――お前ら、持ってないの?
1か月ほど時間が空いてしまってすいません。近日中に上げれるって言っておきながらこれは本当に申し開きのしようがありません。
ですが重ねて申し訳ないのですが私事で1月の中盤までは更新できないと思います。お待たせすることになってすいません。
「『影繰・雲霞』」
印を結び終わった『暗殺者』が静かに口にすると同時に、その背中に巨大な真紅の魔法陣が展開された。
その魔法陣は強く光を放ったあと パリン と乾いた音をたてて弾け飛び、暗殺者の足元から伸びた影に降り注ぐ。
変化は劇的だった。
地面に伸びた平面的だった影がムクムクと立体的に立ち上がり、あっという間に暗殺者と同じ姿を形作った。
しかし、変化はそこで終わらない。
その影が ブルッ と震えたと思うと影が2つに分裂した。
そっくり同じ姿をした完璧なコピーが2つ。
だがまだまだ止まらない。
2つに分かれた影が更に分裂し4つに、そこから8つに、更に別れて16、32、64、128、……。
倍々に増え続けた影はあっという間に数え切れないほどに膨れ上がる。
そうして、広大な運動場が屍喰人の白と影の黒に2分された。
「――行け」
その影の軍勢が暗殺者の短い命令で一斉に動き出す。
数では負けている。
いくら増えたといっても、無限に湧き続ける『屍喰人』は影よりも2倍近い。
だがしかし、単体での戦闘力差は圧倒的だった。
刹那の間に影は『屍喰人』を排除していく。
首を折り、四肢を切り離し、蹂躙していく。
2倍はいたはずの屍喰人は瞬く間にその数を減らしていった。
「す、すごい……」
「あぁ。これが魔王を倒したブレイバーズの力か、凄まじいな」
思わず漏れ出た言葉に四十万くんが同意する。
そこには先ほどまであった絶望感など残っていなかった。
「ハッ、まだまだこんなもんじゃねぇぜ! 『影繰形態変化』!」
声高に叫ぶとともに、『暗殺者』の手が再び印を結ぶ。
すると『屍喰人』を蹂躙していた影が動きを止め、一か所に寄り集まる。
それらは人の形をやめ、1つの大きな塊になっていく。
塊はしかし、そこから2つに分かれグネグネと更に形を変える。
そうしてとある”もの”を作った後、それぞれの塊から一条の影が『暗殺者』へと伸びた。
「うっし、これくらいの数ならいけんだろ」
伸びてきた影を左右の手でそれぞれ掴み取った『暗殺者』はそれを持ち上げる。
それが影で出来てるからだろうか、長大で巨大なそれを重さなど感じさせない。
それは”鎌”だった。
勿論、農作業用の鎌ではない。
かといって死神の持つようなものでもない。
それは生物的な、そしてとても攻撃的なフォルムだった。
二対のそれは誰もが見覚えのあるはずの――
「『蟷螂之斧』!」
カマキリの鎌に似たようなそれを、『暗殺者』は左右同時に振るう。
右手の鎌は右から左へ。
左手の鎌は左から右へ。
ちょうど両腕が体の正面で交差するように横から振りぬく。
上下二段の斬撃が残っていた『屍喰人』に襲い掛かり、容易く三分割にした。
圧倒的な一撃。
豪快なこの攻撃で残りの『屍喰人』は一掃され、運動場に『屍喰人』の姿は消え去った。
「ふぅ、まぁとりあえずこんなもんか」
手にしていた鎌を影人形に戻しながら『暗殺者』が息を吐きだしながら、背後の私達に振り返る。
「あの、ありがとうござ――」
「いや、礼なんかいいからお前らは”上”の手伝い行ってくれよ。ちょっとヤバそうだからよ」
私の声を遮り、クイクイと人差し指を上に向ける『暗殺者』。
「上ですか?」
「屋上だよ屋上、アイツらがまだ戦ってんだろ」
「ですが『暗殺者』さん、私達が行くよりも貴方が行った方が早いし確実なのでは?」
「そりゃできればそれが一番なんだろうけど……よっと!」
写楽さんの言葉に答えながらも、『暗殺者』は影で作った苦無をあらぬ方向に投げ放つ。
それはまっすぐ飛び、今まさに地面の黒い穴から這い出そうとしていた『屍喰人』の脳天に突き刺さった。
「ま、こういうわけだ。無限に出続けるんだよコイツら――思ったよりも湧き出すのが早かったけどな」
軽く言い放つ『暗殺者』だったが、その視線の先ではあとからあとから『屍喰人』が這い出し始めている。
「大丈夫、なんですか?」
「あん? 誰に言ってんだ、こんな雑魚この10倍来たってオレに傷一つつけらんねーよ。ただまぁ、ここを動くわけには行かないけどな」
「……わかりました、それでは『暗殺者』さんはここをお願いします」
顎に手を当てて少し考え込んだ写楽さんが『暗殺者』に告げる。
「それで私とレイちゃんでアキラ君の救援に、四十万刑事は避難誘導をお願いします」
「わかりました……私に何ができるかはわからないけど」
「それが妥当だろうな」
「へ? 3人で行けばいいだろ」
その提案に納得する私と四十万くん。
だが残る1人、『暗殺者』だけは不可解そうに声を上げた。
「それは無理だ、いくらアンタがいたとしても万が一ってことがある。誰かが避難させなければ」
「あれ? オレがおかしいのかな……」
ブツブツと小さな声で呟く『暗殺者』。
一体何なんだろう。
「――お前ら、持ってないの?」
呟いていたと思ったら、唐突にそんなことを訊いてきた。
思わず顔を見合わせる私達3人。
それぞれの顔には疑問の表情が浮かんでいた。
「えーと、何をですか?」
そんな私達を代表して写楽さんが疑問を問いかけてくれる。
「何って、携帯電話だよ。あ、今は”すまーとふぉん”って言うんだっけか?
それでチャチャッと連絡して避難指示すればいいんじゃねーの。
……それとも出来ないのか? オレは機械のことはからっきしだから的外れなこと言ってたらゴメンな」
そんな風に『暗殺者』が気を使ってくれてるが私達は答えられなかった。
3人もいるのにそんな手段を指摘されるまで思い至ることが出来なかったのは、本当にどうかしていたとしか思えない。
「いえ、多分可能です」
「だったらお前ら3人で行ってくれ。オレの予想じゃ現状は良くて五分と五分、その状況をひっくり返せるのはお前ら3人だけだ」
「で、でも私達にそんな力が……」
「いいや、あるね」
私の反論をキッパリと『暗殺者』が否定する。
「師里レイ。お前だから俺はこの状況をひっくり返せると確信してる」
「……私がSSSランクの能力者だからですか?」
「ハッ! くだんねぇ、そんなことはどうでもいいことだな。
理屈じゃねーんだよ。お前はオレが知ってる中で、最高に頭のおかしい奴の妹だからとんでもないことをしでかすってわかるんだよ」
「それってどういう――!?」
その言い方だとまるで『暗殺者』がアイツのことを知っているみたいじゃない。
ギャギャギャギャギャギャギャッ!
だが、その疑問は唐突に響いた甲高い轟音で掻き消される。
その音は地面に開いた真っ黒な穴から飛び出してきた”もの”が奏でた不快な音。
まるで空間を食い破るかのように暗い洞の中から現れた、爬虫類の様な化け物。
先程の『屍喰人』と同じ様な白い色をしたその化け物は、飛び出してきた勢いのまま僅かに宙を泳いだ後、ワニやトカゲのような体の脇から生えた4つの足で ドシン と地面に着地する。
数時間前に見た大蛇よりはかなり小さいが、それでも10メートル程の巨体とそれに見合った重量をしていることがわかる。
何より、かなりその見た目がグロテスクだ。
グズグズに腐れ落ちたようなトカゲのような、辛うじて形を保っているようなフォルムは見ていて気持ちのいいものではない。
その鱗なんかはまるで人の顔のように見えて――いや違う!
最初は爬虫類かとも思ったがよくよく見てみるとその体は先程の『屍喰人』が寄り集まって作られているんだ。
鱗なんかじゃない、あれはまさに『屍喰人』の顔。
「ウッ!」
思わず口に手を当てる。
あんな死体が寄り集まったような化け物を直視し居続ける自信はない。
「ホォ、少しは骨のある雑魚が出てきたみたいだな」
しかし、そんなものに対しても『暗殺者』に恐れなどは見られない。
それどころか若干楽しそうだ。
あぁ、この人にとってはこんなものは何の脅威でもなく、恐れるようなものではないってことか。
改めて目の前の存在が”まとも”ではないと実感した。
能力的にも精神的にも、あまりにも私からかけ離れている。
これが特災と戦い続ける人なのだろうか。
「オラ、とっとと行け! チンタラしてっとアイツら死んじまうぞ」
「分かりました、そちらもお気をつけて」
「誰に言ってんだよ、自分たちの心配だけしておけ」
そんな悪態の様な激励を受けて私達は、再びあの屋上に向かって走り始めた。
☆★☆
「うーん、上の奴らは元気だね~」
『特究』の地下に造られたシェルターの中で世界随一の頭脳を持つといわれる天才は1人呟いた。
先程から
ズーン
と鈍い振動が強固に作られたはずのこのシェルターにまで届いてきている。
普通ならば驚くべきことなのに天才――喜多川寺ヤスヒロ――は動じない。
彼らがかかわるならばこんなことは想定内、そんな風に何でもない表情を崩さない。
その時――
Prrr
白衣のポケットに入れていたスマートフォンが鳴る。
「ん? こんな時に電話とは誰かな――もしもし?」
『喜多川寺博士ですか、特課の四十万です!』
「あぁ刑事さん。どうしました?」
受話器の向こう側から少し息切れした声が聞こえてくる。
相手はこの一連の事件の担当をしている刑事だった。
「魔血球が使われ”門”が開き『屍喰人』が現れました、今は『暗殺者』が抑えていますがどうなるかわかりません! 至急そこから避難してください!」
「……ふむ、魔血球が使われたということはドラキュラ伯爵が復活したのか。まぁ予想の範疇だが――わかった、すぐにスタッフと患者と避難を開始しよう。こういう時の場合に備えて市内に抜ける避難経路がある」
『わかりました、こっちからも何人か応援に向かわせます。くれぐれも気を付けて』
「勿論だ――ところで君は今何をしているんだい?」
『おれ……自分はドラキュラ伯爵と交戦中の師里アキラの支援に向かっています』
「そうか、では君の方が気をつけなくてはならないだろう。十分に気をつけたまえ、流石に死なれたら僕にも治せない」
『わかりました、では』
そう言い、通話は切れる。
刑事の言葉には余裕はなく、状況の緊迫感を直に感じられた。
「ふむ、流石の『B』やBellも今の状態ではドラキュラ伯爵を相手にするには辛いか」
顎に手を当てて考え込みながらヤスヒロは呟く。
「せめて君が起きてくれればもっと状況は簡単なんだけどね。本当にマイペースな眠り姫だ」
そうして視線を落とす先にはベッドに横たわった少女がいた。
金色に輝く髪を持つ日本人離れした顔立ちの少女。
彼女は2年前まで『太陽の乙女』と呼ばれていた大魔法使い。
しかし彼女は、今では目を開けることもなくただひたすらに眠り続けている。
2年前のある戦いが元でこうなっているのだが、これは天才である喜多川ヤスヒロの手にも余るものだった。
出来ることは生命維持装置に繋ぎ、生かし続けることだけ。
そんな彼女にいくら見つめて語り掛けても、いつもと変わらない寝顔を晒し続けるのみ。
「……そう都合よくはいかないか」
若干の落胆を声に滲ませながらヤスヒロが視線を外す。
その時――
ピクッ
「指先が動いた……? いや、気のせいか」
頭を振ってヤスヒロは彼女のそばを離れ、スタッフたちに避難指示をしに向かった。
1人残された少女。
その瞳がゆっくりとわずかに開く。
「アキ……ラ……」
そうして、1人の男の名をか細い声で呼んだ。
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