受けた恩は返させていただきます――この体で!
俺の『ブレイバーメテオナックル』で粉砕された大量の壁の瓦礫と共に、室内を飛び出し校庭へと吹き飛んでいくゴースト。
数メートルを飛び地面に落ちるも、その上から瓦礫が降ってきて瓦礫の山の中へと姿は消えた。
「おっし! ちょっとスッキリした!」
拳を止めて魔方陣を消し、ガッツポーズを作る。
「レイ安心しろ! 悪い幽霊は兄ちゃんがぶっ飛ばしといたからな!」
背後の妹へと振り返りながら声を掛ける。
しかし、その声を掛けられた妹は呆然と言った表情を浮かべるだけで、いつもの憎まれ口すら叩いてこなかった。
「どうしたレイ!? 何か攻撃受けたのか!」
そのおかしな様子に慌ててレイに近寄り、顔に両手を当てて間近で覗き込む。
目の焦点があっておらず、光がない。
「阿呆。儂がついてたのにそんなことあるわけなかろうが」
レイの心配をする俺の背に、スズが声をかけてきた。
「だったらどうしたってんだ!?」
「大方、お主の必殺技に驚いておるだけじゃろうよ。あれほどの大技は見る機会はないからの、初見では刺激が強すぎるわい」
「そ、そうか」
「なに、すぐに落ち着くじゃろうて」
その言葉通り、数秒でレイの瞳の焦点が合い始め光が戻る。
大きな瞳がキョロキョロ動き、状況を把握していく。
そして――
「……妹に何する気だこの変態シスコン野郎!」
「ゴフッ!」
至近距離で顔を覗き込んでいた俺の顔面に思いっきり肘打ちをぶち込んできた。
「キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい! 何考えてんのアンタ!?」
「ご、誤解だ! 俺はお前が怪我してないか心配していただけだっての!」
「はぁ? 怪我あるか見るのに何であんな顔面近寄らせてきたのよ、おかしいでしょ!」
「そ、それは……」
「寄るな! 触るな! 変態!」
両手で自分の体を抱えながら俺から距離を取るレイ。
……何で頑張って助けた妹にこんな態度を取られなきゃいけないんだろう、俺。
「まぁまぁ、妹よ。所長はお主の身を案じていたことに違いはないぞ、確かに距離は近かったがな」
「スズさん……どうでもいいけど妹って呼ばないでください。歳あんまり変わらないし、呼び捨てでいいんで名前で呼んでくださいって何度も言ってますよね」
「すまんすまん」
「あ、あと助けてくれてありがとうございました。ヒトミ……友達も助けてもらって」
「構わんよ、仕事じゃしな」
なぜだ!?
俺には肘打ちで、スズには感謝の言葉だと!
「レイ! レイ! 兄ちゃん! 兄ちゃんも頑張ったぞ」
「……あっそ」
右手を挙げ、自分の働きをアピールする。
返ってきたのは冷ややかな目と淡白な言葉だった。
「……礼くらい言ってやっても罰は当たらんじゃろうに」
「さっきのセクハラでチャラですよチャラ…………せっかく見直しかけたのに」
レイの言葉の後半部分は小さすぎて俺の耳には届かなかった。
「はぁ、まぁいいや。お礼言われたくてやったわけじゃねーし。それより、そっちの友達は怪我してねーか? さっきから動いてないけどよ」
レイに嫌われてるのは今に始まった事じゃないから、こんな対応にも慣れたものだ。
気にせずに流し、話題を先程から微動だにしていないレイの友達に移す。
「え? ちょ、ちょっとヒトミ大丈夫?」
レイが俺の言葉で初めて友達の様子に気付いたのか、近寄り声をかけ始める。
「……おかしい、何あれは? 魔方陣はまだわかる。何度か見たことはある。でもあの光は? あの光を浴びた瞬間ゴーストの勢いが明らかに落ちた。アキラさんがあんな光を出していたことは今まで一度もないはず。ならばなんで今は出していた? ……あの光の存在を隠している? その理由は? もしかしてあの光は――」
「しっかりしろ! 東堂ヒトミ!」
ブツブツと何事か呟いていた少女の面前でバンッと両の手を打ち鳴らすレイ。
「わわっ! レイ、びっくりするじゃないですか!」
その音で我に返ったのか、レイへと文句を言う少女。
「ビックリするのはこっちだっての! 声かけても返事しないし!」
しかしレイは少女の文句に大きな声で反論する。
でもその言葉からは心配していたのがハッキリと感じられた。
仲の良い友達の様だな。
「それは……悪かったですけど、ちょっと考えごとしていただけですから大丈夫です」
レイの行動が自分を心配してのものと言うことが分かったのか、殊勝に謝る少女。
「まぁ、怪我がないならよかったよ」
俺もその少女にと声を掛ける。
「……心配かけてすいません師里さん」
「ん? 俺のこと知ってるのか?」
なんだか意味深に声をかけてくる少女に疑問を感じた。
「所長、お主もこの少女の事を何度か見たことがあるはずじゃぞ。ほら、有名な特災オタクの高校生じゃ、この前のケルベロスの時に焼き殺されかけたのをお主と儂とで助けてやったじゃろうが」
その言葉で思い出す。
確かに有名な特災オタクの女子高生は何かと噂に上る存在だ。
勿論俺だって知っている。
しかし彼女の顔をマトモに見たこともなかったし、ケルベロスの時は人の顔を覚えるほど余裕のある戦いではなかったから、目の前の少女がその特災オタクの女子高生だとは気付かなかった。
「へぇ~、君があの『杜宮市の暴走特急』だったのか」
「え、何ヒトミ、アンタそんなあだ名つけられてたの?」
少しレイが引いている。
でも、兄ちゃんから見るにお前も大概のもんだと思うけどな。
「ある程度知っていらっしゃるようですが、改めて自己紹介を」
姿勢を正して俺に向き直る少女。
こう見ると『暴走特急』なんて呼ばれるとは思えないほどのお嬢さんなんだけどな~。
「私、東堂ヒトミと申します。先日も今も助けていただきありがとうございました。お礼が遅くなってすいません」
深々と頭を下げる東堂さん。
「いや、そんなこと気にしないでいいよ。仕事だし」
「いえ! 受けた恩は返させていただきます――この体で!」
は?
「ちょ、いや、カラダって、え、あの、まっ」
「ヒトミ! アンタまた肝心なこと抜けてるでしょ、女に耐性の無いアニオタが勘違いするから早く言いなさい!」
突然の事に少し動揺していると、東堂さんの脇に立っていたレイがツッコミを入れていた。
「あぁ、すいません。私時々気持ちが先走っちゃうことがありまして、肝心なことが抜けちゃうんですよ」
クスクスと笑うが、こっちは笑えませんっての。
あービックリした。
……心臓バクバクして痛い。
「では改めて、私、『B&Bトラブルバスターズ』で働きたいんです。助けてもらった御恩があるので、お給料もいりません、どうか働かせてくれませんか?」
真剣な目をしていい切る。
決して冗談や何かで言っているわけではなさそうだった。
「……うーん、でもな~」
実を言うと席は空いてる。
この前バイトが辞めたばっかりだし。
ただ、妹の知り合いをこんな危険なところで働かせていいものかどうか。
「お願いします!」
先程と同じ様に深々と頭を下げてくる東堂さん。
「スズ」
頭を掻きながら相棒へと声をかけて窺いを立てる。
「? 構わんのではないか?」
しかしスズはあっさりとそう言いきった。
「え、だって――」
「ここで断ってまたやる気のないのが来ても困るしな。お主の心配もわかるが、お主と儂の2人がついているんじゃ、そうそう危ない目には合わんだろうよ」
「うーん」
まぁ、スズの言うとおりだと思う。
『暴走特急』なんて呼ばれてるけど、裏返せばそれだけやる気があるってわけだしな。
でもやっぱり、最後の一押しが足りない。
「……あのさ」
そんな時、レイが声をかけてきた。
「ヒトミは、その、ちょっと先走っちゃうこともあるけどすごい優秀だし、雇ってもその、迷惑にならないと、思う。頭もいいし、足も速いし……」
友達を褒めるのが照れくさいのか、ぶつ切りで尻すぼみな言葉ながらも友達の売り込みをしてくるレイ。
しかも俺と目を合わせたくないのか、顔を下げ、胸の前で手遊びしている自分の手をじっと見ながらだ。
伏せた顔は少し赤くなっている。
ぶっちゃけすっごいカワイイ。
「採用!」
妹のお願いを断れる兄なんてこの世にはいません。
「本当ですか!?」
「あぁ、本当だ。ただし、ちゃんと給料は払うぞ」
「え、でも――」
「勘違いしないでくれ、給料をもらうってことはその仕事に責任を持つってことだ。東堂さんにちゃんとした仕事を要求する為に俺達は給料を払う、君はその給料に見合った働きをしなければならないんだ」
どっかのマンガで読んだようなセリフを言い、ニヒルに微笑む。
ちょっとカッコ良すぎたかな。
「はい! 頑張ります!」
俺のそんな言葉に東堂さんは元気よく返事を返してきた。
しかし妹よ「2年前までヒキニートが何を言ってんだ」とか言わないでくれ。
カッコつけたのがすごくカッコ悪いじゃないか。
そんな時――
ガラッ
と音を立てて部屋の奥に開いた穴のその先、校庭に積まれた瓦礫の山が動いた。
読者の皆さんの好きな必殺技ってどんなのがあるんでしょうかね。
私――気になります!




