第27話 戻って行く人々
ヴィスニクスから放たれた魔法は星の表面を魔法衝撃波の風となって伝わって行く。
それは各地で石に変わってしまった人間を次々と元の姿に戻して行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
竜人国ドナウザーンの近くの森の中で、鬼族のキルグナが、一人でぶつぶつと言いながらトボトボと歩いている。
「今夜もキノコと山菜の鍋か……俺は狩も上手くないしな。
ああ、肉が食いたい。
あのナザガランの国王が作った栗猪の燻製肉は美味かったなぁ……」
そこへ、強烈な風が吹いてきた。
「うわっ!」
彼が驚いて顔の辺りを覆う。
しかし薄目を開けてみると、風の中に魔術方程式が流れて行くのが見えた。
「魔術方程式の風? ……もしかして……」
風はあっという間にキルグナを吹き抜けてドナウザーンの国へ向かって行く。
「今のは多分、石化解除の魔法だ。
あの若い国王、とうとうやり抜いたんだな?」
肩や髪に吹き付けた木の葉を払い落としながら、彼は嬉しそうに言った。
「こうしちゃいられない。ドナウザーンに行くか。
あの国の紺碧鶏の肉は美味いんだよな!」
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ドナウザーンにも風が到達した。
古城に集められていた貴石が、人の姿に戻る。
「うわっ!」
「ぐうっ!」
「父上?! 申し訳ありません!」
やや重なるように人に戻った竜王と臣下に、王太子リオクが自分の下になってしまった父の上から飛び退いて謝る。
「うむ……よい、どうやら助かったようだな」
「はあ……一体何がどうなったのやら……」
「私達エルフ由来の人間は全て、古代魔竜に石化させられていたのですよ、父上」
ヴェイルと少し話したリオクが説明する。
「何? それが何故解除出来たのだ」
「それが、数日前にナザガラン国王と精霊竜のお妹君と従弟殿が来られまして、解除魔法を作るとおっしゃられていまして……どうやら成功なさったようです」
「なんと。では古代魔竜を倒されたという事か? それは……ううむ。
詳細が分かり次第礼を尽くさねば」
彼らは急いで古城の門前まで出た。
しかし石になってからかなり経っていた為、停留させておいた竜は逃げてしまっていた。
「竜がいない。我らは一体どれぐらい石になっていたのだろう。これでは帰るのに相当時間が掛かってしまう」
「お任せください、父上」
「そうか、お前がいたな」
リオクが空に向かって集竜魔法を掛ける。
彼は『魔竜遣いのリオク』という二つ名がある程の竜遣いだ。
程なくして、人数分の飛竜が集まって来た。
リオクの術に掛かると調教がなくとも素直に騎乗可能の竜となるのだ。
全員が飛竜に跨り、竜王が一喝する。
「帰るぞ! 竜王城へ!」
「はい!」
彼らを乗せた飛竜は、滑らかに空へと上昇して行った。
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ナザガランの南にあるトラフェリアの国では、女王ハウエリアが神殿で祈りを捧げていた。
中心部近くにある棚の上には、シトリンがベルベット張りの宝石台に置かれて乗っている。
不意に、室内であるにも関わらず強い風が吹き付けて来た。
「あっ」
突然の風に、ハウエリアは腕で顔を庇って目を瞑る。
「……何事かしら」
そう呟いて、吹き抜いて行った後を見送るように顔を上げた。
すると、彼女の後ろから、
「……お母様……」
という懐かしい声が聞こえて来た。
「!」
ハウエリアが振り返る。
棚の上に、自分の愛する娘、王女ミレーヌが座っていた。
シトリンから人の姿へと戻ったのだ。
「ミレーヌ!」
「お母様!」
ミレーヌが飛び降りて駆け寄り、ハウエリアに抱き付いた。
彼女もしっかりと抱き締める。
「ああ……ああ! 良かった!
石化魔法が解けたのですね」
「そうみたいです。お母様はご無事だったのね。
これは一体どういう事なのですか?」
女王が抱き締めながら説明する。
「ミレーヌ。今回はエルフ由来の人類が全て石にされてしまっていたのですよ。
私は精霊族の防御魔法陣が描かれた聖衣を着ていたので無事でした。
ヴェイル様が来られて、様子を見てくださったのです。
この魔法を解かれたのも、あの方でしょう」
「ヴェイル様が?
……あの方は一体、どこまで素晴らしい方なのでしょうね。
リューク様もご無事でしょうか」
ハウエリアはミレーヌから離れ、笑顔で言った。
「きっと元に戻られたと思うわ。
さあ、私達も国民の様子を見に行きましょう。これから忙しくなりますよ」
「はい、お母様」
ミレーヌも笑顔で返し、母の手をもう一度取った。
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ナザガランでも風は吹き抜けて行っていた。
「「「……」」」
ヴェイルの部屋に集められていた貴石類が人に戻る。
父グラディスの腕の中にアウドラ、リュークの父ストリクの胸元には妻ミシュレラが収まっていた。
「! 叔父上様っ! 申し訳ありません!」
「う、うむ。私こそ年頃の娘を……すまぬ」
アウドラが呆然としているグラディスの腕の中から慌てて降りる。
「……ストリク。嬉しいが照れる」
「いやこれは、石になっている間にまとめて置かれていたからであって」
「別に普段からも抱き上げてくれていいのだぞ?」
「ミシュレラ殿、そのような事は人前で言うものではありません」
ストリクが赤くなって囁く。
「……愛想のない男だな」
ミシュレラがスラリと夫の腕の中から降りた。
グラディスがコホンと咳払いをして言った。
「石化が解けたな。どうやら、ヴェイル達が上手くやったようだ」
「そのようですが、一体どこまで行ってどうなさったのでしょうか」
ストリクが答えた。
「分からぬ。恐らくパトラクトラとリューク、アリアが同行していると思われるのだが、急ぎ魔道街道を構築し直さねばな。
……通信貴石が使えるといいのだが」
グラディスが、固まっていた肩をほぐしながら言い、指示を出す為に部屋を出て側近を呼んだ。




