第15話 石化術の検証
ストライアが落とされた場所は森の中だったので、ヴェイルは彼を中心に半径15ガルドル程の広さに『霧爆』という魔法を掛け、一帯を霧にして消した。
彼の魔法で、平坦な地面の広場が出来上がった。
今日はここで野営をするのだ。
そして石になってしまったストライアを石白竜に見せる。
[……竜を石にしてしまったのは初めてなのだ。済まなかった]
薄灰色の竜は申し訳なさそうに言う。
「魔法が掛かっている期間は?」
ヴェイルが聞いた。
[明日の今頃には戻ると思うのだが]
「本当?」
「絶対に?」
ユティナディアとルロイが食ってかかる。
[あ、ああ……我の魔法が今まで解除されなかった事はない]
「そっかぁ」
「良かった」
二人が安堵の声を漏らした。
再びヴェイルが聞く。
「今、全ての人間が石にされている事は知っているか?」
[……人間の町を行き来している者に聞いて知ってはいた。
しかし我らが使える魔法の材質の石ではない。
我らがやった事ではない]
「それは分かっている。
俺はその掛けられた魔法の術式を解析して、逆再生の魔法の術式を作り出したいんだ。
その為にお前の、胸元にある魔力回路から浮き出る魔法陣を写させて貰いたくて」
[石化が発生する魔法の仕組みか。
我らは生まれつき使える物ゆえ、意識などした事はないが]
「大丈夫、俺が読み取る。
そうだな、あちらに生えている木を目掛けて発動開始状態に入ってくれるか?」
ヴェイルはそう言うと、広場の端に生えている木を指差した。
石白竜が座ったまま向きを変え、その木に向かって口を開ける。
胸元から、先程のように魔法陣が浮かび上がった。
「起動部分の記述は竜紋様か。今は読めないな。
でも中の術式構造は……これ、土式と重力式か」
彼が素早く書き写す。
写しが難しい紋様は転写魔法で別の魔法陣に読み込ませて行く。
「放ってみて」
竜の口から石化息吹魔法が放たれる。
ヴェイルが支持した木が大理石に変わった。
「再読込命令は古代エルフ語様式と同じ……?
まあ人間にも掛けられる魔法だもんな」
彼が一人納得して発動式を書き写した。
「ありがとう。本当に参考になった」
[もういいのか]
「うん……後は無事にストライアが元に戻るだけなんだけど……
もうお前を引き留める理由はなくなったよ」
[そうか。人間にも無害な奴がいるのだな。
以前、リオクという人間の王子に付いて行った我の仲間が帰らぬ者となってな……]
「……え」
[王子に心底懐いてしまい、共に悪い事をしたらしい。
別国の王にそいつが殺されそうになった時に、助けようとしてその王に食い付きに行ってな。消されてしまった。
……後日リオクが泣きながら我らに謝りに来た]
「それは……気の毒だったな」
[だから人間と共にいる竜は嫌いだったのだ。
しかし、お前は子竜を育てていたのだな。悪い事をした]
「いや、いいんだ。助かった」
ヴェイルの言葉に石白竜は頷くと、大きく羽ばたいて空へと舞い上がって行った。
彼はその姿を見送りながら、かつてアリアを攫い、トラフェリア城を石にしたリオクを処刑しようとした際に、自分に襲いかかって来た石白竜を魔法で消してしまった時の事を思い出していた。
「……お友達、誰かに消されちゃったんだね」
「悲しかったんだね……」
巨竜を見送りながら、ルロイとユティナディアが言う。
「そうだね……」
ヴェイルはそれ以上、何も言えなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その夜は、ストライアの側にテントを張って野営をした。
火種が長く持つように、キルグナに貰った炭を起こす。
夕食には拾った木の実と摘んだキノコ、それに持って来ていた硬質チーズを削り入れ、乾燥穀物と共に煮込んだリゾットを作ってやった。
二人は喜んでふうふうと吹きながら食べていたが、ふと気が付いたユティナディアが、ストライアの口元に好物の露葡萄をそっと置きに行った。
「私達がご飯を食べていたら、ストライア兄様も元に戻るかも。
だって兄様は食いしん坊だもん」
席に戻って来た彼女はそう言った。
「まあ戻れなくても、匂いで良い夢が見られるかもね」
ヴェイルが微笑んで返した。
炭と、翳した少しの薪から立ち昇る炎が辺りを柔らかい色で照らしている。
火先が揺らめき、小さく爆ぜる音に合わせて時々火の粉がフッと舞い上がって行く。
ルロイとユティナディアはストライアに登り、オカリナと竪琴の音色を聴かせてやっている。
「石になってもきっと聞こえていると思うんだ」
「動けなくても寂しくないよ」
そう言いながら優しく奏でる小さな楽器の音色を、ヴェイルも暖かい気持ちで聴くのだった。
——夜はゆっくりと更けて行った。




