ラブラドール奴隷
「・・・凄いこと?」
おかしな状況のまま、とりえずノエラに返事した。ニンナは人が来たのを察して、咄嗟に顔を胸から離す。
ニンナはすぐさま畳んだ下着を持ち、お召しになられますか?と耳元で聞いてきた。うなずく。
ニンナの声色はちょっと恥ずかしそうだった。ずっと裸の自分こそ相当恥ずかしいなうん。
「そうっ!えっとその子・・・」
「ムーベ・ニンナです、今日からナオ様の奴隷になりました。ソラノム・ノエラ様よろしくお願いします。」
なんかいざ奴隷になったって言われると、ちょっと背徳的な感じがするな。あんまりニンナでそんな気がしないのだけど。
軽くよろしくーと返すと、ノエラが言葉を続けて言う。
「ナオってドラコヴォ苦手そうだし、その子・・・ニンナにトランスして貰ったらどうかなって!」
「・・・そんなの、絶対、ダメだ。」
命が掛かっているのに。ノエラはこんな事を言う奴だったのかと思うと、悲しくなった。
所詮この世界では奴隷はこんな扱いなのだろうか・・・。ノエラが悪いのでなく、この世界がそういう価値観なのかもしれない。
弱い人間はどの国どの世界でも追いやられがちだとは思う。自分も実際そうだった。
それでも死ねというのは、いくら価値観の違う世界とはいえ、あまりではないか。自分だってマーザという人を殺しかけてしまったが。
結局のところ取り繕ってみても自分だってそういう面はあって、偽善者でしかないのである。
だとしてもやっぱり、ここでトランスを強いるようなことは絶対にしたくない。
それをやれば自分の微塵の欠片しかないプライドが、本当に全くなくなってしまう。絶対にそれだけはできなかった。
「え、でもナオって回復魔法すごく得意でしょ?なら大丈夫なんじゃ。」
「・・・え?」
あれ?もしかして、そんなのでどうにかなるの?なんか寿命縮めまくってるとかだと思ってたんだけど。
「回復魔法を頂けるなら、あたしはトランス大丈夫ですよ。ナオ様のさっきのはそういう次元を超えていた気もしますが・・・。」
ニンナも言う。なんか本当に自分は勘違いし続けてたのではないか・・・。すごい恥ずかしくなってきたぞ。
もしかすると、それだけこの世界では回復魔法が希少で、高級なものなのかもしれないけれど。
ていうかノエラには凄いこと思いついた!って言われたけどよく考えたら全然凄くなかったんじゃ。
「・・・キュアIII。」
恥ずかしくなってきたので、とりあえずニンナに回復魔法を掛ける。
どこか暖かみのある光がニンナを包み、毛のまだらに抜けた場所や肌の傷などを癒やしていった。
「今のキュア・・・ですよね?IIIってのはよくわかりませんが。」
魔法を掛けられたニンナが、心底驚いたような表情で言う。
さっきより心なしかさっきよりニンナの動きがいい、見えない部分にもたくさんケガがあったのだろうか。
「あのっ、あたしもよく知らないんですけど、キュアって数時間はチャージが必要なんじゃ。」
「・・・知らない。」
ぼそっと答える。いやだって本当に知らないし。
「ナオは魔法具の発動も異常に早いからねー・・・何なんだろうね?」
「本当に何者なんですかね・・・。」
ノエラとニンナから疑惑の眼差しで見られていた。そりゃ転生はしたけど別に自分は何も悪いことしてないのに・・・。
うーん何故なのか。別に異世界からネトゲの自分のキャラとして転生してきた、って言ってもいいのだが理解してもらえるのだろうか。
前の世界なら言えば一発で通じそうな流れだけど、転生先で言われても困るよな絶対。下着姿のまま説明に悩んでいた。
――――
ノエラも戻ってきたし、ニンナも回復したということで森に向かっていた。
「結局マーザさんは戻ってこなかったね・・・」
横でドラコヴォに乗ったノエラが言う。ていうかこの大トカゲ跳ねすぎだろ。横から見て改めて思う。
ちなみにノエラ曰く、獣人のトランス体は、乗るのにあんまりライダースキルを要求されないらしい。代わりに獣人側の消耗がある訳だが。
「・・・あんなのもう帰ってこなくていいんです。」
巨大なラブラドールっぽい犬が喋る、もちろんこれはトランスしたニンナだ。
見た目はともかくなかなか速い。ちなみに毛色は少し茶色めの白である。俗に言うイエローだ。
黒のラブラドールの方が、ちょっと格好よかったとか思わなくもない。
「ていうか今から戻ってもマーザさんどうするんだろう。周りの人判ってくれるのかな。」
ノエラがちょっとだけ気の毒そうに言う。
ていうかあれ?君が追い込まなかったら、虎耳の子がマーザさんなの自分たちで保証できてたんじゃ。
まあしたくないし、あの男には自業自得と言ってやりたいけれど。
「・・・家、帰るとか。」
自分もちょっと言ってみる。パニックになって仕事を投げ出したとして、やっぱりその後どこに行くかと言えば家だろう。
冒険者だしここに家があるのかわからないが。自分たちと同じで宿を取っているかもしれない。
「妹達がちょっと不安になりますね・・・。この仕事が終わったら、あたし、確認しに行ってもいいでしょうか?ナオ様」
巨大ラブラドール、もといニンナが少し背筋をこわばらせながら言った。
背中に乗っているので身体の緊張なども、直接伝わってくる。
「・・・いいよ。」
特に止める理由もない。むしろ自分もニンナの妹達が何かされてないか気になるくらいだった。
というかやっぱり妹達もトランスしたら、巨大ラブラドールなのだろうか。
「あ、森見えてきたね。」
前を指しながらノエラが言う。さっきまでの乾燥した地帯からいきなり森が続いていた。
不思議だ、まさにファンタジーである。ニンナの背中で揺り動かされながらそう思っていた。
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