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見た目恥ずかしいからあんまり使わないけどね

 キキッー


 と無人のサービスエリアの広い駐車場にミニバンがブレーキ痕を残しながら止まる。


「皆さん出てください」


 叫びながら後部ドアを開き、外へと飛び出すヒトミ。

 私達も急いでその後を追う。

 そうして最後のヒナタさんがミニバンから出た次の瞬間――




 バグンッ




 とミニバンがその姿を消す。

 代わりに現れたのは蛇の頭。

 追いついた大蛇がミニバンを丸呑みにしてしまったのだ。


「あー! 社用車がぁぁぁ! これって保険落りるかしら!?」


 あまりにも突然の事に呆然としていた私達の中で唯一、写楽しゃらくさんだけがそんな的外れな心配を口にする。


「そ、そんなこと言ってる場合ですか!? 早く逃げましょう!」


「え? でも、逃げちゃダメなんでしょヒトミちゃん?」


「……ハイ、申し訳ありませんがそのままで。レイを守って下さい」


 スマートフォンを耳に当て、どこかと通話したままのヒトミが肯定する。

 こ、こ、こいつは何考えてるんだ!?

 私達に死ねってか!?


「おっけー、おっけー。でもあんまり長くは無理よ、何か考えてるならなるべく急いでね。

 それじゃショータ達は下がってヒトミちゃんを守ってて」


 しかし、そんなヒトミの理不尽な要求に対し笑顔で返し、私を守るように前に出る写楽さん。

 160センチあるかないかの写楽さんと、全長が測りきれないほどの巨大なヘビが対峙した。


『今一度問う。大人しくその剣を寄越せ』


「お断りです。これはコノハナノサクヤヒメ様からお借りしたもので、この剣を必要とされている方がいるので」


 重厚な低音の声に対して、気後れすることなく写楽さんは答える。


『それは蛇神である我らを敵に回しても優先せねばならぬ事なのか?』


「そうですね」


『何故に?』


「色々ありますよ。人々を守るため、邪悪な存在を倒すため……でも言い訳ですね。

 本当の理由は至極簡単です」


『……』


「ただ愛故に」


『……愛など下らん、やはり人間は度し難いな』


 そして、SSランク能力者ウェイカーと蛇神の眷属との戦いの火蓋が切って落とされた。



 ☆★☆



「ハァッ!」


 裂帛の気合が写楽さんから放たれる。

 『神眼』の前で魔法陣が弾け、次の瞬間には ズン と地響きが鳴る。

 視線を前に向けると、先程まで鎌首をもたげていた大蛇が、叩きつけられたかのように地面へとその頭をつけていた。

 サービスエリアの駐車場であるここはアスファルトに覆われているのだが、大蛇が接している部分ではそれが罅割れている。

 いや、それだけでなく大蛇の体がアスファルトに沈み込んでいるようにさえ見える。


「十数倍ほど加重させていただきました、流石にそれ程の重さならば動くことはできないでしょう? じっとしていてくださいな」


 ミシミシ と音を立てながら地面に横たわる大蛇を見ながら口を開く写楽さん。


『……小賢しい』


 しかし言うや否や、地に張り付けられたままの大蛇の赤い瞳が カッ と光る。

 次の瞬間、猛烈な魔力が大蛇の体から吹き上がる。

 黒いもやが大蛇の白い体の表面を走ったかと思うと、地面が軋む音が消え去った。


「クッ」


 かけた技が外されたからか、写楽さんが後ずさる。


『この程度で止められると思ったのか? 舐められたものだな』


 再び鎌首をもたげ シャッー とヘビ特有の鳴き声を上げる大蛇。


「……さすが神の眷属ですね、あんなにあっさり解かれるとは思っていませんでしたよ実際。しかも力尽くとは」


 いつもと変わらぬ笑顔で答える写楽さんだが、その言葉には余裕は見えない。


「ヒトミちゃんの作戦がどんなものかはわからないけど、少しは本気で行かないとダメかしらね……」


 小声で何か呟く写楽さん。

 そこに――


『今度はこちらの番だな!』


 そんな声と共に大蛇の瞳が カッ と光る。

 そこから一筋の閃光が迸った。


「ビーム!?」


 私が驚きの声を上げている間に、写楽さんは素早く動いている。

 すぐさま私を肩に担ぎあげると、その場から離れた。


 ジュワッ


 と近くで何かが焼ける音がする。

 担がれたままそちらに目を向けると、アスファルトの地面に大きな穴が開き、その下の地面がむき出しになっていた。

 近くのアスファルトもあまりの熱さにか溶けてドロドロ、煙を上げている。


「うっわ、えげつないわね~」


 私を肩に担いだままの写楽さんが唖然と呟く。

 というか、背格好そんなに変わらないのにこんなに軽々と持てるなんて。

 これが魔力による身体強化ってやつ?



「写楽さん! 準備ができました、何とか抑えられませんか!?」



 その時、少し離れたところからヒトミの声が聞こえてきた。


「おっけー! まかせといて!」


 それに答えつつ、私を地面に降ろしてくれる写楽さん。


「で、でも写楽さん! さっき破られちゃったじゃないですか!?」


 そのまま大蛇に向きなおろうとする写楽さんの背中に声を掛ける。


「大丈夫大丈夫! 今回は本気で行くから」


「……え?」


 軽い調子で答え、ヒラヒラと手を振ってこたえる写楽さん。

 今回は本気って、今までは本気じゃなかったってこと?


「とりあえず、動きを止めさせてもらうわね」


 そう言って写楽さんは大蛇に視線を向ける。

 しかし、今回はそれだけではない。

 額の『神眼』の前に手をかざしたのだ。

 両手の親指と親指、人差し指と人差し指を合わせて作った三角形。

 それを額に当てる。

 三角形の中心に『神眼』が来るように。



「これが『神眼』の本当の使い方なのよ、見た目恥ずかしいからあんまり使わないけどね」



 照れくさそうに笑いながら写楽さんは答える。

 その顔がうっすらと赤くなっているので本当に恥ずかしいのだろう。

 でも恥ずかしいからっていつもは中途半端に能力使ってたのか。

 本当によくわからない人だ。


『そのようなことで、如何ほど変わるものか!』


 写楽さんの振る舞いをふざけていると取ったのか、大蛇の瞳が再び カッ と光り光線が放たれた。


「写楽さん!」


 咄嗟に心配の声を上げてしまう。

 だが、それはいらぬ心配であった。




「――私の超能力レヴァリーは〝視界支配〟。私の視界の中ではすべてが思い通りになるのよ」




 その言葉通り未だ大蛇の光線は写楽さんに届いていない。

 それどころか、光線は止まっていた。

 大蛇の目から放たれ5メートルほど進んだ空中で、まるで写真のように止まっていた。


『な、なっ……』


 大蛇もそのことに驚きの声を上げる。

 しかし、そんな大蛇の驚きなど気にも留めず――



「〝戻れ〟」



 ただ一言。

 写楽さんが呟いたその一言で光線はまるで動画の逆再生の様に大蛇の瞳へと吸い込まれていった。

 しかし、それは動画の逆再生ではない。


 ジュゥゥゥッ


『グワァァァァァ!』


 と肉の焼ける音が周囲に響くと同時に大蛇の絶叫が上がる。


「うん、厄介だから瞳は潰させてもらいました。すいません」


 慇懃無礼に言ってのける写楽さん。

 しかしその声など聞こえていないかのように大蛇は駐車場を暴れまわる。

 長大なその身をくねらせ、地面に叩きつけながらおぞましい絶叫を上げる。


「写楽さん! 抑えてください!」


「おっと、そうでしたそうでした」


 その様子を見ていた写楽さんだったが、ヒトミの声で自分のやるべきことを思い出したらしい。

 再び大蛇に目を向ける。

 その額に膨大な魔力が集まり、翳した両手の前に先ほどのものよりも大きな魔法陣が現れる。

 それが割れると同時に ズンッ と再び地響きを感じた。


「ヒトミちゃーん、こんな感じでどうかしら?」


 気軽に言うが、起こした現象は凄まじい。

 暴れ狂っていた大蛇は再び地面に縫い付けられている。

 加重、というやつだろうか。

 地面も陥没しているし多分そうだろう。

 しかし、先程とは威力が違う。


 大蛇は体の半分ほどまでその身を地面に埋めていたのだ。


 しかも直前まで痛みで暴れていたんだ、それを押さえつけたのだから並大抵の威力でないことは私にもわかる。


「はい、ありがとうございます! あともう少しそのままで!」


「はいは~い」


 気楽に返事をする写楽さん。

 その時、私の耳に空の彼方から バラバラバラ という音が届いた。

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