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儂とお主はペアじゃ、バディじゃ、相棒じゃ

投稿がひと月ほど滞ってしまい申し訳ありませんでした。

これからは投稿再開です。

<師里アキラ>



「『話はついた、今日は直帰する』っと」


 手の中でスマホを弄り、スズに対してメールを送信した。


「あぁ~疲れた」


 すっかり暗くなった夜道を歩きながら伸びをする。


「……クソッ、やっぱ陸中くがなかの奴も気づいてるか」


 愚痴ると共に少し前のことを思い返す。



 ☆★☆



「無事だなお前ら……なら、コイツの事はいいからお前ら事務所に行ってろ」


 振り返らずに背後のレイやタツヤに告げる。

 視線は前の陸中くがなかへと向けたままだ。


「は? なんでアンタにーー」


「師里さん、いいからアキラさんの言うことを聞いておこう! アキラさん、お願いします」


「……おう、とっとと行け」


 レイの奴は今が危ない状況だったということに気付いていなかったようで、反論しかけるがそれをタツヤが抑えた。

 コイツ最近スズに鍛えてもらっているようだが、まだまだみたいだ。

 しかし、タツヤの方は流石にいくつもの修羅場を潜ってきた経験からか、現状を正確に把握している。

 レイとヒトミちゃん、ついでに暴力メイドを連れて素早く廃ビルの外へと出ていく。

 彼らの気配が消えてからゆっくりと目の前の男に向けて口を開く。


「よう、待たせたな」


「別に待ってなどいないが……お前はどうしてここにいるんですか師里アキラ?」


「電話があってな――お前が来てるって聞いて、旧友と話してたのを切り上げてきたんだぜ?」


 委員長――美浦先生から色々と聞きとりをされている最中にかかってきたスズからの電話。

 その電話でレイやタツヤに危機が迫っていると知った俺は、話を切り上げてすぐにレイの元へと向かったわけだ。

 聞いていた情報とは違ったが、その聞いていたことよりも危険な存在がいたのだから急いできたのは正解だっただろう。


「で、なんで俺の妹殺そうとしやがったんだ? 返答によってはタダじゃ済まさねーぞ」


 ギリッと握った手に力を込め、低い声音で陸中へと問いかける。


「なんで? そんな疑問が起きる方がおかしいだろう」


 チラッと力が込められた俺の手に視線を落とし、しかしすぐに大したことなど無いかのようにすぐ俺へと視線を戻す。


「確かにアイツの魔力量は多いが……」



「違うだろ、そうじゃない」



 俺の言葉を陸中が遮り否定する。


「いつまで目を逸らすつもりだ? とっくに気づいているのだろう、直に戦ったお前が一番わかっているはずだ」


「……やめろ」


 続く言葉は俺が必死に目を逸らし、蓋をし続けてきた事実に容赦なく爪を突き立て露わにしていく。


「師里レイの超能力(レヴァリー)があの"魔王"と同じ物だという事に」


「やめろ」


「いいや、やめない。師里アキラ、お前は私が尊敬する数少ない人間だ、あまり私を失望させないでくれ。……身内だからと悪を見逃すようなことは……」


「やめろっ!」


 陸中の手を掴んでいるのとは反対の手を拳に変え、思い切り振り抜く。

 激情のままに繰り出した拳故に、なんの手加減も出来ない。

 黄金色のオーラを纏った拳が陸中の腹へと吸い込まれる。


 ズンッ


 と鈍い衝撃が廃ビルを揺らした。


「感情のままに拳を振るうか、落ちたものだな」


 しかし俺の拳は陸中の腹を穿つことはなく、どことなく柔らかな、けれども明確な硬さを持つものに動きを止められる。

 片手は俺に、もう1つの手には弓で塞がれていた陸中は片足を上げ、驚異的なバランス感覚でもって足裏で俺の攻撃を防いでいた。


「……師里アキラ、私が特安の局長になった時一番最初にしたことは何だと思う?」


 夜の帳が落ち、いつの間にか真っ暗になった廃ビルの中、複雑に組み合い硬直状態になったままで陸中が至近距離の俺にそんなことを訊いてきた。


「なんだそりゃ? この場で訊くことかよ」


 いきなりの質問の意図がわからず問い直す。

 が、それに構わずに陸中は言葉を続ける。

 視線は俺を向いているのに、まるで俺のことなど眼中にないかのように。


「勇者の正体を調べたんだ。突然の魔族の襲来、それを撃退したものがどのような人間だったのか、私は興味があった。悪に負けない強さに憧れていた、知りたいと思った。

 だから特安の局長になった、特安の局長ならば特秘であるその情報が開示されると知っていたからだ。

 そうして、直にお前と会うことも出来た」


「……だからなんだよ」


「それ程までに憧れた存在が、この体たらく。見るに堪えないんだよ。

 身内の情に流されるな、師里アキラ。お前は師里レイが敵に回った場合どれほどの被害が出るかわかっているのか?

 第二の魔王だ、下手をしたらあの時と同じことになる」


 脳裏によみがえるのはあの地獄の日々。

 二度と思い出したくない、繰り返したくない日々の記憶。

 だが、それを思い返したことで冷水を浴びせられたかのように頭がサッと冷えた。


「そんなことにはならねぇ」


 俺は陸中の目をまっすぐに見つめ返し、静かに断言する。


「なぜそう言える! 断言できる要素などどこにもない!」


 反対に、今まで声を荒げてこなかった陸中が表情は笑顔で変えぬまま、声が大きく廃ビルに響く。

 俺はその目の中に僅かな"怯え"を見た。


 あぁ、そうか。

 俺はこいつの肩書ややってきた事にしか目を向けていなかった。

 それが俺の目を曇らせていたのか。


 こいつはただ、怖かっただけなんだ。


 あの地獄が戻ってくることが。


「いいや断言できるね――断言してやるよ」


「……なに?」


 それがわかったからこそ、俺は自信を持って断言する。


「俺が止める」


「全盛期の力を持っていない今のお前が? 出来ると思っているのか」


「出来る、出来ないじゃねーんだよ。アイツがもしもそうなったんならそれを止めるのは兄貴である俺の仕事だ、他の誰にも譲らねぇ。

 そもそも本当に魔王と同じくらいになるなら、俺以外に対抗できるわけがないだろ。

 ――大丈夫だ俺に任せろ。信じてくれ」


 陸中の目をまっすぐ見つめ、そう告げる。


 数秒、互いの視線がぶつかったまま静寂が空気を止める。


「――甘いな」


 暫くして口を開いた陸中の口からそんな言葉が漏れる。


「……」


「だが、元勇者のお前がそこまで言うのなら一度だけ見逃そう」


「そっか、ありがとよ」


 空気が弛緩し、どちらともなく手足を下ろす。


「忘れるなよ、一度だけだ。もしも何らかの兆候があればすぐに報告しろ」


 陸中は弓を肩にかけ、俺に捕まれていた手首の具合を確かめつつ俺にそう告げてくる。


「ヘイヘイ」


「ならば用はない」


 クルリと背を向け出口へと向かう陸中。

 その背に声を投げかける。


「……お前はこれからどうするんだよ?」


「お前には関係ない――が、邪魔をされても困るから教えておく。岩神タツヤを狙っている脱獄囚を駆除するまではこの街にいるつもりだ」


「邪魔なんてしねーよ別に、俺には関係ないし」


「……岩神タツヤはお前の弟分なのではないのか」


「だったら尚更邪魔する理由は無いだろ。あいつを狙ってくる奴を倒してくれるっていうならさ」


 これは本心だ。

 陸中リクを敵に回すのだ、その脱獄囚とやらが排除されるのも時間の問題だろう。


「そうか、懸念材料が一つ消えて嬉しい限りだ」


「そりゃどーも」


「……師里アキラ、自分の言葉には責任を持てよ」


 小さくそう告げながら、別れも言わずに陸中は廃ビルを出ていった。

 あいつに別れを言われるってのも想像できないことだけどさ。


「はぁ、俺も帰るか」


 事務所に行く気にもなれず、1人呟きながら廃ビルを出て家路についた。



 ☆★☆



 それで今に至る。

 一応レイについては俺に任せて貰えたんだと思う。

 でも"魔王"と同じ超能力(レヴァリー)か。

 考えないようにしていたことだが、遂に指摘されてしまった。


 "魔王化"。


 そんなことがあるのかどうか、俺にはわからない。

 レイの性格がこれから先、変容して世界を恨むようになればあり得るのかもしれない。

 それとも強大な超能力(レヴァリー)に引っ張られて思考や人格が変化してしまう?

 魔族の魔王と同じではなくても、力を使って暴虐の限りを尽くすようになればそれも魔王だろう。

 陸中が言うとおりにその可能性が無いとは言い切れない。


 だが、それはさせない。

 俺が一番近くで防いでみせる。

 レイに寄り添い、真っ当に真っ直ぐ育てて見せる。


 しかし、それに失敗してしまったら――


 拳を胸の前に持ってきて、それを見下ろす。

 多くの敵を屠ってきた手だ。

 この手で俺はレイを殺せるのだろうか……わからない。

 自分の手でただ1人の家族を殺す。

 考えたくもない最悪の状況だ。


 ――やめよう。


 夜空を見上げる。

 星がぽつぽつと煌めく。

 そんな星々を見上げながら気持ちを切り変える。


 こんなこと今考えたって仕方がない。

 そんな最悪な状況にしないために俺がそばにいるんだから。


 チャーチャーチャチャー チャチャチャーチャチャー


 その時、ポケットに仕舞い込んだスマホがアニソンのメロディーを奏でた。


「ん、誰だ――スズ?」


 ディスプレイに映ったのは事務所にいるはずの相棒の名前。


「はい、もしもし?」


『所長。大丈夫か?』


 電話口からは、ちょっと落ち着きが無いスズの声が聞こえてきた。


「え、なんだよ大丈夫って――あぁ、陸中とは別になんでもなかったよ、ちょっと話しただけ。それよかレイたちは大丈夫か?」


『奴らはまだ事務所におるよ、お主が帰ったらレイを送っていくとしよう。じゃが別にそんなことはどうでもいいわい。儂が心配しておるのはお主の事じゃ』


「いや、だから別にケガもしてねーし大丈夫だって」


『そうじゃないわい!』


 大きめの声が耳朶を打つ。


「な、なんだよ」


『お主が事務所にもよらずに帰るなんてこと、殆ど無かったじゃろ。何かあったはずじゃ、儂に話せ』


 こいつ、あのメールだけで俺のことを察してくれたのかよ。

 全く、出来た相棒だ。


『儂とお主はペアじゃ、バディじゃ、相棒じゃ。何か悩みがあるなら儂に相談しろ、何か困ったことがあれば2人で解決しよう。隠されることが、頼ってもらえないことが儂には一番悲しいのじゃ』


 その言葉に、陸中と会ってから凍っていた心が解けるような気がした。


「ハハッ」


『ど、どうしたのじゃ?』


「いや、悪い。何でもないよ」


 思わず笑い声がこぼれる。

 そうだよな、俺は1人じゃないんだもんな。


「――すこし、長くなるかもしれないぞ?」


『大丈夫じゃ、任せろ』


 俺はスマートフォンを構えたまま夜道を歩く。

 耳には小気味のいいスズの声が響き、俺の抱えていた不安を減らしていってくれる。


 廃ビルを出た時よりも、ずっと足取りは軽くなっていた。

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次回は水曜日~木曜日に更新予定です

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