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目がピカピカして痛いんじゃ

<師里アキラ>


「スズ、これなんだと思う?」


 昼休みの学校の廊下を駆けながら隣を走るスズへと問う。

 一般の生徒達が不審な目を向けてくるが、そんなことには頓着していられない。


 学校に入った時から感じていた微弱な魔力。

 それが依頼されたゴーストだということはすぐに分かった。しかし――


「いきなり魔力が膨れ上がったよな」


「わからぬ、何が起こったのか皆目見当もつかん」


 首を振るスズ。

 コイツにもわからないこととなると、本格的にイレギュラーな事態が起こっていると考えたほうがいいだろう。

 足裏に一段と力を込めて床を蹴る。

 一刻でも早く現場へと向かわねばならない。


 しかし――



「キャァァァァ!」



 突然響いた甲高い悲鳴で足が止まる。


「なんだ!?」


「所長! あそこじゃ!」


 スズの示した方を見る。

 そこでは床に黒い渦が渦巻き、その中から這いだすように現れる存在が。

 這いだしたそれは人の形でありながら人間よりもずいぶんと細いシルエットをしており、どうして自立できるのかも不思議な、まさしく超常の存在。


「アンデッド型だと!?」


 特殊災害の区分で言う「アンデッド型」。

 人間の全身骨格であるスケルトンや、腐乱した人間のゾンビなどの「死体」の特殊災害が区分される。


 そのアンデッド型のスケルトンが目の前で黒い渦の中から現れた。

 しかもその手には大きな海賊刀なんてものを握っている。

 明らかな凶器。

 高校生が悲鳴を上げるのも無理はない。


「クッソ!」


 急激な変化を見せた体育館にいるというゴースト。

 一刻も早くそこに向かうことが必要だろう。

 だが――


「見逃すわけにもいかねぇだろ!」


 あんな凶器持ったまま見逃せば、必ず高校生に被害が出る。

 そんなことはさせられない。


 足裏に『加速』の魔方陣を作る。

 金色の魔方陣が出現すると同時にそれを踏み抜いた。

 ありえない程の超加速を得て、出現したスケルトンに一瞬で肉薄する。

 一瞬で近くに現れた俺に驚いたような(まぁ、表情はないんだが)スケルトンだったが、すぐさまその海賊刀で横薙ぎに払ってきた。

 これほど早い反応を見せるとは思わなかったが、俺は慌てずに左手の先に魔方陣を生み出す。


「ここは日本だろうがッ! 日本刀もってこい!」


 感じていた不満と共に、魔方陣を打ち抜き金色に輝く左手で海賊刀を殴る。


 ギンッ


 と拳と刃物がぶつかったとは思えない音が響き、途端に海賊刀はサラサラと砂にその姿を変えた。

 勿論、魔方陣で強化された俺の拳にケガなどない。


 俺が作った魔方陣は『浄化』。

 アンデッドの魂を浄化し、砂へと変えることができる。

 やはりアンデッドにはこれが一番だ。


 武器を失って呆然とするスケルトンの隙を突いて『浄化』の魔方陣を付与した蹴りを叩き込む。

 バラバラに砕けたスケルトンは先程の海賊刀と同じように空中でサラサラと砂になってしまう。


 瞬殺。


 そう言ってもいいだろう。

 スケルトンはCランクでも下位の方であり、倒すのは難しくないしな。


 周囲を見回して怪我人などがいないことを確認し、再び駆け出す。

 だが再び――



「キャァァァ!」



 と叫び声が。


「クッソ、またかよ!」


 声のした方に目を向ける。

 するとそこには――


「……おいおい、マジかよ」


 先程スケルトンが現れた黒い渦。

 その渦が十数個、廊下に現れていた。


「所長マズイぞ」


「わかってるよ」


「いや、お主が考えているよりもマズイ」


「なんだと?」


「この黒い渦、どうやら学校中に出現しているようだ。数はざっと百ほどだな」


 学校内の感知をしていたスズがそう告げてきた。


「……それは本格的にマズイな」


「所長、ここは出し惜しみしている場合じゃないじゃろ」


「だな。スズ、とりあえずそいつらの動きを止めてくれ」


「了解じゃ」


 そう答えたスズはその場で仁王立ちし、腕を組む。

 スズが力を使う際のいつもの姿勢だ。


 ブンッと一瞬でスズの足元に大きな黄緑の魔方陣が出現する。

 作ったのは『索敵』と『拘束』の複合魔方陣。

 スズの体から魔力が魔方陣に注ぎ込まれ黄緑の光を放ちだす。


「よし、行け」


 スズの命令によって魔方陣がその力を解き放つ。

 校内のいたるところで這い出た、もしくは這い出ようとするスケルトン。

 その全ての足元に突如魔方陣が出現し、その中から人の身長ほどもある大きなかいなが飛び出す。

 黄緑色に輝くその腕は、力強くスケルトンどもを一斉に握りしめて拘束した。


「よし、拘束したぞ」


「ご苦労さん。……そんじゃちょっと借りるな」


「……なんじゃと?」


 スズの疑問の声を無視して、スズの作った魔方陣を書き換える。

 難しいことはない。

 ただ『拘束』の部分を『浄化』に書き換えただけだ。


 魔方陣がスズの黄緑から俺の金色へと色を変える。

 途端にスケルトンを拘束していた黄緑色の腕が金色になり、浄化の力を叩き込む。

 そのことで学校中の全てのスケルトンがサラサラと砂に変わって浄化された。


「よし、一掃できたな」


「……おい」


「早く体育館に行かないとな」


「……おい」


「怪我人もいないみたいだし、先を急ぐぞ」


「おい!!!」


「ウワッ、ビックリするだろいきなり大声出すなよ」


「ビックリするのはこちらじゃこの阿呆! なに人が作った魔方陣を勝手に使っとるんじゃ!」


「いや、だってまた一から索敵して対象設定するよりはお前の使わせてもらった方が早いじゃん。ほら、非常事態で一刻を争う事態だったし!」


 そんな言い訳をする俺をスズはジトーと見る。


「そんなことを言って、ただ自分で複合魔方陣を作るのがめんどくさかっただけじゃろ。お主が『索敵』と『浄化』の複合魔方陣を作れば済んだ事じゃったろうが」


「……え? 何のことデス?」


「すっ呆けおって……」


 ハァと溜息をつくスズ。

 そんな彼女に声を掛ける。


「だって、お前の方が魔方陣作るの上手いし早いじゃん。完成速度も消費魔力も俺よりもずっとさ」


「そ、そうかの?」


「そうそう。お前のその腕を認めてるからこそ、お前の魔方陣を借りたんだよ」


「む、むぅ」


「流石スズの魔方陣、魔力消費がスッゲー少なかったよ」


「ほ、ほぅ」


「いやー、これから先なにが起こるかわからないし、魔力の消費は抑えたほうがいいもんな」


「ち、違いない」


「ホント、スズはすごいな~」


「あ~もうわかったわかったのじゃ! 許してやるわい!」


 顔を赤くしたスズが喚く。

 ホントおだてに弱いなコイツ。

 ……チョロ過ぎて心配になるぞ。


「さて、そんじゃ急ぐぞ。また何時あのアンデットどもが出てくるかわからない」


 俺達は再び駆け出した。


 ☆★☆


「ところで先程のあのアンデットじゃが……」


「召喚、か」


「間違いなく件のゴーストの仕業じゃろう」


 召喚。

 魔力によって自分の意に従う存在を呼び出す力だ。

 しかも今回行われたのはアンデッドの召喚。

 現状と合わせて考えても、向かう先にいるゴーストが関係していることは間違いない。


「となるとただのゴーストだと思ってたのが、実はネクロマンサ―ゴーストだったってわけか? 上手く擬態していたもんだ、お前にも見破れないだなんて」


「それなんじゃが、おかしいのじゃ」


 けれども、その言葉に難しい顔をしたスズが異を唱える。


「何がだ?」


「ネクロマンサーゴーストである予兆なんぞまるでなかったんじゃ。確かに、実地検査をせずに聞き取りと『遠見』で軽く確認しただけだったが、その時は間違いなくDランク――このようなことができるほどの力を持ってなどおらんかった」


「おいおい、それは一体どういう意味だ?」


「突然に力が増えた、という意味じゃ」


 その言葉に悪寒が走る。

 ネクロマンサーゴーストの様な上級ランクの特災が下級に擬態していることは、多くはないが無いことでは無い。

 しかし、スズの言った通りそれが突然の強化だとすれば話は全く違う。

 それではまるで――


「2年前の……アイツの力だ、でもそんな馬鹿な!」


「わかっておる、奴はお主が殺した。そんなことはわかっておる」


 苦虫を噛み潰したような顔で前を見据えるスズ。


「しかし状況は全く一緒なのじゃ」


 スズの言葉に、心の警戒レベルが一気に上がる。

 先程まで擬態だと思っており、召喚されたアンデッドの力も弱いものだったためにどこか余裕があった。

 けれども。

 スズが言うとおりにアイツが関わっているとすれば――


「素直に廊下を走ってなんていられるか!」


 言葉と共に横のスズを足を止めずに抱え上げる。


「ちょ、な、何しとるんじゃ! こんな時に!」


 横向きに抱きかかえたスズが顔を真っ赤にして喚き声を上げる。

 だがそんなことにはかまっていられない。

 目の前の空間に『強化』の魔方陣を作り出して2人の全身を強化する。

 そしてそのまま――


「お、おい! 何をする気なんじゃ所長!」


「……舌噛むなよ」


 それだけ忠告して走っていた廊下、その窓へと突っ込む。


 バリンッ


 というガラスの砕けた音と、周囲の生徒の悲鳴を背に感じて校舎の外へと飛び出る。

 そのまま地を蹴って飛び出す。

 走る、というよりも跳ぶという表現があっているように、一歩蹴りだしただけで体は数メートルを一気に移動する。

 そうして正規の順路を無視して、一直線に体育館へと向かった。


 ☆★☆


 わずか数秒で体育館にたどり着いた俺達。

 なにも言わずに抱え上げ、ジェットコースターのような高速移動をしたからかスズから強めに背中を殴られたが、それくらい許してくれよ。


 そうして件の女子更衣室の前に立つ。

 なるほど、確かに中からはゴーストとは思えないほどの魔力を感じる。

 しかも扉の隙間からは魔力が漏れ出していた。

 この魔力で学校中に召喚を行ったのだろう。

 早く何とかしなければ再び召喚が行われてしまうのは確実だ。


「……それじゃ行くぞ」


 スズに声をかけて目の前の鉄扉に手を掛けたその時――




『このクソ兄貴ぃぃぃぃ!』




 室内から聞き覚えのある、それでいて近頃はあまり聞くことのない声が聞こえてきた。



 瞬間、俺の中で何かがキレた。



 突然変異したゴーストも、もしかしたら関わっているかもしれないアイツの事も、全部頭から消えた。

 そんなことはどうだってよかった。

 何があったって、何が起こったって、俺の力で全て捻じ伏せればいい。

 俺の事を呼ぶその声のためならば、俺は俺の全力を持って助けると決めているんだ!



 俺の中に眠る元勇者の力。

 その力を引き出す。

 全身に魔力ともまた違った神聖な力が満ちていく。

 その力が満ちていくのと比例して、俺の体が輝きだした。

 体から発せられた光が周囲を眩いほどに埋め、漏れ出していた黒い魔力を片っ端から光の粒子へ変える。

 その粒子が俺の体へとドンドン吸い込まれ、その度に俺の体が強化されていくのを感じた。

 懐かしい、感じだ。


『魔力分解』と『吸収』。


 勇者の力の副次的な能力だ。


「所長! 落ち着け!」


 そんな俺の様子にスズが声を掛けるが、落ち着いてなんかいられるか!

 妹が呼んでるんだぞ!


「オラァッ!」


 強化されたその拳で、目の前の鉄扉に一撃加える。


 ゴギョッ


 という音を立てて鉄扉は”く”の字に曲がり、その衝撃で蝶番も外れて耳障りな音を立てながら真っ暗な室内へと吹き飛んでいく。

 飛んでいく最中に白い人影を巻き込んで壁へと叩き付けたが知ったこっちゃない。


 開いた入口から室内へと飛び込む。

 勇者の光が室内を埋めていた黒い魔力を分解し、照らす。


 そして見つけた。


 妹であるレイが白い触手のようなもので天井近くまで釣り上げられているのを見つける。

 声を出す暇すら惜しく、跳びあがり瞬時に手刀でその触手を断ち切る。

 視界の端にもう一人捕まっているのが見えたのでついでにそちらの触手も切っておく。

 もしかしたらレイの友達かもしれないしな。


 その子が女子だったのも大きい。

 男子だったら多分助けなかった。

 人の妹を人気のない更衣室に連れ込んで何する気だったんだ!


 存在すらしない男子に怒りを感じながら、触手から解放されたレイを両腕で受け止める。


 良かった、ケガなどはないみたいだ。

 だが、その目の端に涙が浮かんでいるのを見逃しはしない。


 怒りで歯を噛みしめ、ギリッと奥歯が鳴る。


 両腕に感じる妹を強く抱きかかえながら、怒りを声として吐き出す。


「俺の妹に何してやがんだ! このクソゴーストが!」


 教室の奥、鉄扉を押しのけて立ち上がったゴーストに向かって吼える。


 正気を失って暴走しているのか、明らかに様子がおかしい。

 しかしそんな事情を考慮してやるつもりなどない。

 コイツはレイを泣かしやがった。

 それだけで万死に値する!


[GYYYGRYAAAAAAAAAA!]


 俺のそんな殺気に気付いたのか、ゴーストが咆哮を上げて威嚇してくる。

 ふむ、タダの咆哮じゃなくて硬直と恐怖を引き起こす状態異常系の一種の技の様だな。


 俺に効く道理なんてないがな!


 俺の勇者の光がその状態異常全てを無効化する。

 届くのは空気振動としての音だけだ。


「覚悟、出来てんだろうな!」


 俺は強く、強く、ゴーストを睨みつける。

 どうやって妹にしたことの代償を払わせてやろうかと考えながら。


 そんな俺に背中からスズが声をかけてくる。


「所長、興奮するのもいいがもうちょっと光抑えてくれんか? 目がピカピカして痛いんじゃ」


 ……もう少し空気読んでくれないかな、スズさんや。

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