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婚約破棄してくれて、ありがとう。準備は三ヶ月前から整っていました  作者: 銀月ソフィ


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第二十三話 「四度目は、あなたの設計で」

 謁見の申請は、思ったより早く通った。


 カイが手伝ってくれたからだと思う。

 三日後、という返事が来た。


「早いですね」


 私がそう言うと、


「陛下も、話したかったのだと思います」


 カイが答えた。


 話したかった。

 国王の方も。


 その言葉が、少し気になったまま、三日が過ぎた。



 謁見の間は、二度目だった。


 前回は三人で来た。

 今日は一人だ。


 扇は、持っていない。

 王宮に出仕してから、一度も持っていかなかった。


 国王は、奥の椅子に座っていた。

 側近が二名だけ。

 前回より、静かな場だった。


「アリシア嬢」


 国王が言った。


「よく来てくれた」


「お招きいただきありがとうございます、陛下」


「座りなさい」


 用意された椅子に、座った。


 国王が、私を見た。

 その目は——前回と少し違う気がした。

 前回は、裁く目だった。

 今日は、話す目だ。


「招集状の件は、わかっているかね」


「ある程度は。ただ確認したいことがございまして」


「なんだ」


「陛下が、オーステン侯爵を先に動かせたかった理由です」


 国王が、少しだけ目を細めた。


「カイ・ヴァルナーが話したか」


「理由があるとだけ聞きました。内容は聞いていません」


「そうか」


 国王が、少し間を置いた。


「三年前から、オーステンの動きは把握していた」


「はい」


「あの男が宮廷の合議制を提案すること、それ自体は——悪い話ではない」


 私は少し、意外に思った。


「悪い話ではない、とおっしゃるのですか」


「王権が強すぎると、腐る。歴史が証明している。

 ただし——合議制の設計が間違えば、別の問題が生まれる」


「どういう問題ですか」


「合議を動かす者が、実質的な権力を持つ。

 オーステンはそれを狙っている」


 国王が、静かに言った。


「あの男の案では、合議の議長職を固定する。

 議長が変わらなければ、宮廷の決定はすべて議長を通る。

 王権の分散ではなく——王権の移転だ」


「陛下は、それを止めたい」


「止めたい、というより——設計を変えたい」


 私は、国王を見た。


「オーステンが表に出てきたところで、議長職を固定しない案を対案として出す。

 そのためには、オーステンが先に動いていなければならない」


「先に動かないと、対案を出す理由がない」


「そうだ」


 国王が、また少し間を置いた。


「アリシア嬢」


「はい」


「あなたは、この三ヶ月で——三度、私の設計を動かした」


「……三度、とおっしゃいますと」


「舞踏会の夜、あなたが動いた。

 謁見の場で、証拠を揃えて来た。

 招集状を、受けた」


 私は少し考えた。


「それは——私が動いたのではなく、陛下の設計通りに進んだということですか」


「半分は、そうだ」


「半分は」


「半分は、あなたが想定より早かった」


 国王が、わずかに口元を動かした。


「舞踏会の夜、準備が三ヶ月前から整っていたとは——思っていなかった」


「……恐れ入ります」


「褒めている」


 私は、少し黙った。


「では、陛下」


「なんだ」


「四度目も、設計通りですか」


 国王が、少しだけ間を置いた。


「いいえ」


 静かに、答えた。


「四度目は——あなたの設計で構わない」


 謁見の間が、しんと静まった。


「ただし」


 国王が続けた。


「オーステンが表に出るのは、早くて来月だ。

 それまでに、対案の骨格を作っておいてほしい」


「私が、ですか」


「ローゼンベルク家とヴァルナー辺境伯家、それからアルバ家。

 三家が揃えば、対案を出す基盤になる」


 三家。

 アリシアとカイとセレスト、ということだ。


「……わかりました」


 私は、礼をした。


「ご指示、承りました」


「指示ではない」


 国王が、また口元を動かした。


「お願いだ」


 私は顔を上げた。


 国王が、静かに私を見ていた。


「お引き受けします、陛下」



 屋敷に戻ると、セレストが待っていた。


「謁見はいかがでしたか」


「大きな話でした」


「どのくらい、大きいですか」


「三家で動く話です」


 セレストが、少しだけ目を開いた。


「三家、とは」


「ローゼンベルクとヴァルナーとアルバ、です」


 セレストが、少し黙った。


「……父は、どう思うでしょうか」


「お父様に話すのは、骨格が整ってからでよいと思います。

 その前に——少し聞かせてもらえますか」


「何をですか」


「好いている方のことを」


 セレストが、少しだけ動きを止めた。


「今ですか」


「今の話と、関係があるかもしれません」


 セレストが、少し考えた。

 それから、小さく息を吐いた。


「ルーカス・ハルトといいます」


「王宮にいる方ですか」


「はい。記録官室に勤めています。平民出身ですが——王宮の記録管理を、ほぼ一人で動かしている方です」


「記録官」


 私は、少し考えた。


「宮廷の議事録も、その方が管理しているのですか」


「はい」


「合議制が成立したとき、その記録を管理する立場の人間は——」


 私が言いかけると、セレストが静かに言った。


「そうです」


「オーステン侯爵は、ルーカスさんを標的にしている」


「三ヶ月前から、懐柔しようとしているようです。

 ルーカスは、断り続けていますが」


 私はセレストを見た。


 セレストの目は、いつもより少し——固かった。


「セレスト様」


「はい」


「彼を守りたいのですね」


「はい」


「では、一緒に動きましょう」


 セレストが、少し間を置いた。


「……よいのですか」


「よいです」


 私は答えた。


「それが、今回の私の設計に含まれますから」


 セレストが、少しだけ——安堵したような顔をした。


「ありがとうございます」


「お礼は、後で。まず骨格を作ります」


 リゼットが、お茶を持ってきた。


「お嬢様」


「なんですか」


「辺境伯への連絡は、本日中になさいますか」


「今夜、手紙を書きます」


「かしこまりました」


 リゼットが、素早く動いた。


 今日のリゼットは、動きが最初から早い。


 ——全部、聞いていたのだろう。


 まあ、いい。


 今日の話は、むしろ記録しておいてほしいくらいだった。


 四度目は、私の設計で。


 陛下がそうおっしゃった。


 では——準備を始める。

 今度こそ、本当の意味で。

 お読みいただきありがとうございました。


「四度目は、あなたの設計で構わない」


 陛下がそうおっしゃいました。


 そしてセレストの好いている方の名前が、わかりました。

 ルーカス・ハルト——王宮の記録官で、オーステン侯爵に狙われている方です。


「一緒に動きましょう」とアリシアは言いました。


 次話から、準備が本格的に始まります。

 今度は三家で、四度目の設計で。


 続きをお楽しみに。

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