『妹のおねがい』が絡めば意見なんか180度変わるんだよ
投稿遅くなってしまって申し訳ありません
<教室>
唐突に現れた男によって占拠された杜宮高校。
普段ならば1000人を超す生徒がいるその学校内には今、たった2つの人影しかない。
彼らは学校内のとある教室にいた。
そこは普段、師里レイや東堂ヒトミたちが授業を受けている2年4組の教室。
あの騒ぎの後も彼らは場所を移動せず、そのままそこに留まっていた。
しかし、教室内部は普段とは全く違った様相を呈している。
普段はきちっと列で並べられている机やイスは生徒たちが逃げ出す時にめちゃくちゃに動かし、倒していったままだし、黒板は中央の陥没した個所を中心に蜘蛛の巣状にひび割れている。
何より、教室の前半部分にちょっとしたスペースが空いていた。
そこにあった机たちは薙ぎ払われ、教室の隅に吹き飛ばされている。
そうして作られたスペースに、彼らはいた。
だが、2人の様子は対照的だ。
「良い様だな。なぁ、岩神」
そう馬鹿にした声を発するのは野良犬の様な印象の、ぼろ衣を纏った男。
突如としてこの学校に現れた脱獄囚、坂上。
彼は右手にハンマー投げで使われるような、鎖つきの鉄球を持ったままもう1人を見下ろす。
そう、見下ろす。
もう1人の男は椅子に座らされ、その姿勢のまま四肢を縛り付けられていた。
身動きのできないその体には、暴力を受けた痕跡が見て取れる。
身に着けている制服は汚れ、ところどころ破けてしまっているし、頭部からは流れた血が頬を伝いぽたぽたと床に落ちている。
「……」
彼――岩神タツヤ――は男の声に言葉を返す力もないのか、項垂れたまま顔をあげない。
「チッ」
そんなタツヤの様子にイラだったのか、男はガッとタツヤの髪を掴み強引に上を向かせる。
僅かにウッと呻きながらも上げられた顔も悲惨なものだった。
唇が切れ、鼻血が出ているのなどは当然。
左頬は赤く腫れ上がり、右目の上には裂傷が出来て膨れ、目が半分も開けない状況だ。
しかし、それでも。
それでも彼の左目には強い意志を放つ。
「まだまだ元気そうだ、なっ!」
語尾を強めるのと同時にタツヤの顔に膝を叩きこむ坂上。
四肢を拘束されたままでは踏ん張ることも出来ず、跳ね上がるタツヤの頭部。
しかし勢いはそれだけでは殺せず、イスごと真後ろに倒れ込んだ。
教室に派手な音が空しく響く。
こんな暴力を十数分間タツヤは受け続けてきた。
だが――
「……君は、今、楽しいかい?」
いくら暴力を受けようと、タツヤの口からは恨み言や悪態などは一切出なかった。
代わりに出るのはよくわからない問いかけばかり。
「うぜぇんだよ!」
「グッ、好きな、食べ物って何かな?」
「お前の悲鳴だよ!」
「……遊園地とか、行ったこと、あるかな?」
「……」
最初の内は答えていた坂上も、仕舞には無言で暴力を振るい続ける。
度重なる暴力で狂ったのか、それとも油断させるための演技なのか。
この行為の目的が見えず、坂上の心に不気味な影が落ちる。
それを振り払うかのように一層苛烈さを増す暴力。
しかし、それでも――
「……ねぇ」
「うっせぇ!」
タツヤの言葉は止まない。
幾度も拳で打たれ、床に叩きつけられたことで口を開くだけでも激痛が奔るだろうに、口を閉じる事だけはしない。
答えの返ってこない問いかけを放ち続ける。
「君は――」
「岩神、それは一体何のつもりなんだ? あぁ゛?」
言葉の途中で坂上がタツヤの襟首をつかみ上げたことで息がつまり、激しく咳き込む。
「ゴホッ ゴホッ」
「お前、狂ったふりしてれば俺が見逃すとでもそう思ってんのか? そんな甘くねーぞ俺は。
それとも時間稼ぎか、こうしてれば誰かが助けに来てくれるってそう思ってんのかよ?」
「……」
「確かに誰か来るかもな、だが来たとしても手遅れだ。その瞬間に俺はお前を殺す。ここには俺とお前の2人だけだ、お前が死ぬ最後の瞬間までな」
「――違う」
「あ?」
その時、この十数分間で初めて2人の男の会話がかみ合った。
「違うって何だ? 何が違うってんだよお前」
「……ここには、僕とお前だけじゃ、ない」
「ハァ? ついに幻覚でも見はじめたのかよ」
馬鹿にしたような坂上の瞳、それに晒されながらもタツヤは笑顔を作った。
痛みに耐え、傷だらけの顔に満開の笑顔を咲かせる。
「そうだ、自己紹介、まだだったね、僕は岩神タツヤ、君の、名前を教えてくれるかい?」
「何を見てんだよテメーは、ここには俺とお前だけだって言ってんだろうが!」
坂上の右手が振るわれる。
目の前の少年の不気味さに負け、鉄球でその頭蓋を叩き潰そうと力を込める。
だが――
「グッ、なんだいきなり重く――!?」
先程まで軽々と振るっていた鉄球が突如、信じられないほどの重量を持って床へと落ちた。
ズンッ
と床へとめり込み微動だにしなくなる鉄球。
そして
「――――タマ」
教室にタツヤでも坂上でもなく、3つ目の声が響いた。
☆★☆
<陸中リク>
「やはり動いたか」
杜宮高校から数百メートル離れた小さなビルの屋上。
そこから杜宮高校の様子を窺いつつ呟く。
常人には何も見えなくとも、遮蔽物さえなければ私に見えない距離ではない。ここから狙撃することだって可能。
むしろそのために予め調査しておいたポイントだ。
だが想定よりも早い。
岩神タツヤに執着していたようだから来るとは思っていたが、まさか今日とは思っていなかった。
少し出遅れてしまったことは確か。
情報が私の元に届いてから数分も経たずにここまで来たが、事態は思ったより進行している。
岩神タツヤは捕まり、学校の一室で危害を加えられている状況だ。
一般生徒たちの避難が完了していることは不幸中の幸いか。
まぁ、そんなことは私には関係ないが。
私の仕事はゴミを迅速に駆除することだ。
愛弓を背負ったバッグから取り出し、構え、集中し弦を引く。
矢はいらない、私の能力が矢の代わりに飛んでいく。
そのまま、杜宮高校へと焦点を合わせ――
「ん? あれは――」
その時、杜宮高校の校庭を走る異様な2つの影を見つけた。
「……私には関係ないか」
奴らが何をしようと私には関係ない。
私の仕事を粛々と冷静に行えば――
ビュオッ
その思考は唐突に吹いた疾風と、それと共に突如現れた背後の気配で打ち切られる。
「……おかしいな、お前は昨日『邪魔をしない』と言ったはずなんだがな」
構えていた弓をおろし、背後を振り返る。
「悪いな、状況って時間とともに変わるもんなんだ」
そこにいたのは細身の黒スーツを着て、真っ赤なネクタイを締めた男。
「特に『妹のおねがい』が絡めば意見なんか180度変わるんだよ。お前、妹いないからわかんないだろうけどな」
元勇者、師里アキラがそこにいた。
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(次回更新は木曜日か土曜日の予定です)




