第23話 アリア、貸し出される
次の日から、精霊族の国での衛竜の魔法の研究が始まった。
書斎で集めた資料を広げ、石白竜の魔法陣の写しと衛竜の魔法陣の写しを広げて解析する。
魔術方程式解析魔法陣も出して皆で暫くあれこれと解析を進めた後、パトラクトラが言った。
〔石白竜の術式は【状態】術式数2、解也【結晶質石灰岩】終了終日。
対して衛竜は……【状態】術式数86、解也【鋼玉酸化軽銀水酸基珪酸塩□式結晶多構成】【限定大也等号硬度6.5】……終了□解除大気濃度安全圏
基本発動形式は同じだな〕
〔……とても解析出来る範囲とは思えませんが〕
読み解くパトラクトラの言葉に覗き込んでいるリュークが感想を漏らす。
〔しかしやらねばならん〕
「衛竜の方は硬度が6.5以上の貴石限定みたいだな」
ヴェイルが言う。
〔そうだな。4000年変質せずに天変地異に耐え得るかどうかは微妙だが。
魔力によって結晶構造が安定しているなら、硬度6.5程度以上でも無事でいられるのだろう〕
パトラクトラも応える。
「この形成術式を解除、再形成の方がいいか、逆式再生の方がいいか……」
〔やはり逆式再生の方がいいだろう。解除、再形成なら魔力が2倍いる〕
〔するとこの式を乗算から除算に……発現角正弦と対象の余弦の和、いえ、間に挟まっている竜紋が読み取れないからここは保留ですか〕
リュークも解析に加わる。
「竜紋もだけど、精霊紋章も解らない。やはりリナリア様に聞きに行くか……」
〔うむ。我々では埒があかん〕
ヴェイルはそれぞれの魔法陣を閉じて道具を持つと、トパーズとルビー、ブラックダイヤのネックレスを持って家から出た。
「あ、ヴェイル兄上!」
「兄様!」
近くで遊んでいたルロイとユティナディアが声を掛けて来た。
「二人とも。ここで遊んでいたのか」
「うん。みんなとっても優しくて楽しい」
「精霊や妖精の子供もいるんだ」
二人がニコニコして寄って来た。
手には妖精達が作った玩具を持っている。
近くには物珍しそうに彼らを見て来る小さな妖精や精霊達がいた。
「良かったな。俺は母上達と大精霊様の所に行って来るから、もう暫く遊んでいられるかな?」
「うん!」
「大丈夫!」
「そうか。じゃあ、みんなと仲良くね」
「「はーい」」
ルロイとユティナディアは良い返事をすると、また新しく出来た友達の元へと駆けて行った。
〔楽しそうで良い里帰りになったな〕
「そうだね。またたまに連れて来ても良いかも」
パトラクトラの言葉に、ヴェイルが返す。
彼らは大精霊がいる詩の樹の根元まで来た。
「リナリア様。衛竜の魔法陣で私共では解らない部分がございます。
一緒にご覧いただけますか」
ヴェイルが話し掛ける。
すると、やはり何処からともなく精霊を連れた彼女が現れた。
「ヴェイル。どの部分だ? ここに広げてみるが良い」
大精霊が言う。
彼は地面に直径2ガルドル程の衛竜の魔法陣の写しを描き出した。
「この部分の竜紋と、精霊紋章も解読出来ませんので、お教えいただきたく」
「どれどれ……」
彼女がかがみ込んで見てくる。
すると、ヴェイルの周りに好奇心旺盛な妖精達が集まって来て彼を囲んだ。
「あ、この精霊紋章分かるわよ。『全てのエルフの子らに』」
「『時を超えて平穏をもたらす』」
「『風を遍く行き渡らせ』」
彼女らが口々に言う。
「これ、お前達。それでは彼が分からぬではないか」
大精霊が嗜めた。
「だって大精霊、面白そうなんだもの」
「私達だってお役に立ちたいわ。ねえ?」
妖精の一人がヴェイルの顔を覗き込むようにして言った。
「え、あ、ああ……」
彼が距離の近さに困る。
その時、
〔ダメェ……!〕
と声がして、トパーズからアリアが出現して来た。
「アリア」
〔ヴェイルは私の夫なの! そんなに近付かないでっ〕
そう言って触る事は出来ないがヴェイルの首元に横から抱き付く様子をし、妖精達をキッと見つめた。
彼女の顔が真っ赤になっている。
昨晩から相当我慢をしていたのだろう……
「あら……」
「まあ」
妖精達が口に手を当て一瞬黙った。
しかし金髪の可愛らしい王妃にすぐに目を輝かせて言った。
「可愛い。ヴェイルのお妃様?」
「シルクのスリープドレス着てる」
「眠り姫みたい」
〔こ、これは……私は眠っている間に石にされたから……〕
アリアが恥ずかしげにドレスの裾をつまんだ。
彼女の様子を見ていた妖精が言う。
「ヴェイル、この子にお衣装作ってあげても良いかしら?」
「アリアに?」
「ええ。元の姿に戻って帰る時に着られるように、今、布地や意匠を決めておいたら私達が作っておいてあげるわよ」
「そうね、それがいいわ」
〔はい?〕
どうやら妖精達はアリアに衣装を作る気になったらしい。
「お妃様をワタシ達に貸して」
「ええ?」
ヴェイルが思わずそう言い、胸元のネックレスのトパーズを両手で隠す様に握りしめた。
「ヴェイル。大丈夫だ、悪いようにはせん。
彼女らに妃を預けるがよい。フィオリア、着いて行ってやれ」
大精霊が言った。
「分かりました。ヴェイル、ネックレス貸して」
フィオリアが手を出す。
「アリア、君はどうなの?」
〔そうね。お衣装は気になるわね……正直、みんな素敵だなって思っていたの〕
アリアが組んだ両手を口元に持って行き、妖精達が着ている色鮮やかな衣装を羨ましげに眺めて言った。
「そう。……それなら、頼んだよフィオリア」
「任せて」
ヴェイルは大事そうに首からトパーズのネックレスを外して、彼女に渡した。
妖精達がアリアを囲んでワイワイと街の方へと連れて行く。
〔アリアも何処に行っても何故か人気があるな。流石ヴェイルの妃だ〕
〔そうですね。誰にでも可愛がられる性分なのでしょうね〕
見送るパトラクトラとリュークが言葉を交わした。




