第2話 そして誰もいなくなった?
ヴェイルとルロイ、ユティナディアは三人で城の中を巡った。
けれども人は誰一人いない。
全ての人間が石に変わっている。
「お父様とお母様は?」
ユティナディアが不安そうに言うので、ヴェイルは父母のそれぞれの部屋に行ってみた。
父、グラディスは紫水晶、母、パトラクトラはブラックダイヤに変わっている。
「雷特性の父上は紫の宝石、母上は……『次元使い』だからブラックダイヤモンド?
最強硬度じゃないか……流石だな」
「母様……」
ユティナディアが涙ながらにブラックダイヤを抱き締める。
「手元に持っているといい」
「……兄様は悲しくないの?」
「……悲しいよ。でも、以前もこれに似た事件があったんだ。
その時は次の日には元に戻ったんだけれど、今回は規模が違う」
「前にもあったの?」
「うん。前は竜人族の国にいる竜の息吹で、他の国のみんなが大理石になったんだけど……
そうだな、今回みたいに人によっては貴石になることはなかったし、あの時はせいぜい城とその周りだけだった。
状況が分からない……もっと調べてみなければ。
それに、何故俺とお前達だけ無事だったんだ?」
ヴェイルは考え込む。
その横で、ベソをかいていたユティナディアが言い出した。
「……兄様、お腹が空いた」
「僕も……」
釣られてルロイも言い出す。
二人はまだ5歳なのである。
「そうだね。まずはご飯にしようか。
食事の用意は出来ていたのかな?」
ヴェイルはそう言うと、二人を連れて自分も行く筈だった小食堂へと向かった。
幸い食堂には誰の物かは分からないが、数人分の朝食が用意してある。
子供用の椅子を持って来てやると、ユティナディアとルロイは嬉しそうに座った。
三人で並んで遅くなってしまった朝食を摂る。
いつもはもっと大勢で食べるのにと思うと、寂しい食卓ではあった。
「これから食事は自分で用意しないといけないのか……
城に非常食はどれぐらいあったかな」
三人が食べ終わった食器を戻しながらヴェイルが言う。
「兄上、厨房にもどこにも人がいないよ? 冷蔵庫も止まってる」
「……もしかして人がいなくなって魔力供給システムも止まってる?
様子を見に行くか」
彼は二人を連れて軍の虹馬を飼っている王宮厩舎に行ってみた。
馬達は何の変化もなくそこにいた。
けれども人は誰もいず、石が積み上がっている。
きっと世話係達だろう。
虹馬達は餌が貰えずに悲しげに嘶いている。
ヴェイルは厩舎の柵を外し、放牧してやった。
暫く草を喰ませると水場の湧き水の状態を確認し、自分の馬に鞍を付けて乗った。
そのまま各地を見て回る。
「「お馬さん!」」
一緒に乗せてもらっているユティナディアとルロイが楽しそうに言う。
城下町にも行ってみた。
どこにも人はおらず、ただ石が所々に散乱しているだけだった。
パン屋が焼いていたパンの良い香りが鼻をくすぐる。
先程まで、確かに人がいた筈だった。
ヴェイルは折角なので、並べてあるパンを数個手に取ると番台に料金を乗せた。
ナザガランには乗用の戦機竜もいる。
翠玉竜、蒼玉竜、紅玉竜だ。
それらの竜を飼っている竜舎も見てみる。
竜に異変はなかった。
けれども、やはり近くに数個の石が落ちている。
竜の世話をしていた人間らしかった。
「本当に誰もいない……
動物は無事だけれど、人間だけが石にされてしまっているようだ。
そうか、ユティナディアとルロイも竜だから無事だったのか……
しかしこの竜達までは世話が出来ない。一旦逃そう」
彼は苦労して集めて来た高能力竜達の契約を国王権限で解いた。
嬉しそうに飛び立って行く竜達を眺め、呟く。
「石白竜の石化の時は、あたり構わず大理石にしてしまっていたから、どうやら能力が違う竜の仕業らしいな……」
ここまでの作業で昼を過ぎてしまったので、ヴェイルは街の公園で子供達に先程買ったパンを食べさせた。
持参して来たフルーツウォーターも順に飲ませる。
「ピクニックみたい」
ユティナディアが喜んで言った。
「美味しい?」
「美味しい」
「美味しい。でも、母様やアリア姉様も一緒ならなあ……」
「……そうだね」
休憩を終えた三人は、国の南外れの丘にある魔力供給塔まで虹馬を走らせた。
その塔の非常用補充回線を開き、取り敢えず生活範囲の基盤の維持をさせる為だ。
「兄様、何をしているの?」
ユティナディアが聞く。
「ナザガランでは、国民一人一人の魔力を毎日少しずつ納めてもらって、電気の一部に変えているんだよ。
今、みんなが石になってそれが止まっている。
全部止まってしまうと、お城の灯りさえも点かなくなるから、この供給塔を開いて貯めてあった魔力をちょっとずつ解放してあげるんだ」
「ふうん……」
三人は城に帰った。
ヴェイルの部屋に戻った頃にはもう陽が落ち、暗くなっていた。
二人の子供達も疲れた様子だった。
ヴェイルはゆったりとしたソファーに彼らを休ませると、厨房で簡単な料理を作り、三人で食べた。
更に天然の温泉が引き込んである自室の湯殿で、はしゃぐ子供達の湯浴みを手伝い、スリープウェアに着替えさせて三人で大きなベッドに潜り込んだ。
彼の寝室のベッドは大人四人程度がゆったりと眠れる程のエンペラーサイズである。
「兄様のベッド凄い!」
巨大なベッドとフワフワのデュベットにユティナディアが喜ぶ。
ルロイもリュークと思しきルビーを抱いて、同じく滑り込んでいる。
「兄様、アリア姉様は?」
二人の間に寝そべるヴェイルにユティナディアが聞く。
「……ここだよ」
彼がそっと枕元からトパーズを出して来た。
「二人とも、石になったリュークや母上を抱きしめて寝たいのは分かるけど……
ちょっと硬くて危ないからサイドテーブルに置こうか」
ヴェイルの言葉に、眠くなって来ていた二人は頷き、それぞれの宝石を置いた。
サイドテーブルにはリュークのルビー、パトラクトラのブラックダイヤ、アリアのトパーズが並んで光っている。
「リューク兄様、おやすみなさい」
「母様、おやすみなさい」
「アリア……おやすみ。
さ、二人とも寝よう」
声を掛けると、小さな妹と従弟はもう何も言わずにヴェイルにしがみついて来た。
「おやすみ」
「「おやすみなさい……」」
そのまま寝息が聞こえるまで、王は二つの小さな背を優しく叩いてやっていた。
二人が眠ってしまうと、起こさないように身体を起こし、テーブルの上のトパーズを手に取り、胸に抱く。
「……」
目を瞑ったヴェイルの頬に、一筋の涙が伝った……




