第24話 精霊竜アグライアス
「賑やかで済まないな。我々の国は長い間平和でな。
あの者達も少々刺激が欲しいのだ」
連れて行かれるアリアを長く見送っているヴェイルに、リナリアが声を掛けた。
「……いえ、良いのです。
彼女達はアリアが『元に戻って帰る時に』と言ってくれました。
それは、私達が無事に解除魔法を作り出せると信じてくれているからこそ出た言葉だと思うのです」
「そうか。ならば解読に励まねばな」
そしてまた共に魔法陣を眺め、術式の解読に努めた。
暫く経った頃だった。
ヴェイル達は詰まっていた。
「……ここの竜紋だが……どう読むのだろうか。
何せ7、8000年も前に作られた魔法ゆえ……」
リナリアが難しい表情をする。
「リナリア様程のお方でも解読が困難な部分なのでしょうか」
「いやすまぬ。解析書を探してみようか」
彼女がそう言って顔を上げた時だった。
「ヴェイル兄上!」
「兄様!」
彼らの元に、誰かを連れたルロイとユティナディアが歩いて来た。
見ると、成人している精霊竜らしい美貌の青年が、二人に両側から手を引かれている。
「僕達の『精霊竜の兄上』を連れて来たよ。あっちで一緒に遊んでくれてたんだ」
「『アグライアス』ってお名前なのよ!」
小さな子供達は嬉しそうに紹介した。
「アグライアスか。ちょうど良かった」
リナリアが表情を明るくして声を掛けた。
「アグライアス……とは?」
ヴェイルが不思議そうに尋ねる。
「彼は精霊族の国に残ってくれている唯一の精霊竜だ。
先日言っていた百年ほど前に生まれた者だ。竜紋も彼なら読み取れるだろう。
アグライアス。こちらは話していた例のエルフの子孫の人間達だ。
国王のヴェイル、母御前のパトラクトラ、従兄のリュークだ」
彼女の紹介にヴェイル達もアグライアスを見て挨拶をする。
彼は胸に手を当て、丁寧に頭を下げた。
「初めまして、アグライアスと申します。
この子達の兄です。お引き取りいただきお世話くださりありがとうございます。
以後お見知り置きください」
〔……兄……だと? 聞き間違いか?
ルロイにとってはオレの方が本当の兄だ〕
宝石から浮かび上がっているリュークが呟いた。
「……ほう?」
アグライアスが聞き付けて彼を見る。
「わたくしども精霊竜の中では、ルロイとユティナディアは弟と妹ですが?」
〔精霊竜は卵生だ、明確な血筋はない。
ルロイは精霊竜に転生する前は『ロイ』という名のオレの実の弟だったんだ。
本人だと明かすと民政上都合が悪いから養子としたのだ〕
「けれども見た目も何もかも精霊竜ですよね? 今はわたくしの弟ですよ」
〔……〕
リュークが悔しそうに黙る。
「あの、アグライアス兄上、僕本当にリューク兄様の弟だったんだよ。父様も母様も同じ人。
記憶を持ったまま転生してるんだ。
それにごめんね、今も戸籍の上で、ちゃんと兄様の本当の弟なの」
ルロイが彼を眺めあげて言った。
「おお、ルロイよ、そうだったのか。
お前が謝ることではないのだよ。
そうなると、リュークとやらがお前の兄ならば、さらに歳上のわたくしは彼の兄も同然。
今後は彼もわたくしの弟としよう。兄弟とは良いものだ」
〔なんでだよ。ただ『弟』が欲しいだけか?〕
〔もう良いではないか、リューク〕
食ってかかりそうなリュークにパトラクトラが止めに入った。
〔変わった認識をしてはいるが、優秀そうな竜だ。
そなた、こちらの竜紋が解読できる者であろう?
どうか協力してもらえないだろうか〕
彼女がアグライアスに語り掛ける。
彼がパトラクトラに気付いた。
改めて見つめてハッとして返す。
「あなたは……なんと美しいお方ではありませんか」
〔? 誰が?〕
パトラクトラがキョロキョロと辺りを見回した。
アグライアスは飛ぶように彼女の元に近付くと、跪いた。
「あなたのような方をずっと探しておりました。
是非、わたくしの伴侶に……ああ、なんという運命的な出会い!」
〔んん? 私を?〕
〔貴様、なんて事を!〕
「母上を伴侶に?」
彼の発言にパトラクトラが驚き、リュークの怒りが増し、ヴェイルが変な声を上げた。
「これ、アグライアス、控えよ。それにふざけるのも大概にしろ。
そしてこっちへ来て竜紋を読んでみてくれ」
リナリアが堪らず言った。
「……はい」
アグライアスは残念そうに返事をして彼女の言葉に従って立ち上がり、魔法陣の側に行った。
「この者は少々甘やかしすぎてな……非礼を詫びる」
リナリアが申し訳なさそうな顔をしてヴェイル達に言う。
「非礼などではありません。
エルフの子孫達ですよ? わたくし達の子供同然じゃありませんか」
アグライアスが楽しそうに笑って顎に手を当て、魔法陣を眺めながら返す。
「アグライアスよ、そのように言うものではない」
大精霊はますます困っている。
〔パトラクトラ様、アイツ無礼すぎます。いっそ消しませんか?〕
リュークがこっそりパトラクトラに耳打ちした。
〔ふむ。……まあ人を見る目はあるようだ〕
彼女は少し姿勢を正し、腰に両手を当ててリュークを見た。
〔今は解読に必要だからな、様子を見ようではないか〕
いきなり美貌の竜に求婚されたのが少し面白かったのか、得意げに言う。
〔オレはパトラクトラ様がお美しいからこそ、いきなり求婚する様な奴は許せません……〕
リュークは不満げに返す。
「見る目って……もう俺という成人した息子がいる女性だぞ?
それでも精霊竜にとっては求婚したくなるほどなのだろうか。
母上も、父上がいるんだからはっきり断ればいいのに……」
ヴェイルが呟く。
〔何か言ったか?〕
「あ、いえ特には。竜紋、読めそうかな」
彼はそう言うと、アグライアスの近くに行って覗き込んだ。




