第12話 妖精達の魔法
「ユティナディア、ルロイ、草花紋様の魔法陣を唱える時、心の中に別の言葉は浮かばないか?」
次の日、宿屋の裏の農園で朝食用の野菜と白苺やルミナベリーなどの果物を摘みながら、ヴェイルは隣で手伝っている二人に聞いた。
「別の言葉?」
「例えば?」
ルロイとユティナディアが不思議そうに聞き返す。
「例えば、ええと……魔法陣は俺にも分かるように今の言葉で唱えてくれてるけれど、精霊族の紋様だから、精霊族だけの言葉がある筈なんだよね。
その文字が自然と浮かんで来ないかなって」
「うーん……」
「どうかな」
「その言葉をちゃんと意識したら、二人にも魔法が使えるようになると思うんだけど……」
「ハウエリア女王陛下の時は読み上げただけで防御魔法が浮かんだよ?」
ルロイが言う。
「あれは本能に連動する生体反応魔法だったみたいなんだよね」
「生体反応魔法?」
ユティナディアが聞き返す。
「ああ、自分を護る為に自然に出て来る魔法かな。
二人を見てたけど、狭い所を飛ぶ時に危険な枝が飛んで来たり、棘のある蔓が当たりそうになった場合でもその魔法で勝手に弾くようになっている。
『幸運の竜』と呼ばれる理由だ。
ハウエリア様のお召し物の紋様は、その魔法をエルフの子孫の為に描き出したものだったんだろう」
ルロイとユティナディアは、生まれてからまだ5ヶ月程しか経っていない幼竜である。
ナザガランでは、精霊竜は『幸運の竜』という逸話しか伝わらない未知の竜である為、人型及び竜の姿になった時の魔法がどの程度使えるのかは、誰にも分からないのだ。
ヴェイルが更に言う。
「今は魔法陣が浮かぶだけだろ?
心に浮かぶ文字を意識すれば、魔法になる気がするんだ。
その言葉を俺にも教えてほしい」
「魔法、使えるの?」
「本当?」
彼の話に気を良くした二人は、朝食を済ませると、ストライアのいる広い竜係留場に行った。
「どの魔法から試す?」
ストライアがキョトンとして見ている中で、草花紋様の本を眺めてユティナディアが言った。
「この、お花のやつ!
『花吹雪よ、舞え!』」
彼女が片手を上げて叫ぶ。
けれども、本の上からフワリと魔法陣が浮かび上がっただけだった。
「もう一度、心の文字を意識して読み上げてみて」
側で腕を組んだヴェイルが声を掛ける。
「うーん……うーん……
ポ、『花吹雪よ、舞え!』」
するとユティナディアの胸元から魔法陣が浮かび上がり、身体の周囲に花びらが纏い付いた。
「おお」
「花びらだ」
「わあ!」
彼女が嬉しそうにクルクルと回り、数歩歩いてみる。
すると、その足跡に沿う様に美しい花々の花弁がヒラヒラと落ちて行ったのだ。
ストライアが座ったままふううと息を掛けるとそれらはまた舞い上がる。
「あはは」
ユティナディアが腕を胸の前に組んで花吹雪の中に入った。
「花吹雪よ、舞え」
ルロイも真似をして詠唱する。
やはり胸元から魔法陣が浮かび上がり、周りに美しい花弁が現れて舞い散った。
「出来た! 出来たよ兄上!」
花びらに包まれ、虹色の髪を揺らして彼がヴェイルを見て言った。
「そうだね。二人とも立派な魔法使いだ。
風式22……植物系は生活魔法になるのか」
ヴェイルはそう言いながら二人から現れた魔法陣を解析し、方程式を持って来ていた樹紙に書き写した。
それから三人は、本にあった魔法をいくつか試した。
『指先からキラキラした光が溢れる』魔法、『果物が食べ頃に熟す』魔法……
果物はストライアが喜んで食べてしまった。
更に昨日アリアが言っていた『驚いた時に手近なキノコを家の大きさにして扉に逃げ込む』魔法を試す。
係留場の傍に生えていた木の根元に群生していたキノコが、小さな家の大きさになった。
「やった!」
「本当にお家になった!」
出現した秘密基地に、二人はすっかり心を奪われて中に入ったり出たりしている。
ヴェイルはひとつずつの魔法の方程式を丁寧に書き写して行く。
読めない文字の部分も形を取って後から検証するのだ。
「それにしても可愛らしいな。
妖精の魔法みたいだ……」
自分では思い付かない牧歌的な魔法に呟く。
〔……楽しそうだな〕
ヴェイルの側のベンチに置いてあったブラックダイヤからパトラクトラが現れた。
「母上、おはよう。
母上の好きそうな方程式が沢山出て来たよ」
彼女は古文書が大好きで、よく古い魔導書を読み漁って研究している。
〔うむ。実に興味深い。
今宵は共に解析しようではないか〕
「ちょうど頼もうと思っていた。
精霊族の魔法陣を元に石化の逆再生魔法を作るから」
〔そうだな。後は、石化が出来る現在の竜を探してそいつの魔術方程式を入手せねばな……
私は夜に向けて出現時間を稼ぐからもう引っ込むとしよう〕
彼女はそう言うと、宝石の中に消えた。
「石化が出来る竜……石白竜か……
厄介なことになりそうだな」
ヴェイルは呟き、遊ぶ二人を眺めているストライアを見た。




