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「一」で三成が示した「三つの条件」の中身が、この「二」で一つずつ明かされていきます。秀頼の安全、諸大名の本領安堵——ここまでは、三成という人物の忠義と筋目を考えれば、当然とも言える条件です。

ですが三成が最後に挙げる第三の条件は、次郎兵衛にとって、これまでの物語のどんな出来事とも違う種類の衝撃をもたらします。史実を知る者として、あくまで黒子に徹してきたはずの次郎兵衛が、初めて、歴史の表舞台に名を刻まれようとする瞬間です。

「第一に、秀頼様の御身の安全と、大坂城における豊臣家の御地位、これを家康に確と保証させること」


 三成は、指を一本立てながら、続けた。


「第二に、此度の戦に加わった諸大名――毛利、島津、宇喜多、そして前田――いずれの家も、領地を大きく削られることなく、本領を安堵されること」


「そして第三に」


 三成は、一瞬、目を伏せた。


「宇喜多家中を分裂から救った中村次郎兵衛――そなたのことだ。此度の働き、家中の枠を超えて、天下の均衡を動かした功績である。某が身を引く代わりに、そなたの働きが、正しく記録され、後の世に伝えられること。それを、条件に加えたい」


 次郎兵衛は、思いもよらぬ言葉に、言葉を失った。


「治部少輔様……それがしのようなものに、そのような」


「謙遜には及ばぬ」


 三成は、僅かに口の端を上げた。史実で伝わる、峻厳な三成の姿からは想像もつかぬ、柔らかな表情だった。


「そなたがおらねば、この均衡そのものが生まれなかった。某は、正しく功のある者が、正しく報われる世を望んでおる。此度のこと、それを証すための、最後の一手でもある」


 次郎兵衛は、深く頭を垂れた。込み上げるものを、抑えることができなかった。


この場面で一番書きたかったのは、三成の第三の条件です。「宇喜多家中を分裂から救った中村次郎兵衛――そなたのことだ」という一言は、これまで陰で歴史を動かしてきた次郎兵衛への、物語からの一つの「贈り物」として書きました。

同時に、これは三成というキャラクターの総決算でもあります。「正しく功のある者が、正しく報われる世を望んでおる」という三成の言葉は、彼が最後まで貫いた価値観——豊臣家への忠義だけでなく、公正さそのものへの信念——を、隠退という敗北の中でこそ体現させたいという狙いで書きました。峻厳な三成が見せる「柔らかな表情」は、彼が失うものの大きさと引き換えに得た、ある種の解放感の表れです。

「込み上げるものを、抑えることができなかった」という次郎兵衛の反応には、これまで一貫して「傍観者ではいられない」という葛藤を抱えてきた彼が、初めて自分の存在そのものを、他者から肯定される経験をしたことを込めています。次の「三」では、この決断が実際に東軍へ伝えられ、和議の行方がいよいよ最終段階に入ります。

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