・・・は、なかった。
「ボニュウ・・・ナゼダ・・・。」
樹は戸惑ったような様子で言う。全く想像もしなかったのだろう。
そんなに母乳が珍しいのだろうか、深く詮索されても嫌なだけであるが。
「・・・いいから。」
少し考えこむような声で樹が喋る。
「マサカ・・・キサマガ・・・?」
「・・・ウォーターV。」
魔法を幹にかすらせた。なぜ撃ち込んだかは内緒である。いやわかりきってるだろうが。
炎で焼かなかっただけ優しかったと思って欲しい。
「・・・スクナクトモ、ソウイウコウカノ、ショクブツハ、シラナイナ。」
「・・・ほんとに?」
「イヤ、ホントウダ。シラナイモノハ、シラナイノダ。」
「・・・そうか。」
全てを知っていると言う割には役に立たなかったが、一応お礼とお詫びにキュアを掛けておく。
樹が心地よさそうな声を上げる。文にするとまるで自然を愛するポエマーみたいだ。実際喋ってるけどな。
まあでもわざわざ教えてくれたのだし。このくらいしてもバチは当たらないだろう。
「あの、私もちょっとお話いいかな?」
自分と木が会話してるのを見て、ノエラも話に入ってくる。
既に防御態勢は解いてあった。
「あのさっ、多分数日後にも私達みたいな人が森に狩りに来ると思うのっ。」
「ホウ、ソレデ?」
「だからこの場でこの子、ナオの力に免じて通してあげて欲しいなっ!」
ノエラが自分の両方に手を置きながら言う。勝手にダシにされていた。
いやまあ確かにこの木攻撃したの自分だが。
「イヤ、コノモリハ、ニンゲン、ケッコウクルゾ。」
それ知ってる割には、ギルドの資料になかったなこいつ。空気だったのだろうか、自分も中学の頃は空気だった。
いやむしろ自分は周囲と空気が違ったのか。
そして回りとは空気の重さが違うから、ヘリウムのごとく、周囲から浮いてしまうのだ。
つまり重みも形もないフワフワした人間性の結果と言えるだろう。
・・・どう考えても自分の空気がどんより重いな。
つまりあれか自分が浮いてるのでなく、周囲が高みにあったのか。深く考えるのはやめとこう、所詮言葉遊びだ。
所詮人生など考えても変わらない。てかおっぱいが張る。クロニタ戻ったらまた搾ってもらうのかな。
「そっかー、じゃあ貴族の人たちと区別付かないかな。どうしよう?」
「・・・キサマラガ、トモニコイ。」
「ソウスレバ、ソノモノタチニハ、キガイヲクワエヌト、ホショウシヨウ。」
そう樹が言う。案外寛容というか、なんか妙に俺たちが受け入れられていた。何でだろう。
ていうか今この場でコイツを倒せば、また来なくてもいいのでは?
指定されてないから、倒してお金貰えるわけではないし、意思疎通できるのに殺すのも気が引けてしまうが。
そもそもなんでコイツは人を襲ったのだろう。生まれた時からそういうものなのかもしれないが。
色々と変な木だった。
――――
とりあえず樹は倒さずに通り抜けて、そのままクロニタまで戻ってきた。
嘘か本当か知らないが、あいつを倒すとあのあたりの森全てに影響が出るらしい。ソースは樹本人だ。うさんくさい。
まあでも実際報酬貰えないし、倒す意味ないからな。
ノエラはカウンターのムッカさんに森でのことを説明している。ニンナは元の主人、あの男の家まで妹の様子を見に行ったようだ。
普通に考えれば、ニンナが逃げるのを心配するシチュエーションではあるが、まあ大丈夫だろうなんとなくだが。
というかニンナが本気で嫌だったら別に逃げてくれてもいいのだ。奴隷というのがこの世界でどういう扱いかは知らないけれど。
「つまりあなた方が依頼主に付いて行けば、危険指定クラスを超えた強さの、大型の魔物との戦闘が回避できると?」
カウンターのムッカさんがノエラの説明を判ってくれたらしい。
まあ都合よく更に仕事もらおうとしてるみたいなこと言ってるが。でも実際行けば嘘か本当かバレるだろうし。
「よくわからないですけど、多分そういう事だと思いますよっ!」
「依頼をどうするのかは先方の判断ですが、ギルドとして依頼主にお伝えしておきましょう。」
カウンターのムッカさんはそう言うと、自分たちに背中を向けて奥の方へ行く。
すぐ袋を2つ持って帰ってきた。
「こちらが依頼の報酬になります、それとこちらが指定生物の討伐報酬。こちらの書類で受け取りの手続きをお願いします。」
袋2つと書類1枚がカウンターの上に置かれる。
依頼の報酬の袋のほうが、討伐報酬の袋より2,3回りほど大きい。やっぱり討伐だけだと微妙なのだろうか。
見ればノエラがせっせと書類を埋めていた。この世界の都合はわからないので、正直そういうのをやってくれるのはありがたい。
結局これからの事考えれば、自分で覚えないといけないんだけどな。
でもなんだかんだでお金貰えてよかった。そう思っていると後ろから高めの声がした。
「ナオ様ー!遅くなってごめんなさい!」
ニンナが少し息を荒くしてやってきた、走ってきたみたいだった。
ちなみに今はもう巨大ラブラドールではなく、犬耳の少女に戻っている。
「・・・えと、妹。」
「妹達は無事でした!何もなかったとも言ってましたしね。ただ・・・」
ただ、のあとニンナが少しニヤリとする。要するになんかあったなこれ。
とはいえ無事なようでちょっと安心した。所詮他人事ではあるのだが。
「・・・ただ?」
「自分がマーザと名乗る、変な獣人の女が来たとは言ってまして。」
ニンナがどこか歪んだ笑顔で言う。ああ・・・家に帰ってもそうなるよね。
現場で見てた自分ですらちょっと信じられないレベルなのに。あれ自分も同じような目に遭ってるのか。
「最初は無視していたのですが、あまりにしつこく掛かってきたので、下から2番目の妹が小突き返したら倒れて、泣き出して。」
泣いたのか・・・
「なんでもLv1になっただけで、本当はこんなはずじゃないんだ、と叫びながら走って逃げていったみたいです。」
本当に気持ちよさそうな表情でニンナが語っていた。同情したい相手ではないが、少しだけ同情した。
これからあの男はどうして行くのだろう。まさかTSして身寄りもお金も無くて、身体を売る生活になってしまうのだろうか。
女体の快楽と身体を売ることで稼げるお金に慣れて、そのまま男としての自分を忘れ淫乱な女に堕ちてしまいそうである。
というかならないだろうか。エロ同人というか、ネットのTSエロ小説みたいに。
「・・・正直あたしが殺してやりたかった。」
ニンナが吐き捨てるように言う。すごい闇を感じる・・・。
いやこれはこれで純粋なのかもしれないけれど。そう思いつつも気持ちは判る。まあ実際やられてないからわからないけれど。
どっちだ。
考えているとノエラが報酬の袋を持ってこっちに来た。
「あっ、ニンナちゃんおかえりー!ていうか皆でご飯行かない?」
サブタイトルは前回からの続きですが、これでよかったのかちょっと悩む。




