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「二」で言葉にした和議への道筋を、次郎兵衛はこの「三」で、ついに行動に移します。まつと豪姫、二人の女性の名において東西を仲介する——これまでの物語で最も繊細で、同時に最も不確かな一手です。

力と力の激突では動かせない均衡を、情の力で動かそうとする次郎兵衛。その裏には、確信のなさと隠しきれない不安が滲んでいます。第十一章の締めくくりとなるこの場面は、次郎兵衛がどこまでも一人で背負い込もうとする性分と、それを支える達安との関係を、改めて描き出します。

 その夜、次郎兵衛は、密かに岡山への使者を立てた。まつと豪姫、二人の女性の名において、東西を仲介する道筋を探れないか――それが、次郎兵衛の描いた次の一手だった。


 家康にとって、まつは、前田家という巨大な戦力を握る「情」の象徴だった。豪姫は、その娘であり、同時に西軍の中核・宇喜多秀家の正室でもある。この二人の存在は、東西どちらの陣営からも、無下にはできない立場にあった。


(女人の情を通じた和議……果たして、上手くいくかどうか)


 次郎兵衛自身、確信があるわけではなかった。だが、力と力の激突だけでは、もはやこの均衡を動かすことはできない。史実にはなかった、この世界だけの道筋を、探らねばならなかった。


 達安が、次郎兵衛の傍らに歩み寄ってきた。


「次郎兵衛殿、随分と思い切ったことをなさる」


「戸川殿……無謀に見えましょうか」


「いや」


 達安は、僅かに笑みを浮かべた。


「そなたが仕掛けてきたことは、いつも最初は無謀に見えて、後には道理が通っておる。此度も、そうなることを祈ろう」


 夜空の下、佐和山城の灯りが、静かに揺れていた。


 天下は、まだ、静まっていなかった。


この場面で一番書きたかったのは、達安の「そなたが仕掛けてきたことは、いつも最初は無謀に見えて、後には道理が通っておる」という一言です。第二章の普請場から始まった二人の関係が、ここでついに、次郎兵衛の孤独な決断を無条件に支える言葉として結実しました。史実では対立し決別したはずの二人が、この物語では互いにとって最も信頼できる相手になっている——その到達点をあらためて示す一文です。

「天下は、まだ、静まっていなかった」という第二部題名を回収する結びは、この均衡がまだ解決からは程遠いことを示すと同時に、次郎兵衛たちの戦いの舞台が、戦場から交渉の場へと完全に移ったことを告げています。

第十一章はここで幕を閉じ、次の第十二章「使者」では、岡山へ向かった使者と、まつ・豪姫の動きを通じて、和議への道筋が具体的な形を取り始めます。

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