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第三部 摂関の座 第十七章 空位 一

第二部の結びで「一区切りに過ぎない」と語った次郎兵衛の言葉が、この第十七章で早くも現実になります。舞台は朝廷——関白という、豊臣家の家格そのものを左右する地位です。

これまで次郎兵衛が戦ってきたのは、家中の対立、大名間の均衡、そして戦場での采配でした。ですがこの章で彼が向き合うのは、刀ではなく血筋と家格が物を言う、まったく異質な戦場です。家康が九条家を関白に据えようと動く中、次郎兵衛は「関白位が一度旧来の摂関家に戻れば、二度と豊臣家には返ってこない」という危機感から、新たな一手を打ち始めます。

淀の方、そして幼い秀頼——これまで物語の周縁にいた人々が、ここで初めて前面に登場します。次郎兵衛の戦いが、いよいよ豊臣家そのものの命運に直結し始める章です。

 慶長五年、霜月。関ヶ原から二月が過ぎようとしていた。


 佐和山城の一室に、宇喜多秀家、戸川達安、そして次郎兵衛が顔を揃えていた。使者からもたらされた一通の報せが、その場の空気を張り詰めさせていた。


「関白職について、家康様が朝廷への働きかけを強めておられる、とのことにございます」


 達安が、報せの内容を読み上げた。


「九条兼孝様を関白に――そのような話が、内々に進められておるようで」


 次郎兵衛は、思わず身を乗り出した。


(来た――)


 三成との交渉、和議の成立。あれで全てが決着したわけではなかった。次郎兵衛が調べた限り、豊臣家は、武家でありながら**摂関家**という、公家の中でも最高の家格を秀吉の代に与えられている。徳川・前田・毛利ら五大老の家格は、それより一段低い「清華家」――大臣にはなれても、摂政・関白には決してなれない家格だ。


 つまり、日本中で唯一、関白になれる武家の血筋は、豊臣家だけだった。


「殿。これは、捨て置けませぬ」


 次郎兵衛は、秀家に向き直った。


「関白位が、旧来の摂関家――九条家や近衛家など五摂家の手に戻ってしまえば、二度と豊臣家には返ってきますまい。左様な前例は、これまで一度もございませぬ」


「うむ。だが、秀頼様は、いまだ御年八つ。すぐに関白位に就かれるのは、いくら何でも無理があろう」


 秀家の言葉に、次郎兵衛は頷いた。


「仰る通りにございます。ですが……」


 次郎兵衛の脳裏に、史実の記憶が蘇っていた。史実でも、この空位期間に、いずれ秀頼が関白に就くという噂が、公家の日記にまで記されていた。つまり、それは決して荒唐無稽な話ではなく、当時の人々にとっても、十分に現実味のある未来だったのだ。


「今すぐ秀頼様が関白になられずとも、関白位を、いずれ豊臣家に戻す含みを持たせたまま、当面の間、誰か中継ぎの人物に預けおく――そのような形に持ち込めれば」


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