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「一」でまつが独自に動き始めたことを受け、この「二」では、その波紋が西軍内部に広がっていきます。「勝手が過ぎるのではないか」という三成側近の不満は、まつの行動が持つ危うさ——誰の統制も受けない、一人の女性の意志であることの両義性を浮き彫りにします。

そこに割り込んでくるのが、黒田如水という、これまでの物語に登場してこなかった新たな名前です。隠居の身でありながら天下の情勢を鋭く見通す老練な人物の登場は、次郎兵衛にとっても予想の外側にある展開であり、この章の緊張感を一段引き上げます。

 まつの使者が、東軍本陣に到着した、という報せが西軍にも伝わったのは、それから五日後のことだった。


 佐和山城の評定の場では、この報せを巡って、意見が割れた。


「まつ様の御動きは、我らに断りのないままのこと。いささか、勝手が過ぎるのではないか」


 三成の側近の一人が、不満げに漏らした。だが、これに対し、宇喜多秀家が静かに反論した。


「勝手、とは申せまい。まつ様は、我らのために動いておられる。此度の戦、力だけで押し通せぬことは、皆も承知のはず」


 次郎兵衛は、末席で、その議論の行方を見守っていた。まつの独自の動きは、西軍内の統制という観点からは、確かに危うさを孕んでいる。だが、それこそが、まつという人物の持つ、独自の政治力でもあった。


 誰の指図でもなく、一人の母として、天下の静謐を願う――その動機の純粋さこそが、東西どちらの陣営からも、無下にできない重みを持っていた。


 数日後、東軍からの反応が、思わぬ形でもたらされた。


「黒田如水殿より、密使が参っております」


 その報せに、評定の場は色めき立った。黒田如水――かつて秀吉の軍師として名を馳せ、今は隠居の身にありながら、なお天下の情勢を鋭く見通す老練な人物だった。


「如水殿が、何用あって……」


 秀家の問いに、次郎兵衛は、ある予感を覚えていた。


この場面で書きたかったのは、まつの動きを、誰にも完全にはコントロールできないものとして描くことでした。西軍内の不満は正当な懸念であり、同時に、まつの行動の「純粋さ」こそが、東西どちらの陣営からも無下にできない力を持つという逆説——次郎兵衛がこれまで積み重ねてきた「対立の構造そのものを変える」という発想と、どこか響き合う構図です。

黒田如水の登場は、次郎兵衛の知識の及ばない領域から、物語に新しい風を吹き込むために置きました。「その報せに、次郎兵衛は、ある予感を覚えていた」という結びは、如水が単なる史実上の人物名ではなく、この物語における新たな転換点になることを示唆しています。

次の「三」では、如水の密使が携えてきた書状の中身が明らかになり、和議への道筋が、ついに具体的な形を取り始めます。

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