第10話 古城の様子
ヴェイル達はキルグナと別れて1フォラ(1時間)程飛ぶと、竜王城の奥の山上にある古城に辿り着いた。
それは数千年程前に建築された石造の城だった。
けれども入り口付近が最近何かに破壊された様子で、新しい石の断面が崩れた部分に現れている。
「ここに古代魔竜が封印されていて、飛び出して行ったのかな……」
ヴェイルが城を見上げて言い、注意深く中に入って行った。
「兄様、なんだか怖い」
「ヴェイル兄上、石がいくつかあるよ」
恐ろしげに彼の腕を取って来た二人がそれぞれ言った。
見ると、確かに城の内部に人だった物らしき大きめの石が転がっている。
「ここに偶然誰かが来ていた様だな」
ヴェイルがしゃがんで、いくつかの宝石を拾って確かめてみる。
その中に、エメラルドとペリドットがあった。
どちらも風特性のある竜人族の宝石のようだ。
よく見るとペリドットの方に、薄く救援要請の魔法陣が出ている。
「……この貴石の具合からすると王族っぽいけど……
嫌な奴の予感がするな」
「嫌な奴?」
ユティナディアが不思議そうに聞いた。
「前に、俺がアリアとまだ結婚の約束もしていない間に、妻にしようとして攫って行った王子がこの国にいたんだよ」
「ええ? アリア姉様を? 酷いね」
「その時に彼女の国のお城と女王陛下他の人間を、全て大理石に変えてしまった石白竜という竜を使ったんだよね、そいつ」
「でも、それなら呼び出してお話を聞かないといけないんじゃない?
魔竜がどんな竜だったか、とか、石化出来る竜に詳しかったりしそうだもの」
「そうなんだよなあ……」
ルロイに言われて、ヴェイルは渋々魔法陣の文字を読み上げた。
ペリドットの中から、かつてアリアを攫った事があったこの国の現在の王太子、リオクの姿が浮かび上がった。
〔ふう……どなたか存じませんが、呼び出していただいてありがとうござ……
うわっ! 魔王陛下っ?!〕
リオクがヴェイルの顔を見て驚いて言った。
ナザガランは人間の中でも魔法の力が強い『魔族』の国なので、他国からヴェイルは『魔王』と呼ばれている。
「やはりリオクだったな。
うむ。……最近は印象を損ねるからあまり『魔王』とは呼ばせていないのだが」
覇王だった父の頃から、畏怖を込めてそう呼ばれて来たことを気にする。
〔し、失礼致しました、ナザガラン国王陛下。
お助けいただき光栄でございます。
……あの、皆の者はどうなってしまっているのでしょうか〕
「残念ながら、全てのエルフ由来の人間達は石に変わってしまったようだ。
我がナザガラン、トラフェリアも同様だ」
〔そうなのですか……〕
「リオク、何があったのか説明出来るか?」
彼は父である竜王と封印師と共にこの城に来て、封印の状態を調べようとしていた事を説明した。
〔……封印の石柱に、少し前に起きた地震によるものと思われる亀裂が入っていたのです。
それを修復するのに時間が掛かる為、亀裂の状態を保つ魔法を封印師が掛けたのですが、間に合わずに損傷が深まり、石柱が割れてしまったのです〕
「ほお……」
〔我々もあっと思った瞬間には強風に煽られて……
石になってしまったのです。
本日呼び出していただくまで貴石の中でモヤモヤしておりました〕
ヴェイルは奥の部屋まで続く廊下に目をやる。
確かに所々、割れてしまった石柱が設置してあるのが見えた。
中には遠目だが、草花紋様のものもある。
「リオク。中から出て来た古代魔竜を見たか?」
〔はい。一瞬だけですが〕
「どんな竜だった?」
〔それが……生き物の様に動いていましたけれど、恐らくは生き物ではありませんでした〕
「何?」
〔なんて言うか……形は竜なのですが、何かの『機巧』に見えました。
古くなった燻し銀色の機巧竜、とでも言いましょうか〕
「なんだと? 古代魔竜は数千年前から伝わる存在ではないのか。
あれは誰かが機巧で造り上げた物だと言うのか」
〔誰か、ですか……もしかすると人間が作った物ではないのかも知れません〕
「人間以外……それほどの機巧を造れるとなると、鬼族の上位種族か……
もしくは精霊族しか思い当たらない。
しかしあの一瞬で広範囲の人間を石に出来るというのは『魔法増幅装置を使った所業』とも考えられる。
その増幅装置が機巧の竜……?
何故今まで誰もその姿を見た事が無かったのだ」
〔申し訳ありません。我々は代々、幽閉されている部屋の内部は確認せずに、外からの封印に力を注いで来ていたものでして〕
そこまで言うと、リオクはふっと消えてしまった。
「あっ、消えちゃった」
「ワルモノ王子様いなくなった」
「時間切れか……まだ聞かないといけない事があったのに」
その場に残った三人が呟く。
けれども仕方がないので、石柱を調べてみる事にした。
「これは……標準的な封印魔法だな。特に強力という訳でもない」
竜人族の封印魔法陣が描かれた石柱を調べてヴェイルが言う。
「そっちは? 何か読める紋様はあるかい?」
顔を上げてルロイとユティナディアに聞く。
彼らは草花紋様が彫り込まれた石柱を見に行っていた。
「うーん。結構壊れていて読めないよ、兄上」
「そうね。……『コノ……アヤマチ……ヲ』……ええと。
これ以上読めないわ、兄様」
二人が申し訳なさそうに言った。
「そうか。これだけ壊れてるんだ、仕方ないよ。
でもただの紋様じゃなくて、やっぱり読めるんだね。
これで少なくともここの封印にも精霊族の力が関係していたと言うのは分かったよ」
ヴェイルが労う。
次に古代魔竜が封印幽閉されていたらしいホールに行ってみる。
魔竜を括り付けていたのか、巨大な見たこともない素材の鎖が千切れた形でぶら下がっている。
周りには鋭い楔も何十本と落ちていた。
ヴェイルは楔を一本拾い上げ、先端に残る魔力を調べた。
彼にも使える、時を止める『時間界』魔法の残滓が汲み取れた。
「鎖で縛り、時を止める楔を撃ち付けて、何千年も動きを封じていたのか……」
「……酷いね」
「可哀想……」
それ以上その場から得られる情報はなさそうだった。
彼らは人だった宝石達を拾い上げ、崩落の心配がない安全そうな場所まで持って行くと、ひとまとめにして丁寧に置いてやった。




