とりあえず100発いっとこうか
<師里アキラ>
[GUGYOOOOOOOOOOOO!]
「ウッセーんだよ、今すぐ消されたいのかテメーは!」
吠え立てるゴーストに、言葉が届かないとは思いつつも怒鳴る。
焦点を失っていたやつの視線が俺を捉える。
どうやら俺の事を敵と認識したらしい。
この場で一番脅威となると判断したのか、それとも俺が奴に敵意を向けてるからか。
まぁ、どっちでもいい。
あっちから向かってきてくれるのなら好都合。
レイや他の奴を狙われるよりはよっぽど楽だ。
俺とゴーストとの間に緊張の糸が張り詰めた。
共に両者の隙を窺い、一挙手一投足を注視する。
奴のは動物の様な野性的な本能。
俺のは幾度もの戦いで積んできた戦闘経験。
全く異なった経緯でありながらも行きついた行動は同じ、ということは何か感じるものがある。
そうして集中が高まり世界がより克明に感じられる。
「ちょっと、降ろしてくんない?」
しかし、胸元から響いた不機嫌そうな声でその集中は途切れることとなった。
抱えていレイが俺の事を睨みつける。
彫りの深い美人が至近距離で睨むと迫力がすごいな。
「え、あ、スマン!」
「いいから早く降ろしてっての」
「わ、わかった」
そうしてレイを降ろそうとゴーストから視線を逸らしたのがまずかった。
その隙をゴーストは見逃さず、気付いた時には目の前まで鋭く尖った触手が迫る。
「やっべ!」
咄嗟に後ろに飛び退り、背中を盾にして胸元のレイを守る。
予想していた衝撃に備えるが、キンッという音が鳴っただけで、その攻撃は届くことはなかった。
「所長、本当にお主は妹の事となると周りが見えなくなるの」
スズのそんな言葉と共に、俺達と触手の間に黄緑色の魔方陣が現れ、触手の攻撃を弾いたからだ。
「よくやったスズ!」
「これでも一応お主の相棒なのでの、お主がどんな時に隙を見せるかくらいは熟知しとるわ」
褒められたことでちょっと得意げなスズ。
そんな彼女の近くまで行き、レイを降ろす。
「スズ、レイを頼む。こっちのサポートはしなくていい」
「了解じゃ。お主の方こそ戦ってる最中、妹に気を取られるでないぞ」
「あぁ信頼してるよ!」
スズと言葉を交わした後、俺はゴーストの前へと進み出る。
「さて、とりあえずうちの妹にやったことの落とし前はつけてもらおうかね」
返答は8本の触手だった。
途中で断ち切った2本がそれぞれ2つに分かれて4本。
反対側の腕も同じ様に分かれて4本の、両腕計8本の触手がそれぞれ異なったコースで俺に攻撃を仕掛けてくる。
「ハッ! 舐めんなよ、8本程度で俺に届く訳ねぇだろ!」
気合一発。
迫りくる触手を輝く右拳で打ち砕く。
勇者モードの俺には『強化』や『浄化』といった魔方陣の補助は必要ない。
俺の体から涌き出る力がどんな存在であっても問答無用で捩じ伏せるからだ。
[GYYYY!?]
流石に片腕で防がれると思わなかったのか、怯むゴースト。
「おいおい、俺はまだ片腕しか使ってないんだぜ。これで終わりとか言わないでくれよ」
言葉は通じないかもしれないが、それでもあえて挑発する。
コイツに屈辱にまみれて消えてもらうために。
それが妹を傷つけられた兄の怒りだ。
そんな俺の挑発に乗ったのかはわからないが、ゴーストの体から魔力が吹きあがる。
その魔力が再び室内を暗く染めあげた。
スズから言われて勇者の光――正しくは勇者光と言うが――を抑えていたとは言え、俺の光の支配を上書きしたことに少し驚く。
「……魔力量は確かにネクロマンサーゴーストとしても不自然なほどに多いな」
――本当にアイツが関わってるのか?
心の中で答えの出ない自問自答を行う。
「いや、今はそんなことに構っていられねーか!」
頭を振り、無駄な思考を打ち払う。
相手は部屋を埋め尽くす程の魔力を出しているんだ。
よそ見をしている余裕はない。
次になにが起きても良いように身構える。
一番楽なのは何かされる前に、先程と同じく光で分解することだが――
「それじゃ面白くねーよな!」
奴が何をする気かわからないが、それを真っ正面から叩き潰す。
それでこそ奴に屈辱を与えられるってもんだろ。
[GYGRURURURURURURURURU!]
準備が出来たのかゴーストが吠えた。
それを合図に室内を埋めた魔力が渦を巻きはじめ、その中から先程校舎内で倒したのと同じスケルトンが現れる。
それは床からだけでなく、壁や天井といった室内のあらゆる所から這い出てきた。
俺の発する勇者光のために俺達の背後まで魔力が来ておらず、全方向から囲まれるのは避けられているが、前には数えるのも嫌になるほど大量の骸骨が空間を埋め尽くしている。
既にスケルトンの壁により、操り主であるゴーストの姿は見えない。
だが――
「ガッカリだな」
それが俺の偽らざる本心。
「何してくるかと思ったら二番煎じの物量戦とか……下らねぇ」
先程だって百余りのスケルトンを消したんだ。
今さらこんな雑魚をいくら呼び出したところで何の障害にもなりはしない。
先程の様に全てを一瞬で浄化することもできるし、今の勇者モードのまま突っ込んで行っても負けないだろう。
「でもま、こんなんでもこれがお前の全力だって言うなら、俺も全力で叩き潰してやるよ!」
相手が全力で来るってんならこっちも全力で応えるってのが礼儀だろ。
そして俺は全身に力を漲らせる。
しかし勇者光は出さないように慎重に。
オーラを出しちゃったら全部消しちゃうからな。
そうして漲らせた力でもって目の前に魔方陣を作り出す。
人の背丈ほどもある大きな金色の魔方陣だ。
込めたのは『増幅』。
巨大なのは単発でなく連続で使用するためだ。
「それじゃ行くぜ!」
声を上げて俺は両腕を大きく動かす、昔見たアニメと同じ様に。
ハッキリ言って無駄な行動だ。
これからする攻撃には何の影響も与えない行動。
けれども――
「必殺技は事前のポーズも含めて必殺技だろ」
誰にともなく言い訳を呟く。
「んで、必殺技なら技名も必要だよな!」
とある星座の位置をなぞり終わった俺は高らかに技名を叫ぶ。
「ブレイバー メテオ ナックル!」
それと同時に力を込めた拳を魔方陣に叩き込む。
魔方陣を通した拳は4~5つほどの拳の形をした金色の拳圧となり、すさまじい勢いで飛び出していく。
飛び出した拳圧は一番前にいるスケルトンを砕き壊し、光へと変えた。
だが勿論。
これだけで終わりはしない。
「オラァァァァァァァ!」
雄叫びを上げ、目にもとまらぬ速さで次々と右拳を魔方陣へと叩き付ける。
その度に魔方陣から拳圧が吐き出されていった。
吐き出される拳圧の数は数百にも上り、技名に違わず拳の流星の様だ。
その拳圧が視界を埋め尽くすスケルトンを、骨の砕ける破砕音を何重にも響かせながら蹂躙する。
次々と砕かれ、光と散っていくスケルトン達。
輝く拳の波が骨と光を舞い散らせながらドンドンとスケルトンの数を減らし、遂に最奥にいたゴーストを引きずり出す。
けれども俺は拳を止めることはしない。
「とりあえず、100発いっとこうか」
拳を止めずにゴーストへとほほ笑む。
音速を超える拳圧の連打がスケルトンの防壁を全て貫き、ゴーストを打ち据えた。
一発で壁まで吹き飛ばされたゴーストを後続の拳圧が壁に磔にする。
身動きも取れずに拳圧に曝され続けるゴースト。
ゴーストに当たらなかった分の拳圧が壁を打ち、狭い室内に轟音を轟かせて小さく揺らす。
すぐに更衣室がミシミシと軋み、悲鳴を上げ始めた。
壁はひび割れ、室内にあったロッカーもベコベコにへこむ。
それでも俺は拳を止めず、遂に――
ドガガガガ!
と鈍い音を立てながら、ゴーストが磔にされ、俺の拳圧を受け止めていた壁が爆発する様に吹き飛んだ。
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