特安を潰すわ
<師里レイ>
「そんなことになっておったのか、大変じゃったの」
『B&Bトラブルバスターズ』の事務所内で一通りの出来事を聞いたスズさんが同情の声をかけてくる。
「大変ってほどではなかったです、予想外なことが起きてたってだけで」
実際、アイツが来た後『コイツの事はいいからお前ら事務所に行ってろ』と言われてあの廃ビルから追い出されたからここにいるわけだし。
「でも陸中リクが握手を求めてきたのじゃろ?」
「ええ、まぁ」
「ならお前、殺されかけていたわけじゃな」
「は?」
当然といったように告げられた言葉に間抜けな声が漏れる。
殺されかけていたって、私が?
なんで?
ただの握手だよ?
あまりのことに頭に疑問符が浮き上がりまくる。
「なんじゃ気づいておらんかったのか。少しは成長したかと思ったが自分を殺そうとする奴の殺気を察せぬようでは、まだまだじゃの」
「うぐっ! で、でも本当に握手だったのかも……」
「ド阿呆。あの陸中リクに握手を求めるようなコミュニケーション能力があるわけ無いじゃろ。人を『殺していい人間』と『まだ殺せない人間』の2つしかないと考えている奴じゃぞ。奴の見た目に騙されるな、アレは人の皮を被った化物だと思っておけ」
「そ、そんな危ない人なんですか? ……でも、それが本当だったとしても理由がありませんよ!」
「理由ならあるじゃろ」
「え?」
私は法に反するようなことした覚えないよ!?
清廉潔白……とまでは言うつもりは無いけど、命を狙われるほどの罪犯してなんかない、絶対!
「何を惚けた顔しておるんじゃ……タツ坊、お主は薄々感づいておるのではないか?」
驚いている私から視線を外し、スズさんは来客用のソファーに並んで座っていた岩神君とサトネさんに目を向ける。
「……えぇ、師里さんがSSSランクだからですね?」
「ふむ、やっぱりレイの魔力が気付かれておったか」
「最初は気付きませんでしたよ、魔力も多いとは言ってもSランクからSSランク並でしたし。気づいたのは陸中さんが師里さんを狙ったと気付いた時でした」
「え、どうしてそこで気付いたの?」
岩神君に正体がばれていたのは薄々わかっていたから改めて驚かないけど、気づいたタイミングがわからない。
狙われたこととSSSランクに何か関係があるの?
「簡単な事だよ。あの陸中さんが何もしていない人を狙うってことは、『存在しているだけで悪』だと認定したってことなんだから。そんな存在、特災か規格外のSSSランク以外あり得ない」
「存在しているだけで悪? 私が?」
「SSSランクの魔力に『強化支援』と言う超能力、これらが持つ潜在的な脅威を奴は大層高く見たということじゃ――『師里レイ』と言う個人の評価は別にしてな」
「僕が迂闊でした。アキラさんが来てくれてなかったらどうなっていたことか……」
「気にする必要はない。儂らもそういう動きがあることは予想しておったが、まさかこんなに早く陸中が直接来るとは思っておらなかったからな。ヒトミの連絡で陸中がこの街にいることを教えて貰って助かった。じゃがまぁ、あとは所長に任せておけばよいじゃろう」
「……アイツに任せて大丈夫なんですか?」
この数か月アイツのことを見てきたけど、そんなヤバい人をどうにかできるとは思えないんだけど。
「お前はもう少し兄のことを信じてやっても良いと思うんじゃがな……たぶん大丈夫じゃろ、所長は人脈はあるし。でも次に会ったときは十分に注意するのじゃぞ、アイツを同じ人間だと思うな」
あぁ、喜多川寺博士や写楽さんとも知り合いだし、力で敵わないけど権力でって奴なのかな?
どんな人でも警察だっていうなら命令には従わなければならないはずだし。
「はぁ……あ、そう言えばアヤさんはどうしましょう。陸中の狙いが岩神君を狙った脱獄犯の人だったり私だったりしたなら逃げる必要ないですよね?」
何とか納得したが、同時に新たな疑問が生まれた。
「あぁ、アヤのことがあったのう。じゃがどうしようもないわい、アイツが自分で出てくるのを待つしか」
「連絡してあげないんですか?」
「連絡しようにも奴は携帯電話を持っとらん。そしてそれ以外の方法でも連絡を取ることは出来んじゃろう。逃げたアヤを捕まえたり、隠れたアヤを見つけることはどうにか出来るが、"逃げて隠れた"アヤを見つけて捕まえるのは不可能じゃしな」
「それ程なんですか」
「それにアヤが追われておるのも事実じゃ。アヤ自身の安全のためにも陸中が街にいる間は身を潜めておいた方が良かろう」
「……ホント、何したんですかあの人」
「戻ってきたら自分で聞いてみるんじゃな、素直に話すかはわからんが。なに、悪事には手を染めておらんはずじゃよ」
「そうなんですかね~」
アヤさんは不可解なところが多すぎるからな~。
未だに何をしてる人かもわからないし。
「で、こっちの件は所長に丸投げするとしてお主らの方じゃな」
再び岩神君たちに視線を向けるスズさん。
「どうする、その坂上とかいう男を捕まえるの手伝ってやろうか?」
「いえ、スズさんたちの手を煩わせるほどの事じゃありませんよ。陸中さんが追っていることも分かっただろうし、もうこの街から逃げ出してしまったかもしれません」
「……あまり楽観するのも良くないと思うんじゃが。それでなくともお前は特災に甘いところがあるからな」
「大丈夫、十分気を付けますよ」
「タツ坊も独り立ちしたからあまり五月蠅くは言いたくないが、情けと甘さは違うぞ」
「……はい」
「わかっておれば良い。……あと、お前の横でずっと怨嗟の声を漏らしておるメイドを早う何とかしてくれ」
そう言ってスズさんが目を向ける先には虚ろな目をして「陸中リク コロス 陸中リク コロス」とエンドレスに呟くサトネさん。
いや~、ようやく言ってくれたよ流石スズさん。
廃ビルからずっとこの様子だったけど、怖くて怖くて誰も触れてなかったのに。
「すいません、こうなったら時間が経つ以外なくて」
「……なら仕方がないか」
申し訳なさそうに答える岩神君。
その様子にスズさんも何も言えなくなったのか、口を噤んだ。
「まぁ、十分注意はしとくのじゃぞ」
「心配しすぎですって、また坂上が現れるとしてもしばらく時間が経ってからですよ」
その沈黙を破るように再び告げられた忠告を岩神君は軽い調子で受け流す。
しかし、その言葉にどことなく嫌な予感がふとよぎった。
☆★☆
<???>
「全く、一体どこのバカの仕業なのかしら?」
杜宮高校の職員室で1人の女性が苛立たしげに言葉を吐き捨てる。
幼い顔立ちに丸眼鏡を掛けた女性は、その顔に似合わない大人びた恨みの表情を浮かべる。
しかし、それを咎める人はいない。
広い部屋の中には彼女だけしかいないからである。
彼女は平然としているがしかし、この状況は異様だ。
放課後とはいっても、学校の職員室がたった1人だけになるという事は無い。
いつも何かあった場合に備えて数人が常駐しているのが普通だ。
ではなぜこんなことになっているのか?
答えは簡単。
彼女が自身の異能の力を使い、本来いるべきはずの人々を排除したからだ。
排除された人々はそのことを疑問に思わず、早めの帰路についたり、他の場所で仕事に勤しんでいる。
その空っぽの職員室に1羽の真っ青な蝶が舞入って来た。
その蝶は真っ直ぐに女性の元へと向かい、そのまま溶けるようにして頭の中へと消えた。
「……へ~、なるほど。脱獄囚に特安の局長ね」
しばらく目を瞑り、蝶が見てきた光景と音を頭の中で追体験した彼女。
目を開くと同時に、表情とは裏腹に楽しげな声を漏らす。
「ムゥ」
「はい、ここに」
不意に表情を消して名前を呼ぶ。
その呼び声に1つの影が生まれる。
青いタキシードにパピヨンマスクをつけた男がどこからともなく現れた。
「御用で?」
「うん、ジュンが起きたら特安を潰すわ」
素晴らしい笑顔でそんなことを言う。
「私と師里くんの時間を奪って……絶対に許さない」
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(次回は火曜日~水曜日に更新予定です)




