ていうか、あのバカはどこだぁぁぁ!
だいぶ遅くなっちゃいました、すいません
「とりあえず、どうするか……。
あやつは殺さず、お主が吸収せねばならんのだろ?」
儂は目の前の影騎士に視線を向けながらアヤに問いかける。
チラッと見ただけだが、この騎士が『影』が姿を変えたものだということはわかった。
この影の中からアヤの魔力を僅かに感じたからだ。
「あぁ、まだオレの影と奪われた魔力の半分はそいつの中にあるからな」
「なるほどなるほど、了解じゃ。
つまり身動き取れないくらいに痛めつけて、お主の前に転がせばよいのじゃろう?」
「でも――」
何かアヤが言いかけていたが、気にせずに駆け出す。
ドンッ
と強く床を蹴って飛び出す儂の体。
一瞬で騎士へと肉薄した儂は足を ドンッ と床に降ろす。
同時に魔法陣が床に展開する。
瞬時にそこから幾本もの黄緑色の魔力腕が飛び出し、影騎士へと殺到し巻き付いていく。
「このまま締め上げてやろう!」
影騎士の四肢を拘束した魔力腕に力を込める。
だが――
「ッ!」
ブン と振られた盾を間一髪、片手で受け止める。
ビリリ と痺れる腕を強引に動かして盾を弾き返し、後ろに跳び距離を取った。
距離をとって見ると、先程拘束したはずの魔力腕は全て引き千切られ、消え去っていた。
「……儂の魔力腕を引き千切ったじゃと?」
「話を聞けっての、アイツは伯爵から魔力分けて貰ってだいぶ強くなってんだよ」
「それを早く言え」
「言う前にお前が飛び出したんだろうがっ!」
隣のアヤが怒鳴り声を上げる。
全くウルサイの~。
しかし、言われてみると確かに、以前よりも強大な魔力を目の前の『影』から感じる。
ドラキュラの魔力に中てられて興奮しておったが、中々こやつも強そうじゃな。
「ふむ、見かけ倒しではないというわけか」
さてどのように料理しようか。
じゃが、時間をかけるわけにもいかぬ。
先程の巨大な真紅の刃。アレはドラキュラの攻撃であろう。
つまり奴は誰かと戦っているのだ。
いや〝誰か〟など曖昧に言わずとも、十中八九所長に違いない。
だが、流石に所長と言えどもドラキュラに単独で挑むのは無謀じゃ。
今の全力を出せぬ状況では……。
じゃから早く助けに行ってやらねば。
そんなことを考ていたら、あるものが目に留まった。
「ふむ、これは使えるかもしれんな」
頭の中で、それを使って敵を倒す状況を想定してみる。
我ながら、中々いい考えではないかと思う。
「あ? 何がだ」
そんな儂の独り言を聞きとめたアヤが問うてくる。
「どれ、耳を貸すのじゃ。よい考えがある」
アヤの耳に口を寄せ、そっと考えついたことを伝えた。
「……まぁ、出来るか出来ないかで言ったら出来るだろうけどよ」
「よし、ならばそれで行こう!」
「え!? あ、ちょっ!」
「ほれほれ、早くせねば所長が殺されてしまうわい。覚悟を決めよ!」
アヤの戸惑いの声などバッサリ無視する。
「あぁもう! わかったよチクショウ!」
そんなアヤの声を確認し、儂は手の中で バチバチ と電気を放つ槍をひときわ強く握りしめ、構え直した。
☆★☆
「では行くぞぉ!」
気炎を上げ、儂は腰溜めに構えたブリューナクへと魔力を注ぐ。
ブリューナクの周囲に紫電と冷気が溢れ出し始める。
ブリューナクを構えた両手に電流が流れ痺れ、同時に冷気で感覚が鈍り始めた。
じゃが、そんなことは些末なこと。
感覚が無くても握りこめていれば十分。
痛みを無視して更に注ぎ込む。
1つの大きな刃を4つの小さな刃が取り囲んだ先端に、バチバチバチ と放電現象が起きる。
よし、これくらいあれば十分だ。
魔力の篭ったブリューナク。
それを投げ放ちはせず、構えたまま儂は足を踏みだした。
瞬間――
バチィッ
何かが弾ける音が部屋に響き渡った。
☆★☆
その時、影騎士は何が起きたか認識できなかった。
スズと呼ばれる元勇者の仲間が、槍に魔力を込めていたことはわかっていた。
しかし、先程の様な攻撃であれば攻撃を逸らすなり避けるなりすれば、なんとかなると出方をうかがっていたのだ。
だから女が足を踏みだした時、攻撃が来ると身構え、目を逸らさないようにしていた。
その刹那――
目の前の女が姿を消した。
バチィッ という音が響いたかと思ったら、一瞬にしてその姿が消えた。
残っているのは空気中に残る放電現象だけ。
どこだ!?
そう思い部屋中に視線を走らせる騎士。
その耳に ドンッ という音が届く。
咄嗟にそちらに目を向けるが、スズの姿は無い。
代わりに金属製の壁に何かが着地したような〝足跡〟が残っていた。
[ッ!]
それが示すことに気付き騎士は戦慄し息を呑む。
だが、そのことに騎士が気付いた時には遅かった。
ドンッ
ドンッドンッ
ドンッドンッドンッ
ドンッドンッドンッドンッ
ドンッドンッドンッドンッドンッ
ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ
最初は1回。
次いで2回。
3回、4回、5回と音が鳴る間隔は徐々に短くなっていく。
同時に、部屋に足跡が増えていく。
床、壁、天井。
正に至る所にだ。
そしてほんの数秒で音は
ドッドッドッドッドッドドドドドドドドドドドドドドド
という1つ前の音を、次の音が掻き消すような殆ど間隔のない音に変わる。
コイツは見えないんじゃない!
[見えないほどの速度で移動しているというのか!?]
『その通り』
騎士のその言葉に、どこからともなく声が聞こえてくる。
それはまるで全方向から聞こえてくるかのようだった。
『己の体を雷と同化させておるのじゃよ。〝雷身〟と言う。
そして、これからお主に食らわせるのが――』
「『雷身突破』じゃ!」
その声は先程までと違いある一つの場所から聞こえてきた。
騎士の目の前から、だ。
次の瞬間、騎士の全身を雷撃が貫いた。
☆★☆
「『雷身突破』じゃ!」
儂は言葉と共に、影騎士へと槍を向けた。
この技は加速が必要になるが、ただ投げる場合とは違って当たる直前まで自分で軌道を操作することが出来る。
直線的な攻撃ではない上に速度で相手をかく乱することも出来るので、相手に避けられそうな場合などに使う。
……その分体に負担がかかってしまうが。
ちなみに技名はとある電気ネズミのオマージュじゃ。
槍と一体化し、雷光となった儂は バチバチバチィッ と空気を焼きながら突き進む。
だが――
バキィィィィィィン
握りこんだ槍から硬質な何かを打った感触が伝わる。
「ほう! この速度にも反応したか!」
影騎士は何とブリューナクを盾で受け止めていた。
一瞬の判断か、はたまた勘か。
どちらにせよ防がれたという事実があるのみ。
じゃが、防がれたところで関係ない。
「貫けぇぇぇ!」
儂の加速した体は、その勢いは受け止められたところで止まらない。
騎士が両足で踏ん張っていても、その体を盾の向こう側から押し続ける。
ザザッー
と騎士の体を数メートルほど強引に下がらせた。
それと同時に――
ミシミシ
という音を盾が響かせたのを儂は聞き逃さなかった。
「もう一発!」
ひたすら前へと突き進みながらも体を捻りこみ、さらに槍を前へと押し出す。
次の瞬間 バキャァ と影騎士の構えていた盾が粉々に砕け散った。
そのまま槍は突き進み、騎士の首へと突き進んでいく。
だが――
ガッ
とその刃先が止められる。
騎士が素手の両手で刃を掴み、止めていた。
ジュゥゥゥ
と帯電した刃がその手を焼いていく音が響く。
そこに至り、ようやく勢いが止まる。
[うぉぉぉぉぉ!]
後退も終わり、受け止めていた刃を離し即座に反撃しようと体を動かそうとしてくる騎士が吠え声を上げる。
しかし、儂はそれよりも早く魔法陣を展開していた。
「残念じゃが、チェックメイトじゃ。騎士」
トン
と軽く、儂の足元から生えた魔力腕が騎士の無防備な腹を押す。
攻撃とさえ言えないほどの軽い威力。
本来ならばなんていうことのないそれが、騎士の体勢を崩す。
理由は2つ。
1つは騎士が消耗していたこと。
2つ目は――騎士の後ろに床が存在しなかったためだ。
[これは先程の主の!?]
そう、それはドラキュラ伯爵の放った巨大な刃が穿ったクレバスじゃ。
そして、その下には――
「行くぞ! アヤ!」
「おう! 来やがれチクショウ!」
割れ目の下から声が聞こえてきたと同時に、儂は体勢を崩して落ちようとしていた騎士を上からブリューナクで殴り、階下に叩き落とした。
☆★☆
クッソ、スズの奴めこんな作戦思いつきやがって。
あぁ、チクショウ。
地上何メートルだよここ、落ちたらさすがに死ぬんじゃね?
オレはそんなことを考えながら、空中に作られた魔法陣の足場の上に立っていた。
その時、上から声が聞こえてきた。
「行くぞ! アヤ!」
「おう! 来やがれチクショウ!」
ヤケクソ気味に答えた次の瞬間、上空から黒い塊が叩き落されてきた。
「いくぞコラ! 怖ぇーからとっとと済ますぞ抵抗すんなよ!」
空中に出来た足場を踏切り、宙へと舞うオレの体。
手には金色の鎖分銅が巻き付けてある。
即席のメリケンサックみたいなもんだ。
そのままオレの体と影騎士の体が交差する。
瞬間――
「オォラァッ!」
オレの拳が影騎士の顔面を殴りつけた。
[ゴガッ!]
呻き声を上げて再び宙へと跳ね上げられる影騎士。
しかし、その体を追い越しオレはその先にある足場へと着地する。
先程とは逆に眼下に見下ろす影騎士の体に向かって再び足を踏み切る。
「オラァッ!」
再びオレ達の体は交差し、殴り飛ばす。
だが、またもや追い越し空中の足場に着地する。
この一帯にはスズが作ってくれた足場が無数に存在する、足場には困らない。
そして、この鎖で殴ることで影の体を徐々に削り取っていっているのを感じる。
僅かではあるが、魔力と影が体に戻ってきている。
最初スズから「硬い敵などハメてしまえばいいんじゃ」って聞かされた時は頭おかしいんじゃねぇかと思ったが、このまま続ければ確かに何とかなりそうだ。
でも――
「やっぱ高すぎるんだよ! チクショウ!」
オレって高所恐怖症だったのかよ!
今更知りたくもない事実だったよ!
オレは泣き目になりながら空中を跳んで、影騎士を殴り続ける。
騎士の体がすべて消え去り、オレがこの状況から解放されたのは数分後のことだった。
☆★☆
「さて、まだ続けるつもりなのか? 勇者」
「……当ったり前だろ……まだ、勝負はついていねーぞ」
2人の男が言葉を交わす屋上。
しかしそこは見るも無残に荒れ果てていた。
床にはいくつもの穴や裂け目が出来ており、下の階まで見える。
屋上を取り囲んでいたフェンスも破けたり、外れるなどしていた。
そしてそれらよりも悲惨なのが2人の男のうちの片方。
着ていたスーツはボロボロに破け、土埃にまみれている。
その下の肌からは至る所から血が流れ、ワイシャツを赤く染めている。
特に左手には大きな切り傷があり、だらんとぶら下がっている。
頭からも血が流れており、それが目に入るようでしきりにふき取っていた。
『B&Bトラブルバスターズ』所長にして元勇者。
師里アキラだった。
対するドラキュラ伯爵は全くの無傷。
疲労の影すら見えない。
「そうか。だが、いたぶるのにも飽きた。
一思いに殺してやろう」
そう言うや否や、ドラキュラ伯爵の右手に魔力が収束し始める。
「クッ!」
それを何とか避けようと足に力を込めるアキラ。
だが――
ガクッ
その足が意思とは無関係に崩れ落ちる。
ダメージが大きすぎたのだ、まともに動くことすらできない。
「さらばだ勇者!」
「ッ!」
ドラキュラ伯爵の右手が振りあげられる。
アキラは耐えるように頭を腕で庇い、歯を食い縛った。
その時――――
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
上空からそんな声が聞こえてきたかと思うと――
ドォォォォォン
と屋上に何かが墜落した。
墜落したそれを中心に土煙が巻き上がる。
思わず、伯爵とアキラの動きが止まった。
2人の視線は、突然の乱入者に向けられる。
「アイタタタ。何が痛くないよ、痛いじゃないのよ」
土煙の向こうから聞こえてきたのは女性の声。
伯爵はそれに怪訝な表情を浮かべ、アキラは信じられないといった表情を浮かべた。
ピュー と屋上に風が吹き土煙を晴らした。
そこには――
「あとで絶対文句言ってやる!」
キリッ とメリハリの効いた顔立ちをした少女。
杜宮高校のセーラーブレザーの制服を着て、肩までの髪は頭の後ろの高い位置でまとめてある。
なぜだかその姿に似合わない鍔のない剣を片手に持っている。
「ていうか、あのバカはどこだぁぁぁ!
同じ目に合わせてやる!」
その少女が怒りを露わに叫び声をあげた。
師里レイ。
アキラの実妹の登場であった。
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