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「二」で天下の政局そのものには手が届かないと悟った次郎兵衛は、この「三」で、自分の戦い方を改めて定義し直します。

「全てを変える必要はない。変えられる部分だけを、確実に変えていけばいい」——この割り切りは、諦めではなく、次郎兵衛なりの戦略です。宇喜多家中の融和と、前田家への働きかけ。この二つの盤面に絞り込んだとき、彼の視線は再び、まつの江戸下向という、第二章から抱えていた「諸刃の剣」に戻っていきます。

七将事件という巨大な奔流を前にしてなお、次郎兵衛が投げ出さずに済んだのはなぜか。その理由が、この場面には静かに描かれています。

その夜、次郎兵衛は文机に向かい、これからの見通しを頭の中で整理していた。


 史実では、この後、前田利長が家康から謀反の疑いをかけられ、慶長五年五月、母・まつを人質として江戸に送ることで事なきを得る。それが「慶長の危機」と呼ばれる出来事だ。


 もし、豪姫を通じて次郎兵衛の働きかけが前田家に届き、まつの判断に何らかの変化が生じれば――史実は、次郎兵衛の知らない道へと逸れていく。


(それは、賭けだ)


 まつが江戸へ行かなければ、前田・徳川の緊張は解けない。最悪、加賀征伐という軍事衝突すら現実味を帯びる。だが同時に、家康の関心と兵力を北陸に釘付けにできれば、来るべき関ヶ原での東軍の勢いを削ぐことにも繋がる。


 諸刃の剣であることは、百も承知だった。それでも――。


「変えるなら、中途半端はいけない」


 次郎兵衛は、行灯の灯りを見つめながら、静かに呟いた。


 宇喜多家中の融和という足元を固めつつ、前田家という遠い盤面にも、少しずつ手を伸ばしていく。両方の綱を同時に握る戦いは、まだ始まったばかりだった。


 窓の外では、慶長四年の春が、静かに暮れようとしていた。



「変えるなら、中途半端はいけない」——このセリフは、次郎兵衛がここまでの逡巡に、一つの区切りをつける言葉として書きました。

意識したのは、次郎兵衛がリスクを甘く見ていない、という点です。まつが江戸へ行かなければ加賀征伐すら現実味を帯びる——この最悪のシナリオを、彼は目を逸らさずに直視しています。それでも動くと決めたのは、楽観からではなく、「両方の綱を同時に握る」という、これまでで最も具体的な戦略が見えてきたからです。

戸川達安との対話で育ちつつある「共通認識」と、豪姫を通じた前田家への働きかけ——二つの伏線が、この章の終わりで初めて、一つの意志のもとに束ねられました。第四章はここで幕を閉じ、次の第五章「岡山行き」では、次郎兵衛の視線がいよいよ宇喜多家の本拠・岡山へと移ります。

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