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選択肢は"はい"か"死"だけです

あとがきに登場人物紹介乗せてみました

 〈師里レイ〉


「だ、大丈夫かな?」


「大丈夫よ。すぐに警察が来るって」


「そうじゃなくて、岩神くんの方よ」


「あぁ、1人だけ残ってるもんね………でもあの人はAランクの能力者(ウェイカー)でしょ。心配いらないって」


 周囲ではそんな会話が交わされるここは杜宮高校の校門前だ。

 時刻は昼前。

 普段なら教室で授業を受けている時間なのだが、学外のこの場にほぼ全校生徒が揃っている。

 なぜか?

 それは簡単。

 学校に不審者が侵入したからだ。

 そいつはそのまま生徒1人を人質にとり、学校を占拠。

 自分達以外を学校外へと追い出してしまった。

 一応、先程先生達から臨時休校にすると言われたが、その指示に従って帰ったのは半分もいるかどうか。

 結構な数の生徒がこの校門前でたむろし、この非日常な事態をどこか楽しんでいた。

 不謹慎、とは思うが彼らの気持ちもわからなくもない。


 人質に取られたのがAランクの能力者(ウェイカー)である転校生という情報が出回れば、誰だって安堵する。

 自分達とは異なる能力者という存在、その中でも強力な力を持つ者が人質なのだ。

 そんなものを人質に選んでしまった犯人を、哀れんだり馬鹿にしたりする者まで所々見受けられる。

 だから楽しんでしまう気持ちもわからなくもない。


 ただ私達………私とヒトミは犯人に心当たりがあった。

 だから周りの人達の様にこの事態を楽観することができないでいる。


「ねぇヒトミ」


「なに?」


 人混みから少し離れ、念のため声も抑えて隣のヒトミに語りかける。


「あの人って昨日の人だよね?」


「えぇ、岩神君を追ってきたっていう坂上(ばんじょう)という脱獄囚でしたね」


「見間違いじゃないか〜」


 となるとやっぱり………


「今回のって目的は岩神君なのかな?」


 思い返せば、最初から狙いは彼だけに絞った動きだった気がするし。

 岩神くんの心配をしつつ、私は先程の出来事を思い出していた。



 ☆★☆



 それはなんの前触れもなくやってきた。

 直前まで昨日と変わらない朝だったはずなのに。


 その日も教室ではいつも通りSHRが慌ただしく終わり、すぐさま始まった1限目の古典の強烈な眠気になんとか抗い、そうして意識を繋いだ2時限目。

 授業も半ば過ぎ、日本史の井宮の徳川吉宗トークが最大に盛り上がったその時だった。


「こ〜んちわ〜」


 どこか馬鹿にしたような軽い調子の言葉とともに、唐突に教室前方の扉が開いた。

 そこから薄汚れた身なりの、どこか野良犬を思わせる男が扉をくぐり現れる。


「誰だね君は? 授業中になんの用だ!?」


 その男の登場に教室中の視線が集まるのと、井宮先生が授業のテンションそのままに男に向かって声を荒げたのはほぼ同時。

 そして男の姿を確認すると同時に体が固まったのは私とヒトミ。


「……センセーか? アンタ」


「そうだが、君は一体何なんだ?」


 そこに至り、井宮先生も目の前の人物の異様さに気づいたらしい。

 先程の威勢は消え、訝しむような調子で問いかける。


「そうかそうか……俺は先公嫌いなんだよなぁ!」


 突然声を荒げた男が右手を横薙ぎに振るう。

 そこで初めて、男が手に何か持っていることに気付く。

 広義で言うとハンマーに含まれるんだったか、持ち手から伸びた鎖の先にはソフトボール程の鉄球がついている武器。

 昨日見た鉄球をかなり小さくしたサイズだが――普通の人に向かって振るわれればただで済むことが無いことは明白。

 明らかに殺意を持って振るわれたそれ。

 しかしあまりにも非日常なことの連続で、生徒どころか真正面に立つ井宮先生ですら反応できない。

 私も腰をわずかに浮かせることしかできなかった。

 次の瞬間には井宮先生の頭が無惨に潰されてしまう。

 誰もがそう思い、その瞬間から目を逸らすように目を閉じる。

 どこかで女子の誰かが甲高い悲鳴を上げるのが聞こえた。


 だが――


 バグンッ


 人が潰れるような音ではなく、硬いもの同士がぶつかり合った音が教室に響いた。


 目を開けて教壇を見ると黒板の中央にめり込んだ鉄球。

 それと、井宮先生と共に床に伏せた岩神君の姿があった。


 気付かないほどの早業で岩神君が井宮先生を床に伏せさせ、救ってくれたんだろう。

 ホッと一息をつく。


「よぉ、岩神。お前を探してこんなとこまで来ちゃったぜ」


「……こんな昼間に学校にまで来るとは思わなかったよ、昨日の今日で。しかも一般人を狙うなんて」


「なんだよ、ただの冗談だっての。そのおっさんがトロくさかったら死んでたかも知んねーけどよ」


 片方は見上げ、もう片方は見下ろしたまま言葉を交わす。

 井宮先生は救えたけれど、2人の会話で事態は依然として悪いままだということに気付かされる。


「まぁ安心しろや。馬鹿なテロリストみたいにこの学校中の奴ら皆殺しにしようなんて気はねーからよ」


「へぇ、それじゃこのまま帰ってもいいのかな?」


「当然お前はダメだ。だけどまぁ、他の奴らはどうでもいいからとっとと逃げていいぜ」


 男が教室の他の生徒に向かって言い放つ。

 が、あまりにも目まぐるしく変わる状況についていけず、生徒たちは誰も動こうとしない。


「んだよ、逃げていいっていってんのに逃げねーのか? なら――」


 男は再びハンマーを振るい、今度は教卓へと鉄球を振り降ろした。


 バギャギャッ


 と木の天板とスチールの骨組が軋みを上げて圧壊する。

 あまりの轟音で異変に気付いたのか、隣の教室からも授業の声がやんだのがわかる。


 そうして静まり返った教室の中


「で、ここにいるとこんな風になっちまうけど逃げなくていいのか?」


 狂気に満ちた瞳で男が私達へと告げた。

 次の瞬間、ガタガタガタッと一斉に席を立ち、出口へと殺到するクラスメイト。

 最初は誰かわからない。

 だが、誰かが立った瞬間に皆弾かれたように逃げ出した。

 恐怖からかガラスが震えるほどの大音量で悲鳴が学校中に響く。


「ハハハッ! 逃げろ逃げろ!」


 その様子を見た男は狂ったように笑い声をあげる。


「あぁ、廊下にここまで案内させた用務員が転がってっから誰か連れてってやれよな」


 それと同時に、廊下に一番先に出た女子が一際大きな悲鳴を上げる。


「"少し"痛めつけたから1人じゃ歩けねーはずだ。助け合いって大事だよな~、そういうのも学校で教えてくれんだろ? ハハハッ!

 ……ん? なんでテメーらは逃げねーんだ?」


 笑っていた男の視線が、教室に残っていた私とヒトミを捉えた。

 何で残ったのか。

 別に何か思う所があって残ったわけではない。

 ここで岩神君を置いて行ってしまってもいいものかどうか迷ってるうちに流れに乗り遅れたってだけだ。

 でも、残ったからには戦った方が良いのかな?

 あんまり自身は無いけど、一応私も能力者(ウェイカー)だし。


「お前には魔力をわずかに感じるな、能力者(ウェイカー)か。なんだ、俺と戦うか?」


 男の視線が私1人に絞られる。


「私は……」


 私がそれに対してどう答えようか迷いつつ、とりあえず口を開くと、視界の端に岩神君が見えた。

 彼は地に伏せたままの状態で僅かに首を横に振る。

 一般的に言ってその仕草が示すことは――


「いや、ただ逃げ遅れちゃって」


「ならとっとと行け。あぁ、他の奴らに学校の中には誰も残るなって伝えろ」


「……わかりました。いこ、ヒトミ」


 ヒトミと連れ立ち、足早に出口へと向かう。

 教室を出る際、チラッと教室を振り返る。

 残っていたのは依然として伏せたままの岩神君と男だけ。

 だが、その時に見えた岩神君の表情に悲壮感や諦めは無くなんというか"上手くいった"という不敵な表情に見えた。



 ☆★☆



 その後、廊下に打ち捨てられていた用務員のおじさんを連れ、他の先生方にもこの事態を伝えこの場に避難してきたというわけだ。


「岩神君、大丈夫かな?」


「あの男の目的が岩神君への復讐、と言うことならまだ大丈夫じゃないかしら」


 呟いた言葉に隣りのヒトミが答える。


「どういうこと?」


「復讐って言うならやはりジワジワ痛めつけてから殺すものでしょ」


「……別の意味で大丈夫じゃないね、それは」


 だが、私達に出来ることは何もない。

 既に誰か警察は呼んだみたいだし、あとは警察に任せる他無い。


 そのはずだった。


「ねぇ」


 ガシッといきなり後ろから肩を掴まれる。


「ウワッ!?」


 驚きとともに思わず飛び上がって振り返る。

 そこには――


「あ、昨日のメイドさん!」


「確かサトネさん、でしたか」


 岩神君にぴったり張り付いていたメイドさんがそこにいた。

 驚く私の様子など気にも留めず、サトネさんは私達に問いかける。


「坊ちゃんが坂上に人質に取られているというのは本当?」


「……はい、残念ですけど」


「そう……」


 一度大きく天を仰ぐサトネさん。

 その視線が天から私へと移動する。

 同時に私の肩を掴んだ手に一層力が込められた。


「師里レイ」


「な、なんでしょう? ていうか肩が痛いんですけど……」


「サトネに協力してください」


「え?」




「選択肢は"はい"か"死"だけです。時間が無いので5秒で決めてください」




 向けられた瞳に宿る光は、完全に本気だった。

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(次回更新は土曜日か月曜日です)


新登場人物説明(今章の初登場人物)


岩神タツヤ:レイの1つ前の席のクラスメイト。Aランク能力者(ウェイカー)

サトネ:岩神の契約特災。メイドさん。

坂上(ばんじょう):岩神に恨みを持つ脱獄囚。

陸中リク:特殊安全警察局局長。SSランク能力者(ウェイカー)。政府の最大戦力。


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