第13話 守ってくれる竜
朝から魔法詠唱を試みていたルロイとユティナディアは魔力を使い果たしてしまった。
まるで遊び疲れたようにトロンとなった目元の彼らを両腕に抱え、ヴェイルは宿に戻った。
「5歳児の魔力量までは考えてなかったな。
大丈夫か? 二人とも」
彼の問いかけにコクコクと頷く二人をそれぞれのベッドに座らせ、靴を脱がせてやる。
彼らはそのまま布団に潜り込み、眠ってしまった。
「……この分だと昼飯は要らなそうだな。
ちょっと無理をさせたか」
ヴェイルはそう呟くと、彼らの掛け布団を直してやった。
小さな妹と従弟は夕方には目を覚ました。
二人が眠ったので時間が取れた為、その日の夕食には厨房で昨日見つけておいた酵母種を使ったパンと、栗猪の最後の燻製肉と根菜を煮込んだシチューを作る事が出来た。
「久しぶりのフカフカのパンとトロトロのシチューだ!」
ユティナディアが喜んでパンを千切る。
「美味しい。
でもヴェイル兄上はどうしてこんなにお料理が出来るの?」
ルロイが不思議そうに聞いた。
「俺の部屋には小さいけれど俺専用の厨房があるんだ。
執事達が料理が上手くて、子供の頃からたまに教えてもらっていてね」
ヴェイルが懐かしそうに話す。
今日のパン生地を捏ねている時には、
『王太子、もう少し優しくなさってください。押すだけではありません、生地を折り返して。艶が出るまでですよ』
と、かつて教えてくれていた執事の一人、アレイガスの事を思い出していた。
——彼らも今、石英に変わっているのだ。
なんとしてでも元に戻してやりたいと、心の中で強く願う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食が終わり湯浴みも済ませたが、今日は昼間眠ってしまった事もあり、ルロイとユティナディアはなかなか眠くならなかった。
それならちょうどいいと、ヴェイルが昨日読み切れなかった精霊族の本を取り出した。
「またこの本を読んでくれないか。
キルグナが精霊族の童歌に、古代魔竜に似た文句があったと言っていたが、どれだか俺にはまだ文字が上手く読めなくてね」
彼が気になっていた事を言う。
「そうだねえ……この御本、割と分厚いから……」
ルロイがそろそろとページを捲ってみる。
「あ、ここかも」
ユティナディアが歌の文句が書いてありそうな場所を見つけた。
子供二人で時間が掛かりながらも読み上げてみる。
『かわいい かわいい エルフの子
お山が火を噴き お日さまが消えた時
氷が野山を ぜんぶ隠してしまった時
星の きげんがなおるまで
お母さまがお作りになった
えいりゅう ヴィスニクスが
きれいな石に してあげる
えいりゅう ヴィスニクスは
エルフの子を 守ってあげる
遠い遠い未来で お目目が覚めるその日まで』
「これって……」
ヴェイルが目を丸くした。
「どう言う意味なの? 兄様」
ユティナディアが聞く。
「多分、だけれど、
『エルフの子らは可愛い。だからこの星に、人が住めない程の天変地異が起きた時に、それが収まるまでえいりゅう……恐らく【衛竜】と書くのだろうけど、その竜がエルフの子らを石にして守ってあげる』って意味の詩だ……」
「え? じゃあ、みんなを石にしちゃったのは、みんなを守る為?」
ルロイが驚いて聞く。
「……いや、少なくとも今は本に書いてあるような天変地異は世界のどこにも起きていない筈だ。
この童歌を見る限りだと、今回の石化とは発動条件が一致しないよね。
もしかしたら、伝承が古すぎて竜自体が役目を忘れてしまったのかな……
確か大昔に、エルフ側と竜族の中でも高知能の竜達との間で、どちらが地上を支配するかの大戦争があったと言う記録があるんだけど……」
「そんな事があったの? 竜も私達も今は仲良しだよ?」
ユティナディアが言う。
「そうだね。きっともう、何千年も前の話だったと思うんだ。
もしかしたらその衛竜が竜の味方で、エルフの子孫を懲らしめる為にその力を使おうとしたのかも。
封印が緩んで解けてしまった竜には、今の平和な関係は分からなかったんじゃないかな」
「そっか……じゃあ誤解を解かないとね」
「みんなもう仲良しだから、石にしなくて良かったよって言ってあげなきゃ……」
妹と従弟は、そこで欠伸をした。
「眠くなったのかな。ありがとう、とても勉強になったよ。
今夜はこれから母上と解読と検証をするから、二人とももうベッドに入るといいよ」
ヴェイルは優しくそう言うと、2つ点けていた魔力電池ランタンの片方を消した。




