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だったら選ぶべきことは一つのはず

「やることは単純です」


 そう言って写楽さんが伝えた作戦は確かに単純だった。

 私が強化し、写楽さんが照準をつけ、四十万くんが撃つ。

 写楽さんの能力で四十万くんの視力を写楽さんのものと同調させ、私の力で強化した弾丸で鎌を撃ち抜く。

 たったこれだけ。


 しかし、単純なのと簡単なのは違う。

 今もなお高速で戦い続ける3人。

 スズさんが雷に変化してから一層戦闘は激化し続けている。

 そんなものにどうやって照準を付けるつもりなのか。

 何より私自身に問題が――。


「――プハッ」


「レイちゃん大丈夫?」


 閉じていた目を開き、大きく息を吸い込む。

 四十万くんの肩に置いていた手の平にもじっとりと汗をかいている。

 そんな私に、四十万くんの反対側の肩に手をおいていた写楽さんが心配の声をかけてきた。


「大丈夫です! もう一回!」


 それに対して短く返事を返し、再び目を閉じる。

 体の中心、そこから魔力を引き出す。

 かつて成功したときと同じように、あの時の感覚を思い出しながら。


 でも――


「ッ!」


 ダメだ。

『身体強化』の時のように、魔力の塊から魔力を引っ張って切り離すことはできる。

 でもそれを『強化支援バフ』の様に加工することが出来ない。

 そもそも"加工"なんてどうすればいいかもわからないんだ。

 そうこうしている内に魔力は元の塊へと戻っていてしまう。


「レイちゃん……」


「すぐ! もうすぐ出来ますから!」


 写楽さんの声に焦り、上ずった声色で返す。

 わかってる、わかってるんだ。

 ――時間が無いってことくらい。

 もう一度『強化支援バフ』を発動させようと集中し、心に潜る。

 しかし、結果は再びの失敗。

 心に焦りだけが積もる。


 ソッ


 そんな時、私の手を何か温かいものが上から覆った。


「目を開けて、レイちゃん」


 いきなりの感触に驚き目を開けると、私の手の上に写楽さんの手が被さっていた。


「写楽さん……」


「大丈夫、焦らなくていいの。

 その代わりにしっかり目を開いて、貴女が力を渡したい対象を見て」


「目を……?」


「そう、自分自身で完結する『身体強化』じゃないもの。レイちゃんがいて、力を受け取る四十万刑事がいる、そうでしょ」


「――はい」


 その言葉で何か掴めたような気がした。

 あの時――モモに初めて能力を使った時――も私はちゃんと目を開いて、そしてアイツから教わったフレーズを使ったんだった。


「四十万くん――"頑張って"」


 体の中で魔力を切り取り、しかし目は閉じずにまっすぐ背中を見たまま言葉を紡ぐ。

 瞬間、驚くほど自然にその魔力が体の外へと抜けていくのを感じた。

 魔力は体から飛び出ると桜色の魔法陣へと姿を変え、私達の足元に展開する。

 私達3人が収まるほどに大きな魔法陣が桃色の光で私達を包み込み、同時にとんでもない魔力を放出していく。

 中でも四十万くんの持つ銃へと魔力が集中する。そうして無骨だった銃の表面に桜色の植物的な紋様が浮き出てきた。

 この魔法陣を巡る魔力の総量は、ちょっと前にあの金髪マントが運動場に向かって投げた球の魔力と同じくらい。

 こんなに魔力を込める気などなかったのに、どうしてだかこんなに魔力が溢れてきてしまう。

 でもそんなことを気にするよりも、成功したことのうれしさの方が大きい。


「出来ました写楽さん!」


「え、えぇ。でも驚いたわ、まさかこれ程なんて――」


 驚いたようにそう呟く写楽さん。

 写楽さんにとっても予想外だったらしい。


「おいお前達! んなこと言ってる場合じゃないぞ、アッチも気づきやがった!」


 そんな私達に、今まで静かにしていた四十万くんの声が刺さる。

 弾かれたように前を向くと、金髪マントはこちらへと向かってくるところだった。

 アイツがそれを阻むかのように攻撃を仕掛けていたが、それも遂には押し切られ吹き飛ばされる。

 すぐさま床を滑るかのようにこちらへと凄まじい速度で飛んでくる。


「って、ヤバいヤバい! こっち来る! こっち来る!! こっち来る!!!」


「大丈夫レイちゃん。私はスズさんのことは嫌いですが、腕だけは信用してますから。彼女がやるといったんだから、私達はそのチャンスを待っていればいいんです」


 微塵も焦りを見せず、冷静にそう告げる。



「ハッ! 生意気なことを言いよるわい……じゃが、期待には応えんとな!」



 写楽さんのその言葉が終わると同時に、私達と金髪マントとの間に雷が落ちる。

 金髪マントの前に、帯電し光り輝くスズさんが槍を構えたまま立ち塞がった。


「邪魔だ雑魚が!」


「邪魔をするつもりじゃからな!」


「その女の持つ桁外れの魔力……ここで始末をしておく必要がある。この場で最大の脅威だ」


「尚更退けぬな!」


「ならば!」


「来い!」



 一瞬。



 鎌と槍。

 瞬き程の間に両者の持つ武器が交差した。

 結果――


「グッ――貴様ァ!」


「カハッ! ようやく当たったな、ドラキュラ伯爵!」


 スズさんの槍が金髪マントの左腕を吹き飛ばしていた。

 だがスズさんも無傷ではない。

 いや、スズさんの方が酷い。

 左肩から胸のあたりまで相手の鎌が切り裂き、食い込んでいる。


「スズさんっ!」


「気にするな! 今の儂は半分雷じゃ、この程度の傷は大したものではない!

 それよりも儂が抑えている間に早く撃て!」


 確かにその傷口からは血が流れていない。

 だがその苦悶の表情や、押し殺した声音から、その傷が"大したものではない"なんてことはないことは明白だ。

 だというのにスズさんは空いている方の左手で、自分を切り裂いている鎌を逆に掴んで動きを抑える。

 そのまま、狙いやすいように体の位置を入れ替える。


「何を考えてるかわからないが、吾輩の鎌に『霧化』があるのを忘れているのか? このようなことで抑えられると――」


 だが、それでも焦らずに金髪マントは焦らずに鎌へと魔力を通す。


「やってみい。出来るものなら、な」


 しかし、それに対しスズさんは ニヤリ と不敵に笑う。


「なに? ……これはっ!?」


「ようやく気付いたか、儂の体は今ブリューナクと一体化しておる。つまり『雷』と『冷気』の魔力の塊じゃ。

 そんなものの中に取り込まれてる状態で『霧化』つまり"水粒の集合体"に変化できるものかよ。

 そういうわけだ――今じゃやれ!」


 その振り絞るような怒号に触発され、四十万くんの指が引き金を引きかける。

 だが――


「……なるほど『霧化』を封じたことは褒めてやろう。だがこれだけで吾輩の動きを封じることが出来ると、本当に思っておったのか?」


 言うや否や、金髪マントが鎌を持ち上げようとする。

 ――刃先にスズさんをくっつけたまま。


「なっ!? グゥッ!」


 僅かに浮き上がったが、すぐさま対抗してスズさんも足を踏ん張り、力を込める。

 両者の立つ床に ビシビシビシッ と罅割れが走る。

 凄まじい力の押し合いで建物全体に弱い振動が流れ、震える。


「早くしろ! 長くは保たん!」


 その叫びとほぼ同時に、四十万くんの銃から弾丸が放たれた。

 銃口から放たれた金色の弾丸が、桜色の尾を引き宙を奔る。


 しかし直感的にわかった。

 これじゃ間に合わない、と。


 予知?

 予測?

 詳しいことはわからない。

 ただ、弾丸が届くよりもわずかに早く相手が動くビジョンが見えた。


(どう? それが未来)


 唐突に。

 前触れもなく頭の中に声が響いた。


(え、誰!?)


(そんなことはどうでもいいでしょ、貴女はそれをどうにかしたい、そして君の助けがあればボクにはそれが出来る。だったら選ぶべきことは一つのはず)


 突然のことに頭が混乱する。

 けど、やらなければいけないことはハッキリしていた。



「誰でもいいからお願い! "助けて"!」



 瞬間、私の中の魔力が足元よりも更に下、地下へと向かって流れていくのを感じた。

感想・評価お待ちしています。

(次回は金曜~日曜のうちには更新できると思います)

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