな……」
野営の準備をしながらリュークが呟く。
「石拳でリューク殿が負けたからでしょう?」
テント張りを手伝う人型に戻ったアグライアスが言う。
夜は2基のテントに男性陣、女性陣が別れて眠るのだ。
アグライアスは例の妖精の家を作る魔法を使って簡易な小屋を作り、そこで一人で眠る事になっている。
「勝ったヴェイルは分かるが、それにしたってアリアまで狩に着いて行くか? 普通……」
本当は行きたかったリュークが更に言いつつ杭を地面に打ち付けた。
「アリアはドラゴンキラーだからな。少し暴れたいのかも知れん。
まあ、火を熾すのもお前なら得意だろうから適任だ」
森の中からルロイとユティナディアと共に小枝を拾い、薪も作って持って来たパトラクトラが言った。
「あれ、パトラクトラ様。その薪はどうされたのですか」
「私が作った」
「……木を切り倒して?」
「似ているがちょっと違う」
アグライアスとリュークは顔を見合わせる。
「お母様凄いの! 木に向かって魔法を掛けたら薪になったのよ!」
ユティナディアが自慢げに言った。
「どうやって?」
アグライアスが聞く。
「木に対して位相終焉を細い長方形の格子状に掛けたら、その部分が飛んでなくなるからな、そのまま薪の形になる」
彼女が事もなげに説明した。
「魔法で? 魔力がお強いのですね」
「いや、薪作りぐらい後でオレがしますよ。
伯母上様は座ってらしたら宜しかったのに」
リュークがやや困って返した。
そこへ、
「テントの設営は終わったか?」
と言いながらガサガサと藪を掻き分けヴェイルとアリアが帰って来た。
見ると、二人は細めの木を2本通して吊るした、巨大な野牛を担いでいた。
「わあ……」
「大きい」
「ほう、凄いな」
ユティナディアとルロイ、パトラクトラが声を上げる。
「ヴェイル、アリア……狩が速すぎるだろう。
それにしても凄い獲物獲ってきたな……って、うわ、首がない」
リュークが驚いて言う。
「アリアが首を落として仕留めたんだ。
ちょうど血抜きになって良かった。
内臓と血管内の血も俺が霧散で飛ばしておいたぞ」
「リューク様ずっとお肉食べたがってましたもんね」
ヴェイルとアリアは嬉々として言う。
「そりゃ食べたかった。美味そうだし嬉しい。けどもさ……」
本気で規格外だぞお前達、という言葉を飲み込んでリュークは黙る。
「……なんだかわたくし、物凄い王様と王妃様を目の前にしている気がします……お身体の割に怪力ですし」
アグライアスが呆気に取られて言った。
「オレも今、平和な時の戦闘魔法の使い方が尋常じゃない国家元首達に仕えてるよなって思ってたとこだ」
リュークも応える。
「どれ、解体は私に任せろ。
お前達、良い部位を石拳で勝った者から取っていくぞ」
パトラクトラが腕まくりをしてスッと両手を上げ、野牛に向かって呪文を唱え始めた。




