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ではそこで止まってください

遅れてすみません

「クッソ振り切れねぇ! なんつうスピードだよ!」


「あちらは〝特災〟です、物理法則には囚われませんからね」


 ショータさんの苛立った声にヒナタさんが冷静に応じる。

 この人なんでこんなに冷静なんだろう。

 30メートル後ろには化け物ヘビが迫ってるっていうのに。

 しかもこっちは既に150キロは出している。

 それだというのに振り切れず、それどころか距離を詰められ始めていた。

 その時、後ろから迫る大蛇が カパッ と大きく口を開いた。

 開かれた赤い腔内、そこから何か白いものが飛び出してくる。

 徐々に近づいてくるそれに目を凝らすと――


「あれは……ヘビ!?」


 最初に見たような、2~3メートルの蛇が宙を飛んで迫ってきていた。


「来てる! ヘビが飛んで来てる!」


「わかってるよ! 撃ち落とせケンタ!」


「わかった!」


 答えるやいなや窓から上半身を出すケンタさん。

 彼の視線が飛んでくるヘビを捉えると同時に――


 バンッ


 とヘビが上から何かで叩かれたかのように地面に落ちる。


「おぉ~!」


 車内から歓声が上がる。


「へ、あの程度の蛇なら何匹来たって落としてやるぜ」


 車内に戻ってきたケンタさんは、声に気を良くしたのかそんなことを口走った。

 だが――


 カパッ


 と再び大蛇の口が開き、そこから先程のようにヘビが、吐き出されてきたことで表情が固まる。


 ……今度は数え切れないほど大量に飛んできたからだ。


「……よーしケンタ! 有言実行だ、期待してるぜ!」


「意地悪はやめましょうショータ。ケンタ、時には自分の失言を認めることも重要ですよ」


「ウッセェチクショウ! やってやるよ!」


 同僚2人から声をかけられ、やけっぱち気味にヘビの群れへと目を向けるケンタさん。

 けれども――




「まったく、自分に出来ることと出来ないことはシッカリ見極めなきゃダメよ〜」




 言葉と同時に、宙を飛んでいたヘビ達の動きが ピタリ と止まる。

 まるで動画の一時停止のように空中に静止したヘビ達は次の瞬間 グンッ と一点に向かって集まり始めた。

 それは群れの丁度中心。

 そこに磁石でもあるかのように、ヘビ達は吸い寄せられていく。

 ヘビ達の意志ではないのだろう。

 その証拠に自らの体が押しつぶされようとも、ヘビ達は集まるのをやめない。

 遂には、ヘビ達によって巨大で無骨な球体が作られた。


「ピッチャー振りかぶって投げた〜」


 それを作り出した人物――私の横に座る写楽さん――はおどけた口調でそんなことを言う。

 既にその額に厳つい額当てはなく、隠されていた『神眼』が露わになっている。

 その『神眼』によってこのとんでもないことを行ったのだろう。


 ゴォッ


 回転しながら風を切って飛んでいくヘビ玉。

 写楽さんのおどけた口調とは反対にとんでもない速度だ。

 見たことないけど、隕石ってもしかしたらこんな感じなのかもしれない。

 そう思わせる程だ。

 しかし、相手も蛇神と言われるだけはある。

 飛んできたそれを


 グワッ


 と今まで以上に大きく口を開き、丸呑みにしてしまう。

 カエルを丸呑みにしたヘビの写真を見たことがあるが、あんな感じ。

 うぇ~。

 グロテクス。

 大蛇はそのまま、何事もなかったかのように速度を落とさず追いかけてくる。


「ふむ、相手もなかなかやりますね」


 とんでもないことをしたというのに、平然と疲れすら見せずに呟く写楽さん。


「相手は神に連なるものですからね、そう簡単にはいかないでしょう」


「社長でも流石に倒すのは無理そうですかね」


「もう! ケンタ、私が本気を出せばちゃんと倒せるわよ、多分!

 ……ただ、そうしたら流石にドラキュラ伯爵と戦う分は残らないと思うけど」


「それじゃダメですね」


「本末転倒だもんな」


 ため息をつくヒナタさんとケンタさん。

 社員にため息をつかれて焦ったのか――


「と、とりあえず足止めでもしてみるわよ」


 写楽さんはそう言って背後へと振り返る。

 じっくりとその姿を見つめたことで、写楽さんの魔力の流れを感じた。

 魔力が額の『神眼』に集まっていくのがわかる。

 それがある程度にまで溜まった瞬間、その『神眼』の前に若草色の魔法陣が現れた。

 すぐにそれは弾けて消える。

 だが同時に、地響きとともに背後に巨大な石の壁が出現した。

 2車線の道路の全幅を埋めるほどの横幅に、数十メートルはあるかと思われる高さだ。

 しかもそれは一枚ではない、ミニバンが走り抜けた後の地面から次々と現れてくる。

 合計で十数枚にも及ぶ石壁の防壁。

 一瞬のうちにこんなものを生み出してしまうとは、SSランク能力者ウェイカーは伊達じゃないみたい。


 だが、それは相手も同じようだった。

 こっちがSSランク能力者ウェイカーなら相手は神の眷属だ。



 ドンッ ドンッ



 と破砕音と地響きが後ろから追いかけてくる。


「写楽さん……これって」


「うーん、足止め失敗したかな~」


 写楽さんが頭を掻いたのと同時に、最後の石壁が バギィ と砕け散りその奥から大蛇が姿を現した。

 その顔は見るからに機嫌が悪そうだ。

 先程までは静かに迫ってきていたというのに、今では周囲のガードレールや街路樹を薙ぎ倒しながら荒々しく迫ってきている。

 てか――


「早い! めっちゃ早い! 死ぬほど早い!」


 周囲の被害などまるで考えない動きで猛烈に迫ってくる大蛇。

 ドンドンと私達との距離が詰まってくる。


「やばいやばいやばい! アクセル! アクセル! アクセルッ!!!」


「ウッセーもう限界だ! 社長何とかしてくれ!」


「え~、でもまたなんかしたらもっと怒らせるかもよ?」


「もう殺されそうなほど怒らせてるんだよ! いいから何とかしろ!」


 大蛇の猛追によって再び混乱し始める車内。

 しかし、そこに1つの声が響いた。


「落ち着いてください」


 凛としたその声で車内が静まった。


「大丈夫、何とか都合がつきました。

 ショータさんは運転に集中してください、そして次のサービスエリアに入って。

 ケンタさんは超能力レヴァリーを使ってショータさんの補助をしてください。『念動眼』なら車体の姿勢制御などの補助が出来ますよね。

 ヒナタさんは何とか未来が見れないかお願いします。

 写楽さんとレイはサービスエリアに着いたら働いてもらうので魔力を温存しておいてください。」


「「「……え?」」」


 今までスマートフォンを弄って黙っていたヒトミの突然の饒舌に一同呆気にとられる。


「どうしました? 早くしないと皆そろって丸呑みにされちゃいますよ」


 けれどもヒトミの冷静な指摘で正気に返り動き始める。

 ケンタさんの補助が入ったからか、あまりのスピードにカタカタと揺れていた車体が安定しさらにスピードを増す。

 何とか大蛇から徐々に距離を離していく。


「ふぅ~、っていきなりどうしたのよヒトミ。何を考えてるの?」


 ほっと一息を突きつつも、突然指示を出し始めたヒトミに対して問いかける。


「何って、この状況を打開するつもりなだけよ」


「そんなッ! だってアンタ普通の人じゃない!?」


 ヒトミは魔力を持たない。

 能力者ウェイカーではなくただの人間のはず。

 それなのに何をするつもりだっていうのよ。


「あら、ただの人間にだって出来ることはあるのよ。

 ま、見てなさい。――昔も今も、大蛇退治のやり方は変わらないわ」


 ヒトミは笑いながら、手に持ったスマートフォンを振って見せてきた。

 オロチ退治のやり方?

 一体何を言っているのだろう、コイツは。



「オラッ! 言われたとおりにサービスエリアにはいっぞ!」



 そんな時、ショータさんの言葉が車内に響いた。

 窓の外の景色が変わり、だだっ広い駐車場になる。

 ここでも蛇神の結界が効いているのか、人気は無い。


「ではそこで止まってください」




「「「はぁ!?」」」


 


 ヒトミのそんな指示に、車内の皆が口をそろえて驚きの声を上げた。

 一体何を考えてるんだ、この〝暴走特急〟は!

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