第22話 妖精達のおもてなし
大精霊の言葉を聞いたアリアが何かを言おうとしたが、その姿はかき消す様に見えなくなってしまった。
それに続く様にパトラクトラとリュークの姿もふと消えてしまう。
「……」
「? なんと」
残念そうなヴェイルの様子に、大精霊が驚いて聞く。
「失礼いたしました。彼らは今、宝石と化していますので……
私が外から開いた魔道を通じて、自らの魔法で本来の姿を描き出して出現しておりますが、その魔力も普段よりかなり低くなっております。
その為長くその姿を保つ事が出来ないのです」
彼が立ち上がり、トパーズの嵌ったネックレスを持ち上げ大切そうに胸に抱いた。
「大精霊、私共の魔術解析に手をお貸しいただけないでしょうか。
私には読めない精霊族の魔法術式や、竜紋もございます。
更に解析が済み、術式を完成させられたなら、大精霊に魔法陣を発動して頂かなければなりません」
「私がか?」
「はい。此度の魔法は我々の使う古代エルフ語ばかりではないので、私が唱えても正しく発現しないと思われるのです」
「……そうか。分かった、協力しよう。
それから……」
大精霊は少し頬を染めた。
「そなたの様な遠縁の美しい者におかあさま呼びをされるのは……まあ確かに女祖ではあるが……私の事は『リナリア』でいい。
先代が付けてくれた名だ」
「承知いたしました。
リナリア様。素敵なお名前ですね」
ヴェイルがほのかに笑って返した。
「……やっぱりあの子、精霊なんじゃない?」
「綺麗よねえ……」
彼を大人しく眺めていた妖精達が囁き合い、大精霊の側に何人か立っている精霊達も、密かに背筋を伸ばした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
精霊族の国にも街はあるようで、精霊や妖精達が様々な個性的な家を建てて暮らしている。
ヴェイルとルロイとユティナディアの三人には、フィオリア達が魔法で家を一軒作ってくれた。
彼の要望で厨房と居間、洗面所、バスルームに三人分のベッドがある寝室、それに研究に使える書斎も備えてある。
「暫くここに滞在して研究していいって言われたよ。
小さいけれどいい家だ」
ヴェイルが喜んで荷物を下ろす。
ルロイとユティナディアも早速ベッドに駆け寄って柔らかさを確認していた。
「凄い。お布団が綿菓子みたいにふわふわ」
「やっぱりキノコから作られてるのかな」
「だとしたら凄い魔法だね。
机や椅子はどうやらちゃんと木みたいだけど」
二人の言葉に、書斎の家具を確認したヴェイルが言った。
「妖精達は魔法もそうだけど、物作りや仕立ても得意だそうだ。
実際に目にしたら素晴らしい技術なのが分かったよ。
……さて、今日はもう遅いから夕飯を作ろうか」
彼がそう言いながら厨房に立とうとした時だった。
不意に扉がトントンとノックされた。
「はい」
ヴェイルが不思議そうに返事をして開けた。
「はあい! ヴェイル!」
「わっ、フィオリア?」
そこに元気な声を上げて飛び込んできたのはフィオリアと数人の妖精達だった。
「昼間はごめんねぇ。
疲れてるでしょ、ご飯持って来た」
見るとそれぞれの妖精達の手元には美味しそうな料理があった。
籠に山盛りにされた、丸く可愛らしい形に焼き上げた白パン。
葉野菜を土台にしてミニトマトやラディッシュ、豆、食用花、木の実、香草を花冠の様に円形に盛り付けたサラダ。
中央の小さな器には甘酸っぱいドレッシングが入っている。
焼いて蜂蜜を絡めた焼き根菜からは甘い香りが漂う。
極め付けは鍋ごと持って来ている野菜の濃煮だ。
ミートローフという名の肉にも見間違う程大きな葉の、厚く柔らかな葉肉が焼かれて、キノコや根菜と一緒に煮込んである。
更にデザートとして食べ切れないほどの森桃に翡翠梨が丸ごと、それに琥珀林檎のパイもあった。
「「わあ、美味しそう」」
ルロイとユティナディアが目を輝かせる。
「銀葉茶はないけど、花蜜茶と星苺の果実水もあるわよ」
フィオリアが言う。
「ありがとう。
でもこんなに……良かったら君達も一緒に食べないか」
ヴェイルが申し訳なさそうに肩をすくめた。
「いいの?」
「やった!」
「お邪魔します!」
最初からややその気だった妖精達が喜んで家に入って来る。
その夜は、ちょっとしたパーティーになってしまった。
ルロイとユティナディアは可愛がられて喜んで料理を食べている。
数人の女性型の妖精達に囲まれ話をせがまれ、ヴェイルは困った顔をする。
——アリアは宝石の中から、その様子をやや落ち着かない気持ちで眺める羽目になってしまった……




