お主ら、しくじるなよ!
お待たせしました、何とかプライベートも落ち着きました。
しばらくは時間が取れるようになりました。
「ゼァッ!」
烈迫の気合を上げて俺は手に持った剣を振るう。
ギィィィン
しかしそれは不快な金属音と共に阻まれる。
阻んだのは漆黒の鎌。
その拍子に金色の粒子が剣から溢れる。
「ククク、すこしは"らしく"なってきたな!」
鎌の向こう側から楽しそうな、それでいて残忍な笑顔を覗かせたドラキュラ伯爵が声を掛けてくるがそれに反応する余裕などない。
「クッ……『勇者九斬閃』!」
防がれた剣を手元に戻し、間髪入れずに九つの斬撃をほぼ同時に叩き込む。
ガキの頃に週刊誌で読んでいたマンガの中の技。
勇者時代に死ぬほど練習して再現し身に着けた、回避不能の神速の剣技。
金色の刀身が夜闇を切り裂き奔る。
けれども――
ギギギギギギギギギィ
その全てがドラキュラ伯爵の持つ大鎌によってまたも阻まれる。
伯爵は巨大な鎌を巧みに操り、刃だけでなく柄や柄尻でも俺の攻撃を防いでいた。
「面白い技だ、ではお返しと行こう」
言うや否や、目にもとまらぬ速さで蛇のように滑らかな軌道を描いた鎌が俺の首めがけて襲い掛かってくる。
この鎌は相手の防御を無視する凶悪な武装。
普通なら避けるしかないが――
キィン
しかし、俺は避けずに剣を盾代わりにして受け止める。
剣と鎌が触れた瞬間、涼やかな音と共に金色の波紋が両者の間に生まれ、鎌は俺の構えた剣によって防がれた。
「防いだ……いや『霧化』を破壊したか」
「よくわかったな」
伯爵の言う通り、俺が行ったのは『霧化』の破壊。
武器が行った霧へと変化の魔力を勇者光で分解し破壊したのだ。
そのため武器が変化を強制的に解除され、受け止めることが出来るようになった。
「三年前にも何度となく見ていれば嫌でもわかる!」
鍔迫り合いながら至近距離で言葉を交わす。
「やはり貴様は手強いな勇者! 流石吾輩を封じただけはある!」
「今度は封じるだけじゃねぇ、完璧に消し去ってやるよ!」
俺達は弾かれるように同じタイミングで飛び退り距離を取る。
武器を受け止め、打ち合うことが出来るならば戦うことは出来る。
しかし――これは俺だけに出来る事。
魔力の対極に位置する勇者光を持つ俺だけが可能な事だ。
だから――
「ココじゃ!」
飛び退ったドラキュラ伯爵の死角から唐突に現れたスズが、白銀の巨槍を構えて突っ込む。
しかしそれに対して伯爵は瞬時に反応し、手に持った鎌をスズの持つ巨槍よりも長く変化させて無造作に払った。
警戒もしていない無造作すぎる、お粗末ともいえる一撃。
スズの実力をもってすれば簡単に捌き、攻撃を加えることが出来るものだ。
けどそれは――
「ッ!」
スズは咄嗟に攻撃を中断し、伸びてくる大鎌を地に伏せて避ける。
無造作な一撃。
だがそれは無制限なリーチと、捌くことも防ぐことも出来ない防御無視の一撃だ。
いくらスズであっても、勇者光を持っていなければ避ける他無く、その一撃で攻撃は完全に潰される。
地に伏せたスズの頭上を鎌が通り過ぎる。
通過した後、すぐさま駆けだそうと身を起こすスズ。
しかし、その眼前にはすでに伯爵が迫っていた。
「邪魔だと言っている!」
苛立った声と同時に伯爵の蹴りが、立ち上がりかけたスズに炸裂する。
「グッ!」
「スズ!」
呻き声を上げて小柄なスズの体が吹き飛ばされる。
俺は『加速』の魔法陣を展開し屋上を一気に横切り、吹き飛んだスズの後ろに回り込み受け止めた。
体の中央に ドン とスズの体がぶち当たる。
いくら小柄と言っても人間一人分、その衝撃は半端じゃない。
加えてあの伯爵の蹴りの威力も含んでいる。
体が軋み、踏ん張った靴裏が衝撃を殺せずに屋上の床を滑った。
「くっ、所長スマンかった。助かる」
「気にすんな。屋上から落ちて、お前が戻るのに時間がかかった場合の方が致命的だ」
腕の中のスズが礼を口にするが、これはスズのためだけではない。
あの速度だと、まず間違いなくスズは落ちていた。
俺が正面からやり合って、そのカバーをスズがしてくれている。
そうやって今ようやく2人掛かりで均衡がとれているんだ。
スズが脱落して俺1人になったら倒すどころかまともに戦えるかもわからない。
「とりあえず、仕切り直しだ」
スズを下ろしつつ、伯爵に目を移す。
「さっきと同じだ、俺がメインで奴の攻撃を受ける。スズは隙をついて攻撃してくれ、それで何とかこじ開ける」
「了解じゃ」
スズの返答を聞くと同時に、俺は全身に勇者光を漲らせて伯爵に向かい駆け出した。
手の中の天叢雲剣が起こす カタカタ という震えは意図的に無視して。
☆★☆
「おいおい、アイツらに本当に手助けが必要なのか?」
「ていうか、入ってく事すら出来ない気がするんだけど」
階段の影から屋上の様子をうかがいながら、私と四十万くんが率直な感想を述べる。
「ですが、2人で戦っているっていうのにほとんど互角の状況ですよ? 何らかの打開策が無いと」
この中で一番”眼”が良い写楽さんが冷静に答える。
そうは言っても光ったり、雷が出たり、鎌が伸びたり、そんなことが目で追う事すら出来ない速さで起こっているんだよ?
もう自分には何もできないのは嫌だと思ったし、自分に出来ることは何でもやろうと思った。
でも、このレベルの戦いでは私に出来る事ってのが見つけられない。
自分に何ができるのかってのも良くわからないっていうのに、この状況は重過ぎる。
「それにレイちゃん、ニニギ様も言っていたじゃない。『15分だけ』って」
「あ、そうですね!」
慌てて左腕の腕時計を見た。
発光塗料が塗られ暗闇の中で ボゥ と光る時計の針を見ると、私が屋上に落ちてから大体20分くらいは経っている。
「ちょ! もう20分も経ってますよ!」
「やはりそうですか……ニニギ様が何が保たないと言ったのかはわかりませんが、今の師里くんは無茶をしている状況なのは間違いないようですね」
「おい、それはどういう意味だ?」
あの場にいなかった四十万くんが問いかけてきた。
その四十万くんにニニギ様から伝えられたことをそのまま伝える。
「……なるほど、詳しくはわからないが師里が使ってるあの剣の使用時間は既に超えているってわけか」
「そういうことだと思います、多分」
「それは確かにヤバいな、何時限界が来てもおかしくないって事だろ?」
話を聞いた四十万くんが顎に手を当てて考え込む。
「……写楽さん、この状況で俺達に出来る支援ってなにがある?」
「そうですね、一番はレイちゃんの能力であの2人を強化することでしょうか」
「あ、でもそれはダメです。あの2人から『自分達に向けては絶対に使うな』って言われてて……それにうまく発動するかもわかりません」
「そうね、もし失敗しても伯爵にかかってしまったらそれこそ手が付けられませんしね」
「それじゃ他だ」
「となると、あの”鎌を壊す”ことですかね」
「鎌ですか?」
確かに戦いの様子を見ている限り、あの金髪マントが鎌を振り回してるけど……。
「私が見る限り、あの鎌をスズさんは想像以上に警戒して動いていますし、師里くんもあの鎌の動きを封じようとして戦っています。
アレが何であれ、壊してしまえばバランスが傾くと思います」
言われてみると確かに、あの鎌に対して2人はかなり神経を使っているように見える。
……早すぎて曖昧だけど。
「なるほど、やってみる価値はありそうだな」
「ちょ、ちょっと待ってください。でもどうやって壊すんですか?」
乗り気な四十万くんに待ったをかける。
あんな近寄っただけでも細切れにされちゃいそうな場所の中心にある鎌を、離れたここからどうやって壊するつもりなの?
「そう、そこが一番の問題なのよね。私の魔力ももう殆ど無いし……。私達が囮になって注意を引いてる間に2人に壊してもらうしかないかしら」
「でもあの金髪マントがこっちに向かってくるかもわかりませんし、そもそもあの2人に意図が通じるかどうかも賭けですよね」
それは少し賭けが過ぎるんじゃないの?
下手をすれば私たち3人は生きていられないだろう。
「――いや、問題ない」
その時、四十万くんが左手に無骨な大きい銃を手にし、力強い声でそう言い切った。
「四十万くんどういうこと? てかその銃はなに?」
「ここに師里から貰った弾丸が1発ある。あの影の特災にも効いたから、たぶん伯爵にも通用するだろう」
「……1発だと失敗は出来ませんね」
「もともと失敗したら終わりでしょ。俺達も師里らも」
写楽さんの言葉にニヒルな笑いを浮かべて答える四十万くん。
何だかドラマの中の刑事みたい。いや、みたいじゃなくて本物の刑事さんなんだけどさ。
「わかりました、それでは――」
写楽さんが口を開いたその時
「ウワァァァ!」
という声と共に バシンッ と私達が隠れている場所のすぐ前に、黄緑色の人影が叩きつけられるように落ちてきた。
その人影の手から離れたとんでもなく長い槍が カランカラン と地面に転がる。
「痛ッ~! ん? お主らなんでこんな所に……!」
「「「シッー! シッー!」」」
叩きつけられたかと思ったらすぐさま跳ね起きたスズさんが、私達を見つけて声を上げかける。
それに対し3人揃って口の前に人差し指を立てるジェスチャーで遮った。
意図を察したのか口を閉じ、再び地面に倒れたスズさんが私達の方に顔を向ける。
その姿は全身に細かい傷が刻まれ、いつも着ているジャージには血が滲んでいた。
見慣れていたはずの知り合いがこんなに傷だらけになっていることに、少なからずショックを受ける。
「(お主らなんでこんな所におるのじゃ、逃げろと言ったじゃろうが)」
しかしそんな私の内心になどまるで気づかず、スズさんは声を潜めたまま私達に問いかけてくる。
その声には余裕がなく、事態の切迫さを如実に表していた。
「(そんなことは今はいいの、とりあえず聞いて。この状況を打開する作戦があるわ)」
「(……ほう、言うてみぃ。どんな作戦じゃ?)」
「(えぇ、レイちゃんも四十万刑事も聞いてちょうだい)」
そうして写楽さんは具体的な作戦内容を告げる。
聞いている内にスズさんの口が ニヤリ と上がる。
「(面白い、やってみる価値はある。良いじゃろう、儂が当てるまでの時間くらいは作ってやる)」
聞き終わるとそう言って立ち上がり、転がっていた槍を拾い上げるスズさん。
「(お主ら、しくじるなよ!)」
そう私達に言い残し
「『雷身転化』!」
叫び声を上げる。
バチバチバチッ!
声と共に手に持った槍からいくつもの魔法陣が現れては弾けて消えていく。
それに合わせてスズさんの体から稲妻が迸る。
瞬く間に全身を雷が覆い、その姿を白色の人影の様なものへと変えた。
「では、行くぞ!」
ジャオッ と空気を焼き、コンクリートの床に焦げ跡を残してスズさんの姿が掻き消えた。
「四十万刑事、レイちゃん! さっきスズさんに言った通りです、急いで準備をしましょう!」
静かに頷き、準備に入る。
私は目を閉じ、自分の中にある魔力に意識を伸ばす。
それを千切り取り、他者へと与えるために。
私の超能力『強化支援』を発動させるために。
静かに集中を始めた。
感想・評価お待ちしています。
(次回は火曜日~水曜日には更新できると思います)




