第14話 石化魔法を使う竜
ドナウザーンの宿場町で2泊したヴェイル達は、次の日の朝には荷物をまとめて町を出た。
石化の魔法術式を解析する為に、この国に生息している石白竜という竜を探す為だ。
昨晩術の方程式を母パトラクトラと解析している時に、主な生息地を聞いておいたヴェイルは、ルロイとユティナディアと共にストライアに乗り、ドナウザーンの北西部にある山岳地帯の辺りを飛んでいた。
「うーん。所々に竜はいるけど、あれは石白竜じゃないの?」
ルロイが問う。
「そうだな。どれも違うようだ。
もっと薄い灰色をしているんだよね。
大きさはストライアよりちょっと大きいぐらいで……」
ヴェイルが説明している時、急に岩陰から一頭の飛竜が飛び立った。
「あ! あの竜じゃない?」
ユティナディアが指を差して叫んだ。
確かに薄灰色の巨大な飛竜が飛んでいる。
「あれだ! ストライア、追ってくれ」
ストライアが任せろ! とでも言うようにガアアと吠え、グンと速度を上げた。
「ストライア、追い掛けながら竜の言葉で待ってくれるように言えるか?」
黒竜は頷き、何やら音波のような言葉を発し始めた。
石白竜がこちらに気が付く。
しかし怯えてしまったのか、更に速度を上げて飛んで行ってしまう。
「待って!」
「話を聞いてよ!」
ユティナディアとルロイがストライアの毛をギュッと握って風圧に耐えながら叫んだ。
手綱を操るヴェイルも二人を気遣いながら飛ばせる。
石白竜は山岳地帯を抜け、森林の上まで来た。
ストライアも根気強く話し掛けながら飛んでいる。
[待ってくれ!]
[嫌だ! なんだお前! 人間の子分か?]
[ヴェイルはトモダチだ! 話があるんだ、聞いて欲しい]
[しつこい! 着いて来るな鬱陶しい]
[お願いだ、話を……]
[しつこいと言っている!]
ヴェイルには竜達の言葉は分からないが、ユティナディアが怪訝そうな顔をして伝えた。
「あの竜、ストライア兄様の事『人間の子分』って言った」
「子分?」
「子分ってなあに?」
「えっと……」
彼が答えあぐねた時、急に石白竜がこちらを向いて大きな口を開けた。
その胸元から魔法陣が浮かび上がり、石化息吹魔法が放たれた。
「!! まずい!」
ヴェイルが叫ぶ。
その時、ストライアが急停止して石白竜に腹を向けるように垂直になった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
ルロイとユティナディアが振り落とされる。
「!! 二人とも竜になれ!」
ヴェイルが叫ぶ前に、彼らは小さな飛竜に変わり、それぞれ飛んで行く。
[ヴェイル……ニゲロ]
「ストライア?!」
石白竜の魔法を浴びてしまったストライアが片言で言う。
見ると身体がバキバキと大理石になって行っている。
自分を盾にして石化魔法を浴びたのだ。
「ストライア! くっ!」
ヴェイルは急いで鞄と鞍のベルトを外し、彼の背から飛び上がった。
もう羽ばたく事が出来なくなったストライアが石になりながら落ちて行く。
ヴェイルもそれを追うように落ちる。
「防御!」
彼がすぐさま地面に向けて、直径10ガルドル(10メートル)程の大きな防御魔法を掛けた。
それはストライアをやんわりと受け止め、生えている木々をメキメキと押し倒しながらゆっくりと地面に着地させた。
「ストライア兄様!」
「ヴェイル兄上!」
上空で羽ばたきながら見ているユティナディアとルロイが叫ぶ。
術を放ってしまった石白竜も、突然現れた小さな竜達と石化してしまった黒竜を、空中停止しながら呆然と見ていた。
ヴェイルはストライアの状態を確認した。
「……全身が大理石になっている……俺を庇ったのか」
彼は周りを見まわし、竜の側に鞄を置くと、空を見上げた。
戸惑っている石白竜の周りを、ルロイとユティナディアが泣きながら飛んでいる。
「酷いよ! どうして石にしちゃうの?」
「お話聞いてって言ったのに!」
ユティナディアが近寄って、竜の大きな身体を小さな前足でポクポク叩く。
それを見上げていたヴェイルが上着を脱いだ。
「服が破れるけど仕方ないか。氷銀翼翔!」
詠唱と共に彼の背に魔法陣が浮かび上がり、衣服の背中を破って、氷の羽根で作られた巨大な翼が生えた。
その一枚一枚の羽根はごく薄く硬い鋼玉へと変わって行く。
彼は翼を大きく動かした。
シャランと音がし、魔法で浮力が付く。
それを確認すると、勢いを付けて羽ばたき空へと飛び上がる。
まだ泣いているルロイとユティナディアの元へ行き、驚いて逃げようとする石白竜に声を掛けた。
「待ってくれ! 俺達は今のお前の魔法の術式を知りたいんだ。
……お願いだ。助けてくれないか。
お前も本当は、あの竜を石化するつもりはなかったんじゃないのか?」
ヴェイルの言葉をしゃくりあげるルロイが竜の言葉にして話し掛ける。
石白竜がバツが悪そうに何か言った。
「『確かに、人間を石にしようとしたのに庇うとは思わなかった』って」
「……ストライアの状態を見る為に下に一緒に降りてくれないだろうか。
そして術式の解析もさせて欲しい」
「そうよそうよ! ストライア兄様元に戻るの? どうなの?」
ユティナディアがキイキイと喚いた。
石白竜は渋々の様子だったが、子供に責められたのが効いたのか大人しく地上に降りて行った。




